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058 シオンの理論


数日後の午後。


宮廷魔法塔。


シオンの研究室。


リントとユミルが招かれていた。


エルナはギルドで別件の打ち合わせ。


ミラは店。


「狭い、ですね」


ユミルが部屋を見回した。


書架がぎっしり。


机の上は紙の山。


床にも紙束。


歩く隙間が辛うじてあった。


「すみません、整理が追いついていなくて」


「いえ、好きです」


「好き、ですか」


「本、いっぱい、好きです」


シオンが少し嬉しそうな顔をした。


リントが横で苦笑した。


「お前、こういうの好きだよな」


「好きです」


「なんとなく、知ってた」


「リン様、観察、上手です」


「観察、上手じゃないんだよ。お前が分かりやすいんだ」


「私、分かりやすいですか」


「分かりやすい」


「……記憶しておきます」


「記憶するな」


ユミルがほんの少し首を傾げた。


シオンがそれを見てふっと笑った。


「お二人、息、合っていますね」


「合ってない」


「合っています」


リントとユミルが同時に答えた。


シオンの肩が少し揺れた。


「合っています」


「合ってない、って」


「合っています、って」


「ユミル、お前、譲らんな」


「事実です」


シオンが声を出して笑った。


ファーファがユミルの肩で目を細めた。


「**主の主、勝ちニャ**」


「ありがとう、ございます」


「**主、負けニャ**」


「お前、味方しろよ」


「**事実、大事ニャ**」


「お前まで」


リントが息を吐いた。


ユミルが小さく笑った。


     ※


「で、シオン、本題」


リントが促した。


「はい」


シオンが机の紙束を整えた。


一枚を取り出した。


魔法陣の図。


複雑な多重円。


文字と記号が、びっしり。


「ユミルさんの魔法、見ていて」


「はい」


「私、考えていたことがあります」


「お聞きします」


「現代の魔法体系、私たちが学んでいるもの、これは……」


シオンが息を整えた。


「**完全では、ありません**」


ユミルが少し顔を上げた。


「……ほう、です」


「現代の体系、効率悪い」


「うん」


「魔力の流れ、無駄が多い」


「うん」


「もっと合理的な設計が、可能なはず」


ユミルがじっと聞いていた。


リントは横で腕を組んだ。


「合理、出てきたな」


「合理、です」


「ユミル、刺さるんじゃないか」


「刺さっています」


「だな」


シオンが続けた。


「私の仮説、まず魔力の流れ」


「うん」


「魔法陣、円の重ね方が現代では固定」


「はい」


「でも、流れに合わせて変えるべき」


「変える」


「魔力の方向、強度、流れ、それぞれに合わせて、円の配置を最適化」


「最適化」


「これが、第一の仮説」


ユミルが頷いた。


「正しい、です」


シオンが目を輝かせた。


「正しい、ですか」


「はい」


「証拠、ありますか」


「あります」


「えっ」


「私の魔法、それで設計しています」


「えっ!?」


シオンが立ち上がりかけて、座り直した。


リントが横で笑った。


「シオン、落ち着け」


「落ち着けません」


「だろうな」


シオンが続きを促した。


「第二の仮説、魔法陣の層」


「うん」


「現代では、単層が基本」


「はい」


「多層化、可能なはず」


「正しい、です」


「やっぱり!」


「私のファイアウォール、多層です」


「ですよね!」


シオンが拳を握った。


「ですよね、って言ったな」


「言いました」


「研究者、口調が剥がれてんぞ」


「失礼、しました」


シオンが咳払いをした。


「第三の仮説、魔力の再利用」


「うん」


「使い捨てではなく、循環」


「循環、いいです」


「正しい、ですか」


「正しい、です」


「やった!」


「やった、って」


「失礼、しました」


シオンが何度目かの咳払いをした。


リントが横で笑いを噛み殺した。


ユミルがそれを見て少し笑った。


「シオン様、楽しいですか」


「楽しいです」


「素直です」


「素直です」


「いい、です」


ユミルが頷いた。


シオンがほっとした顔をした。


     ※


シオンが理論の続きを語った。


魔力の効率、多層化、循環、結界の構造、攻撃魔法の最適化。


ユミルが時々頷き、時々短く補足した。


