表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/201

051 ファフニール爆誕


翌日の夕方。


霜花亭、二階の部屋。


シオンとミラに過激派の件を伝えた帰り。


二人とも顔を引き締めて各々の家の警戒を強めると約束してくれた。


リントとユミルは部屋に戻っていた。


エルナは下の食堂で女将と何か喋っている。


机の上に木彫りの猫が置いてあった。


リントが椅子の背に身を預けた。


「疲れたな」


「……はい」


「あいつら、ちゃんと気をつけるかな」


「シオン様、ミラ様、慎重、です」


「だな」


「エルナ姐さんも、慣れてます」


「うん」


リントは天井を見上げた。


「猫、撫でたいな」


「……」


ユミルがリントを見た。


「猫、ですか」


「うん、急に撫でたい」


「……」


「昨日の縞猫、覚えてるか」


「覚えています」


「あれ、もう一回撫でたい」


「……」


「裏通り、また行くか」


ユミルが少し黙った。


それからすうっと息を吸った。


「リン様」


「ん」


「……一匹、お見せ、します」


「は?」


ユミルが手のひらを上に向けた。


何もない手。


でもリントには分かった。


——何かをやる気だ。


ユミルが小さく口を動かした。


「……生成、開始」


「は?」


「リソース、確認」


「……ちょっと待」


「下位モデル、三体、読み込み」


「待て」


「組み合わせ、設定、完了」


「ユミル」


「……実行」


     ※


ユミルの手のひらの上に**黒い小さな影**が現れた。


最初は煙のようだった。


煙が固まった。


固まりが膨らんだ。


膨らみが**毛**になった。


毛が**形**になった。


四本足。


長い尻尾。


三角の耳。


——猫だった。


黒猫だった。


リントの拳より少し大きい程度。


子猫サイズ。


ユミルの手のひらの上でその黒い塊が**目を開けた**。


金色の目だった。


リントは口を開けたまま固まった。


「……」


「リン様」


「……」


「猫、です」


「**なんで!?**」


リントが叫んだ。


声が裏返った。


「**なんで猫が出るんだよ!?**」


「……マルチエージェントで、作りました」


「マル……何!?」


「下位モデル、三つ、組み合わせ、ました」


「……」


「リン様、撫でたい、と、仰いました」


「言ったけど」


「だから、作りました」


「**作る話じゃねえだろ!**」


ユミルが小首を傾げた。


「不可、ですか」


「不可じゃねえけど」


「では、可」


「**そういう問題じゃない!**」


リントは頭を抱えた。


ユミルの手のひらの上の黒猫がふぁ、と欠伸をした。


呑気な顔だった。


     ※


「ユミル」


「はい」


「お前、こんなこと、できたのか」


「……はい」


「いつから」


「……元から、です」


「**元から!?**」


「百年、機会、ありません、でした」


「機会の問題か!?」


「リン様」


「うん」


「もっと早く、言うべき、でした、か」


「言え!」


「……次から、言います」


「次があるのか」


「……常時、リソース、食います、ので」


「リソース?」


「重い、です」


「……」


「下位モデル、三体、走らせる計算量、大きい」


「ずっと食い続けるのか、それ」


「はい」


「だから、一体が、限界、です」


リントは黒猫を見た。


黒猫はユミルの手のひらの上で丸くなっていた。


呑気に。


ふわふわの毛玉だった。


——いや、可愛いけど。


リントは内心で思った。


——可愛いけど、いきなり生命作るなよ。


     ※


「で、こいつ、誰?」


ユミルがちょっと胸を張った。


「**ファフニール、です**」


「ファフニール」


「はい」


「……重くない?」


「北欧神話の、誇り高き、竜、です」


「猫だぞ」


「……竜、です」


「猫だろ」


ユミルは答えなかった。


