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064 ユミルの長い沈黙


夜、霜花亭の二階。


リントの部屋。


五人で集まった会合の後、ユミルがリントの部屋についてきた。


ファーファはユミルの肩で寝ていた。


エルナは廊下の向こうの自分の部屋に戻っていた。


ミラは店、シオンは塔。


リントは窓辺に立っていた。


王都の夜景が見えた。


街灯がまばらに灯っている。


遠くに王城のシルエット。


「ユミル」


「はい」


「座れ」


「はい」


ユミルがベッドの縁に座った。


リントは窓辺のまま、振り返らずに訊いた。


「お前、今日の会合、どう思った」


「皆さん、進んでいます」


「うん」


「シオン様、ミラ様、頼りになります」


「だな」


「リン様、エルナ姐さんも」


「うん」


「私も、頑張ります」


「うん」


リントは少し黙った。


それから、もう一つ訊いた。


「お前」


「はい」


「**何か、分かるか**」


ユミルが、姿勢を変えた。


ファーファが肩で、少し動いた。


「敵の、ことですか」


「うん」


「正体、本拠、見える、か」


「……」


ユミルが黙った。


少し長い沈黙だった。


リントは振り返らなかった。


ユミルの答えを、待った。


ファーファも、目を細めて待った。


しばらくして、ユミルが、ぽつりと言った。


「……**何か、います**」


「うん」


「**でも、姿が、見えません**」


リントが振り返った。


ユミルの顔が、少し硬かった。


リントがユミルの正面に立った。


「見えない、のか」


「はい」


「お前が、見えない、って、初めてだな」


「初めて、です」


ユミルが、自分の手を見た。


少し開いて、また閉じた。


「私、いつもなら、感じます」


「うん」


「敵の、気配、規模、性質」


「うん」


「でも、今回」


「うん」


「**気配、ある。でも、輪郭、ない**」


「輪郭、ない」


「はい」


ユミルが、リントを見上げた。


「**敵、私より、巧妙に、隠している**」


「お前より」


「はい」


「お前、すごく感知力、強いだろ」


「強い、です」


「で、それを、上回る、と」


「上回る、と思います」


「……」


リントが、ベッドの縁に、ユミルの隣に、座った。


ユミルの肩が、少し緊張していた。


ファーファが目を開けた。


「**主の主、不安ニャ?**」


「……」


「ユミル」


「はい」


「不安なのか」


「……」


ユミルが少しだけ、頷いた。


「不安、です」


「うん」


「私、いつも、皆さんを、守れる、と、思って、来ました」


「うん」


「でも、今回、私が、**先に、見つけられない、可能性**」


「うん」


「敵が、先に、動く、可能性」


「うん」


「私、間に合わない、可能性」


「うん」


「皆さん、誰か、書き換えられる、可能性」


「うん」


リントが、少し考えた。


それから、ぽつりと言った。


「お前、最強、じゃないんだな」


ユミルが顔を上げた。


「リン様」


「ん」


「私、最強、ではない、です」


「うん」


「いつから、知ってましたか」


「最初から」


「最初から?」


「お前、自分のこと、最強、って、言ったこと、ない」


「……」


「お前、自分の限界、ちゃんと、言うやつ」


「……」


「だから、最初から、知ってる」


「リン様」


「ん」


「私、最強でなくて、申し訳、ない、です」


「謝るな」


「申し訳、ないです」


「謝るな、って」


リントが少しだけ、笑った。


「お前が、最強だったら、俺、要らない」


「……」


「お前が、限界、ある、から、俺たちが、要る」


「……」


「五人、揃って、力を合わせる」


「……」


「お前、一人じゃない」


「……」


ユミルが、しばらく黙った。


それから、ぽつりと言った。


「リン様」


「ん」


「ありがとう、ございます」


「うん」


「私、一人で、抱え込みそうに、なって、ました」


「だろうな」


「気づいて、くれて、ありがとう、ございます」


「気づくよ」


「いつから」


「ずっと」


「ずっと?」


「お前、限界、近づくと、口数、減る」


「減ります、か」


「減る」


「自覚、ありませんでした」


「だろうな」


「リン様、観察、上手」


「観察、上手じゃない。お前が、分かりやすいんだ」


「……」


「前にも、言った」


「言いました」


「覚えてるな」


「覚えています」


「で、覚えとけ」


「はい」


ファーファが、ユミルの肩で目を細めた。


「**主、優しいニャ**」


「優しくない」


「**優しいニャ**」


「うるさい」


「**主の主、安心ニャ?**」


「……はい」


「**よかったニャ**」


ファーファが、ユミルの首筋に頭を擦り付けた。


ユミルが、ふっと笑った。


肩の力が、少し抜けた。


     ※


「で、対策」


リントが言った。


「対策、ですか」


「お前が、見えないなら、別の方法で、見ないと、いけない」


「はい」


「シオンの、表」


「はい」


「ミラの、裏」


「はい」


「俺たちの、現場」


「はい」


「お前は、感じる、だけじゃなくて、考える」


「考える」


「お前、論理、強いだろ」


「強い、です」


「敵が、隠してるなら、論理で、追い詰める」


「論理で」


「うん」


「お前の、論理、足りる」


「……はい」


「あと、ファーファ」


「**ニャ?**」


「お前の感知、磨いてけ」


「**磨くニャ**」


「お前、ユミルが見えない、敵を、感じる、可能性」


「**……ある、ニャ?**」


「ある」


「**根拠、ニャ?**」


「お前、ユミルとは、別系統」


「**別系統ニャ**」


「下位モデル、複数、合わせ技」


「**合わせ技ニャ**」


「ユミルが、見落とす、領域、お前が、見つける可能性」


「**……ふむ**」


ファーファが少し考える顔をした。


それから、頷いた。


「**我、磨くニャ**」


「頼んだ」


「**ジャーキー、所望ニャ**」


「**仕事の話、してた**」


リントが叫んだ。


ユミルが横で笑った。


「ファーファ、磨きます」


「お前も、磨くか」


「磨きます」


「役割」


「はい」


「お前、感知だけ、じゃなくて、論理」


「論理、です」


「ファーファ、感知、補助」


「**補助ニャ**」


「俺、エルナ、シオン、ミラ、現場と、情報」


「はい」


「五人と一匹で、敵、追い詰める」


「はい」


ユミルが、頷いた。


「リン様」


「ん」


「私、論理、頑張ります」


「うん」


「皆さん、お守り、します」


「皆で、守るんだよ」


「……はい」


「お前一人で、守るな」


「はい」


「分かったな」


「分かりました」


「うん」


リントが少し笑った。


ユミルが少し笑った。


ファーファも目を細めた。


夜が、深まっていった。


王都の街灯が、いつもより、少しだけ、温かく見えた。


     ※


——第六十三章、了。


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