「シオン様、第四の仮説の結界の話」


「はい」


「層の、間隔」


「間隔?」


「等間隔ではなく、外に行くほど広く」


「ああ……、そうか」


「理由、考えてみてください」


「えーと……、外側ほど衝撃を受け止める範囲が、広い」


「正しい、です」


「等間隔だと、外側の層が最初に飽和する」


「正しい、です」


「外側ほど広く間隔取ることで、受け止め、分散」


「正しい、です」


「合っていた、ですか」


「合っています」


「やった……!」


シオンが机に突っ伏した。


「シオン、感極まってんな」


「感極まっています」


「真面目だな」


「真面目です」


ユミルがそれを見て、また少し笑った。


ファーファが目を細めた。


「**シオン、勉強好きニャ**」


「勉強、好き、です」


「**主の主、教育、上手ニャ**」


「教育していません」


「**自然、ニャ?**」


「自然です」


「**主、聞いたかニャ**」


「聞いた」


「**主の主、いい先生ニャ**」


「先生では、ありません」


「**先生ニャ**」


シオンが顔を上げた。


「ユミルさん、本当、先生みたいです」


「先生では、ありません」


「では、何ですか」


「……同じ世界に、興味がある人」


「いいですね、それ」


「はい」


ユミルが頷いた。


リントが横で頷いた。


「ユミル、お前、今のはいい言い方だった」


「ありがとう、ございます」


「俺、覚えとく」


「はい」


     ※


「で、シオン、ここで本題」


リントが言った。


「本題?」


「お前の理論、合ってる箇所、何%ある?」


「……」


シオンが緊張した顔になった。


ユミルを見た。


ユミルが頷いた。


「**八十五%、正しい、です**」


シオンが息を呑んだ。


「八十五%」


「はい」


「残り、十五%は」


ユミルが少し黙った。


それから静かに言った。


「**……いずれ、お話しします**」


「いずれ?」


「はい」


「いつ、ですか」


「……いずれ、です」


「気になります」


「いずれ、です」


「気になります……!」


シオンが机に額をつけた。


「シオン、お前、可哀想だな」


「可哀想、です」


「ユミル、もう少しヒント」


「……」


「ヒント?」


ユミルが少し迷った。


それからぽつりと言った。


「シオン様の理論、進めてください」


「はい」


「進めれば、自然に見えてきます」


「自分で辿り着け、と」


「はい」


「……でも、答えを知ってる人が目の前にいるのに」


「答えを聞いて辿り着くのと、自分で辿り着くの、違います」


「違います、か」


「違います」


「……はい」


シオンが頷いた。


「分かりました」


「はい」


「進めます」


「はい」


「いつか、追いつきます」


「お待ちしています」


ユミルが小さく笑った。


シオンもふっと笑った。


リントが横で頷いた。


「ユミル、お前、教える時、突き放すよな」


「突き放しています、か」


「突き放してるけど、優しい」


「ありがとう、ございます」


「お前、矛盾してる」


「私、矛盾、好きです」


「初耳だ」


「リン様、新発見です」


「新発見、いらん」


ユミルが少し笑った。


シオンが笑い疲れた顔で椅子にもたれた。


「今日、楽しかったです」


「だな」


「また、お話、聞かせてください」


「はい」


「次、第五の仮説まで進めておきます」


「お待ちしています」


シオンが拳を握った。


「**気になる……!**」


「シオン、まだ気にしてんのかよ」


「気にしています」


「ずっと?」


「ずっとです」


「ご苦労」


ユミルが少し笑った。


シオンが頭を抱えた。


ファーファがユミルの肩で目を閉じた。


「**シオン、研究者、向いてるニャ**」


「向いていますか」


「**……気になって、寝れないニャ?**」


「……」


「**そういう人、研究者ニャ**」


「ファーファ、急に的確だな」


「**たまに、的確ニャ**」


「たまに、頼りになるな」


「**ジャーキー、所望ニャ**」


「**台無しだ!**」


リントが叫んだ。


研究室に笑い声が響いた。


雨はもう上がっていた。


窓から夕日が差し込んでいた。


     ※


——第五十七章、了。


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