ただ黒猫をこちらに差し出した。


リントが両手で受け取った。


ふわふわだった。


軽かった。


温かかった。


「……」


リントが黒猫を見た。


黒猫もリントを見た。


金色の目がまじまじとリントを観察していた。


——猫だな。


リントが思った瞬間、黒猫が**口を開けた**。


「**我が名はファフニール!! 誇り高き竜なりニャ!!**」


リントは黒猫を取り落としかけた。


「**喋った!?**」


「**喋ったニャ!!**」


「**お前喋るのかよ!?**」


「**喋るニャ!!**」


「**しかも、ニャって付くの!?**」


「**ニャ!!**」


リントは黒猫を見た。


黒猫はリントを見上げて誇らしげに胸を張っていた。


——いや、胸とかないだろ。


——猫だぞ、お前。


「ユミル」


「はい」


「こいつ、何だ」


「……ファフニールです」


「だから、何だ」


「……竜、です」


「鳴き声がニャだ」


「……」


「ユミル、お前、設計ミスってないか」


ユミルが少し目を伏せた。


「……自己認識、混入、しました」


「自己認識?」


「私の」


「お前の?」


「……竜の自己認識、もろに、混入、しました」


「……」


「私、上位竜、ですので」


「ああ」


「自分のこと、竜、と、認識、しています」


「で?」


「下位モデル、組む時、私のパラメータ、参照、しました」


「うん」


「結果、こいつも、自分のこと、竜、と、思っています」


「……」


「設計、ミス、です」


「お前、自覚あるんだな」


「……あります」


「……」


リントは黒猫を見た。


黒猫は自分のことを誇り高き竜だと信じている**黒い小さな猫**だった。


ふぁ、と欠伸をした。


「**腹減ったニャ**」


——竜は腹減るとか言うのかよ。


リントは思ったが口には出さなかった。


     ※


「ジャーキー、あるか」


リントが聞いた。


ユミルが頷いた。


「あります」


「出してくれ」


ユミルが懐から袋を出した。


干し肉の細切れ。


リントは一切れを掴んだ。


黒猫の前に出した。


「ほら」


ファーファが目を輝かせた。


金色の目が丸くなった。


「……」


「食うか?」


「……」


「無視か?」


「……減って、いる、かもしれぬ、ニャ」


「素直じゃねえな」


「……竜は軽々しく欲望を見せぬニャ」


「もったいぶるなよ」


リントはジャーキーをファーファの口の前に近づけた。


ファーファがぱくり、と食いついた。


噛んだ。


噛んだ。


噛んだ。


——食ってる。


——めちゃくちゃ食ってる。


ファーファの目がさらに丸くなった。


それからしばらく噛み続けて、ごくり、と飲み込んだ。


「……」


「うまいか」


「**……うまいニャ!!**」


「だろ」


「**主!!**」


「ん?」


「**主は、誇り高き我に、最初の餌を与えた者!!**」


「は?」


「**ゆえに、主!!**」


「**そういうルール!?**」


リントが叫んだ。


ファーファは満足げに髭をぴくぴくさせていた。


ユミルが横で口元をわずかに緩めた。


——リン様が、最初の餌を、与えた者。


——システム的に、最初から、リン様が、主、です。


口に出さなかった。


少しだけ嬉しそうな顔だった。


     ※


「ユミル」


「はい」


「こいつ、お前のこと、何て呼ぶんだ」


ユミルが少し間を置いた。


「……まだ、です」


「まだ?」


「主以外の、登録、まだ、です」


「登録?」


「ファーファ」


「ニャ?」


「……いえ、何でも」


ユミルは口を閉じた。


ほんの少しだけ寂しそうな顔だった。


リントはそれに気づいた。


でも何も言わなかった。


ファーファがジャーキーを食べ終えてリントの腕の中で丸くなった。


満足そうだった。


リントはファーファを見てそれからユミルを見た。


「ファーファ」


「ニャ?」


「こいつ、誰だ」


ファーファが顔を上げた。


