053 エルナの過去、再び
午後。
ミラの酒場の奥の個室。
昼間は客が少ない。
五人で集まるにはちょうど良かった。
リント、ユミル、エルナ、シオン、ミラ。
ファーファはユミルの膝で丸くなっていた。
机の上に紋様のスケッチ。
ミラが酒を運んできた。
「真面目な話、するんでしょ」
「うん」
「酒、要るね」
「だな」
ミラが五人分の杯を並べた。
ユミルがファーファの頭を撫でた。
「ファーファ、おとなしく、して、くれます、か」
「**主の主、頼みは、聞くニャ**」
ファーファがユミルの膝で丸くなった。
満足げに目を細めた。
※
「じゃあ、本題」
エルナが杯を持った。
四人を見渡した。
「あたし、もう一回、話す」
「うん」
「霜の剣、三年前、何があったか」
シオンとミラが姿勢を正した。
「ヴェスティアの、遺跡、依頼だった」
「うん」
「五人パーティ。あたし、リーダーじゃない」
「リーダー、誰」
「アスラン。両手剣、四十、ベテラン」
「ベテランか」
「他は、ロイ、剣士。ニノ、弓。ハイラ、魔法。あたし、剣」
シオンが頷いた。
「四人、亡くなった、と」
「うん」
「アスラン、一番にやられた」
エルナの声が低くなった。
「庇ってくれた」
「あんたを?」
「あたしを」
「……」
「ロイが二番目」
「うん」
「ニノ、三番目」
「うん」
「ハイラが最後」
「あんたは」
「**気絶**してた」
「気絶」
「アスランの血、浴びて、頭打って」
「……」
「気がついたらハイラが倒れて、敵、いなかった」
ミラが息を吐いた。
「あんた、それ、ずっと抱えてた」
「うん」
「あたしだけ、生きてた」
「……」
「**なんで、あたしだけ**」
エルナの杯が机の上で止まっていた。
ユミルが静かに見ていた。
ファーファも目を細めてエルナを見ていた。
「**主の主**」
「……ニャ?」
「**この姐、悲しいニャ**」
「……はい」
「**慰めるニャ?**」
「……はい、お願い、します」
ファーファがユミルの膝からエルナの膝へ飛び移った。
エルナが驚いて顔を上げた。
ファーファがエルナの膝で丸くなった。
「……ファーファ?」
「**慰めニャ**」
「……あんた」
「**撫でるが、よいニャ**」
エルナがふっと笑った。
「あんた、本当、図々しいね」
「**慰めニャ**」
エルナがファーファの頭を撫でた。
ファーファがごろごろ鳴いた。
エルナの目が少しだけ潤んだ。
「……ありがと」
「**ジャーキー、所望ニャ**」
「**お前、それ、慰めじゃねーだろ**」
リントが叫んだ。
エルナが声を出して笑った。
涙は流れなかった。
※
「シオン、ミラ」
「はい」
「うん」
「あんたら、調べてくれる?」
「もちろん」
「無論」
ミラが続けた。
「霜の剣の事件、ヴェスティアの遺跡、関係する記録」
「裏のチャネルで」
「全部、漁る」
シオンが頷いた。
「私、王立記録、引き続き」
「ありがと」
「三年前、ヴェスティア近郊、何があったか」
「うん」
「気をつけて、調べます」
エルナが頭を下げた。
「あたし、自分じゃもう無理」
「無理?」
「思い出すと、辛い」
「うん」
「あんたらに、任せたい」
「任せて」
「うん」
リントが横で頷いた。
「俺たちで追う」
「ありがと、リント君」
「ユミルも、いるしな」
「……はい、私も、お手伝い、します」
エルナが頷いた。
「みんな、ありがと」
※
夕方になった。
酒場の客が増え始めていた。
ミラが立ち上がった。
「あたし、店、見る」
「ありがと」
「シオン、塔戻る?」
「はい、夜まで」
「リント、ユミル、エルナは」
「霜花亭、戻る」
「だね」
エルナが伸びをした。
「今日、話して、楽になった」
「そう?」
「うん」
「あんた、たまには、吐き出しな」
「うん」
ミラがエルナの肩を軽く叩いた。
「五年来の、ダチ、だろ」
「だね」
「いつでも、来な」
「うん」
シオンが頭を下げた。
「私も、力に、なります」
「ありがと、シオン」
「いえ」
ファーファがエルナの膝からユミルの肩に飛び移った。
ユミルが慎重に肩で受け止めた。
ファーファはユミルの肩で丸くなって、すぐに目を閉じた。
※
——第五十二章、了。