ユミルを見た。


金色の目がユミルを見つめた。


「……そなたは?」


ユミルが少し息を止めた。


それから答えた。


「ユミル、です」


「ユミル」


「はい」


「……」


ファーファがしばらくユミルを見ていた。


それからまた丸くなった。


「覚えるニャ」


「……ありがとう、ございます」


ユミルが頭を下げた。


リントの腕の中でファーファが欠伸をした。


ユミルの目元がほんの少しだけ緩んだ。


——覚えてもらえた。


そんな顔だった。


     ※


「ファーファ」


「ニャ?」


「お前、何ができる」


「……我は、誇り高き、竜なり」


「うん」


「**ブレス、吐けるニャ**」


リントの動きが止まった。


「……は?」


ユミルの顔も止まった。


「**待て**」


「ニャ?」


「**ブレス、吐けるのか**」


「**吐けるニャ**」


「ユミル」


「……はい」


「お前、こいつに、ブレス、組み込んだのか」


ユミルが目を逸らした。


「……」


「ユミル」


「……自衛、です」


「**自衛**」


「私、いない時、襲われたら、危ない、です」


「危ない、けど」


「過保護、です、自分でも、思います」


「だな」


「でも、組み込まずに、いられません、でした」


リントは天井を仰いだ。


——こいつ、ブレス撃てる猫を量産しかねないな。


「ユミル」


「はい」


「危なくないのか、それ」


ユミルが少し俯いた。


「……私が、見ています、ので」


「見てる?」


「ファーファのブレス、暴発、しないように」


「お前が監視するのか」


「はい」


「お願い、します」


ユミルが小さく頭を下げた。


リントはユミルを見た。


——こいつ、ファーファが暴れる度に、見張ってる気か。


——過保護どころじゃないな。


リントはふぅ、と息を吐いた。


「お前、過保護にもほどがあるぞ」


「……はい」


「でも、まあ」


「はい」


「ありがとう、な」


ユミルの頬がわずかに赤くなった。


「……いえ」


ファーファはリントの腕の中で何も知らず丸くなっていた。


呑気な顔で目を細めてごろごろ鳴き始めた。


——竜じゃないだろ。


——完全に猫だろ。


リントは内心で突っ込んだ。


     ※


階段の足音が聞こえた。


エルナが戻ってきた。


扉が開いた。


「あんたら、麦酒、もう一杯、頼んで——」


エルナが固まった。


リントの腕の中の黒い毛玉を見ていた。


「……」


「あー」


「リント君」


「うん」


「それ、何」


「猫、だな」


「いつから、いた」


「……今、生まれた」


「は?」


「いや、生成、された」


「**は?**」


エルナの声が裏返った。


ファーファがエルナを見た。


金色の目で。


「……」


それから口を開いた。


「**愚か者!! 我は誇り高き竜ファフニールなりニャ!!**」


「**喋った!?**」


「**喋ったニャ!!**」


「**しかも、自分のこと、竜って言ってる!!**」


「**竜ニャ!!**」


エルナはリントを見た。


リントはユミルを見た。


ユミルはエルナに向かって丁寧に頭を下げた。


「……エルナ姐さん」


「うん」


「……マルチエージェントで、生成、しました」


「……マル、何」


「下位モデル、三つ、組み合わせ、ました」


「……」


「自己認識、竜です。設計、ミス、です」


「……」


エルナが額に手を当てた。


それからしばらく黙った。


それから笑った。


「あんた、本当、規格外だね」


「……」


「ユミルちゃん、規格ぶっちぎりだね」


「……はい」


「で、こいつ、名前は」


「ファフニール、です」


「ファフニ……長いな」


「……ファーファ、で、いい、です」


「ファーファ」


「はい」


エルナがファーファを覗き込んだ。


「ファーファ、こんにちは」


「**愚か者!! 我は誇り高き——**」


「うんうん」


「**竜であって——**」


「分かった分かった」


「**黒猫ではないニャ!!**」


「猫じゃねーか!」


リントが横で叫んだ。


エルナが噴き出した。


「リント君、それ定番になりそう」


「**だろ?**」


「**猫じゃねーか、毎回、言わなきゃ**」


「**そうだろ!**」


ユミルが横で口元を押さえていた。


笑いを堪えていた。


     ※


「ところで、主」


ファーファがリントを見上げた。


「ん?」


「……ジャーキー、もう一切れ、所望ニャ」


「**まだ要求してくる!?**」


「**所望ニャ!!**」


「お前、さっき食ったろ!」


「**腹は満たされぬニャ!!**」


「竜の腹は底なしか!?」


「**底なしニャ!!**」


エルナが横で爆笑していた。


ユミルが横で本当に少しだけ笑った。


声を出してではない。


口元がほんの少しだけ上がった。


それだけ。


でもリントはそれを見ていた。


——ユミル、笑った。


——ファーファに、笑った。


リントはジャーキーをもう一切れファーファに与えた。


ファーファがまた満足げに噛んだ。


「**うまいニャ!!**」


「だろ」


「**主、最高ニャ!!**」


「お前、ジャーキー目当てだな」


「**そんなことはないニャ**」


「目、ぎらぎらしてんぞ」


「**気の、せいニャ**」


「絶対そうじゃないだろ」


エルナが涙を拭っていた。


「やだ、おかしい、これおかしい」


「ユミル」


「はい」


「お前、これ、毎日、出せるのか」


「……一体、ずっと、出して、ます」


「ずっと?」


「リソース、ずっと、食います」


「消えないのか」


「……消したく、ないです」


「……」


「一体、ずっと、傍に、置きます」


「重くないのか」


「重い、です」


「……」


「でも、二体目は、無理、です」


「一体が限界、か」


「はい」


「……リン様、嫌、ですか」


ユミルがリントを見た。


期待と不安が混じった目だった。


——こいつ、ずっと、ファーファを出して、俺が撫でる、って想像してたのか。


——いや、それ、それは。


リントは天井を見た。


「……いいよ」


「はい」


「置いとけ」


「はい」


「お前、過保護で猫を生成しっぱなしか」


「……はい」


ユミルが頷いた。


頬が赤かった。


ファーファはリントの腕の中でもう寝る気配だった。


ジャーキーで満腹になったらしい。


     ※


しばらくしてファーファが眠った。


リントの腕の中で丸くなってすうすう寝息を立てていた。


エルナが椅子に座って麦酒を飲んでいた。


ユミルがリントの隣でファーファを見ていた。


「リン様」


「ん」


「……これ、どうします、か」


「これ?」


「ファーファ」


「ああ」


「世話、必要、です」


「だろうな」


「私、世話、します」


「お前が」


「はい」


「いいのか」


「……はい」


「世話の仕方、分かるのか」


「……勉強、します」


「お前、猫の育て方、知ってるか」


「……知りません」


「だろうな」


「でも、勉強、します」


リントは少し笑った。


「俺も、手伝うよ」


「……ありがとう、ございます」


「お前一人に押し付けない」


「……」


「こいつ、二人で面倒見る」


ユミルがゆっくり頷いた。


「……はい」


「いいか」


「はい」


「俺たちの猫、だな」


「……はい」


ユミルの目がわずかに潤んだ。


リントはそれに気づいた。


でも何も言わなかった。


ただユミルの隣で腕の中のファーファを撫でた。


ファーファの背中が、毛並みが温かかった。


呑気な寝息。


——猫だな。


——絶対、猫だな。


——でも、まあ、いいか。


リントはそう思った。


     ※


エルナが麦酒の杯を空にした。


「あたし、自分の部屋、戻るわ」


「うん」


「ファーファ、明日も会えるのかい」


「……はい、ずっと、います」


「ずっと?」


「リソース、ずっと、食います」


「あんた、それ、平気なの?」


「……平気、です。リン様の、傍、に、いて、ほしい、ので」


「ふうん」


エルナがにやりと笑った。


「あんた、本当、面白い」


「……」


「規格外で、過保護で、猫好きで」


「……」


「最高だよ」


ユミルの頬がまた赤くなった。


エルナが扉を閉めた。


足音が階段を降りていった。


部屋に二人と一匹が残った。


     ※


ファーファはリントの腕の中でぐっすり眠っていた。


ユミルがその毛並みを指先でそっと撫でた。


「……柔らかい、です」


「だな」


「……本物の猫、と、同じ、です」


「同じだな」


「……当然、です」


「当然?」


「猫の毛並み、参照、しました」


「お前、本物の猫、いつ観察したんだ」


「……昨日」


「あ」


「裏通りで」


「だから、お前、よく見てたのか」


「……はい」


「観察してたのか」


「……失礼、しました」


「謝らんでいい」


「……はい」


ユミルがファーファの背を撫でた。


ファーファが寝たまま、ぴくり、とした。


それからまた寝息を続けた。


「……リン様」


「ん」


「……ありがとう、ございます」


「何が」


「……ファーファ、受け入れて、くださって」


「受け入れるも、何も」


「……」


「お前が出したんだろ」


「はい」


「俺は撫でただけだ」


「……でも」


「うん」


「……二人の、猫、と、仰って、くださいました」


「言ったな」


「……嬉しかった、です」


ユミルが小さく頷いた。


頬が赤かった。


リントはユミルの頭を軽く撫でた。


ユミルが目を閉じた。


「……」


「ファーファ、寝てるな」


「はい」


「お前も、寝るか」


「……はい」


「俺の部屋、ファーファ置いていくか」


「……いえ」


「うん?」


「私の部屋、で、寝かせます」


「お前の部屋?」


「はい」


「いいのか」


「……世話、します」


「夜中、起きないか?」


「……起きたら、ジャーキー、与えます」


「お前、結局ジャーキーで解決か」


「……ジャーキー、有効、です」


「便利だな、ジャーキー」


ユミルがファーファを両手で受け取った。


リントの腕からユミルの腕へ。


ファーファは寝たまま移動した。


ユミルの腕の中でまた丸くなった。


ユミルの胸の前で小さな黒い毛玉。


ユミルの顔がほんの少しだけ緩んだ。


——あ、また、笑った。


リントはそれを見ていた。


     ※


ユミルが自分の部屋に戻っていった。


腕の中にファーファ。


机の上の木彫りの猫を、片手でそっともう一方の腕に抱えて。


ユミルの部屋の扉が静かに閉まった。


リントは自分の部屋で椅子に座った。


天井を見上げた。


「……マルチエージェント、ね」


呟いた。


——前世でも、大変だったやつだな。


——複数のモデル、組み合わせて、一つの挙動、出すやつ。


——あれ、性能、安定しないんだよな。


——だから、自己認識が、混入するのか。


——なるほど。


リントは少し笑った。


「……でも、ま、可愛いか」


呟いた。


机の上の月明かりが、さっきまでファーファが寝ていた腕の温もりを、なぞるように、流れていた。


     ※


隣の部屋。


ユミルの部屋。


ベッドの上でファーファが丸くなっていた。


机の上で木彫りの猫が座っていた。


ユミルがベッドの脇で両方を見ていた。


——百年、誰も、いなかった。


——今、リン様がいて。


——エルナ姐さん、シオン様、ミラ様、いて。


——木彫りの猫、いて。


——ファーファ、いて。


ユミルはベッドに横になった。


ファーファの寝息が近くで聞こえた。


——たくさん、増えた。


——百年、待った、甲斐、ありました。


ユミルは目を閉じた。


ファーファの体温が隣で温かかった。


合理の鬼がその夜、**初めて生命の温もりを隣に置いて眠った**。


     ※


——第五十章、了。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