047 新たな遺跡へ
三日後の朝。
王都の東門。
五人、集まった。
リント、ユミル、エルナ、ミラ、シオン。
シオンは宮廷魔法師のローブを脱いで、普通の旅装に着替えていた。
リントが少し驚いた。
「シオン、その格好」
「今日は冒険者として参加、ですから」
「似合う」
「……ありがとう、ございます」
ミラが笑った。
「シオンくん、変装、完璧」
「変装、ですか」
「宮廷魔法師のローブだと目立つ」
「……そうですね」
「今日は普通の冒険者、五人組」
「了解です」
※
馬車を二台、借りた。
エルナが手配、済み。
五人、二台に分乗した。
一台目、エルナとミラとシオン。
二台目、リントとユミル。
「エルナ、それ、嫌がらせ」
ミラが言った。
「何が」
「あたしと二人にする気?」
「三人だろ」
「シオンくん、気を使うから、ほぼ二人」
「……悪かった」
「いや、いいよ。あたし、エルナと話、したい」
「……」
エルナが少しだけ苦笑いした。
三年前の話、かもしれない、とリントは思った。
※
馬車が東門を出た。
街道を東へ。
白蛇の祭壇まで半日。
リントとユミルの馬車の中。
ユミルが窓の外を見ていた。
「リン様」
「ん」
「……遺跡、ヴェスティアの時と違いますか」
「違う?」
「はい」
「どう違うって思う?」
「……規模、大きい、可能性、あります」
「規模」
「三百年前の神隠しの記録、見ましたか」
「見てない、読めない」
「……シオン様、昨日、要約してくれました」
「要約?」
「はい。当時の神隠し、**複数の遺跡**で発生していた」
「……」
「ヴェスティアの遺跡は小規模。白蛇の祭壇は**大規模**」
「……大規模」
「昨日、シオン様、資料で確認」
「……そうか」
ユミルは窓の外を見続けた。
視線が少し真剣だった。
「……警戒、します」
「分かった」
※
道中、リントが魔石を確認した。
六つ、全部、充電済み。
花火!の魔石。
実戦ではカルデアで一度、使っただけ。
今回、使うかもしれなかった。
ユミルがリントの手元を見た。
「リン様」
「ん」
「魔石、大丈夫、です」
「うん」
「それから」
「ん?」
「今日、新しいスキル、試しましょう、か」
「え、新しいの」
「はい」
「いつ用意したんだ」
「……塔の調査の合間に、考えました」
「……あんた、本当、多動性すぎる」
「多動性?」
「じっとしてない」
「……はい、じっとしてない、です」
ユミルが少しだけ微笑んだ。
※
ユミルが小石を三つ、取り出した。
懐から。
いつでも石はそこらで拾えるから、在庫は気にしない。
「今日、増やすスキル、三つ」
「三つ」
「一つ目、**火盾**」
「ひだて?」
「シルド、と、読みます」
「英語」
「……発音、お好きな方で」
「シルドの方が、叫びやすい」
「はい」
「で、効果は?」
「小さな光の壁、リン様が自分の前に出せます」
「……それ、欲しい」
「はい」
「二つ目は?」
「**消**」
「消す?」
「小さな火、風で消せます」
「消火」
「はい。火災、敵の火魔法、対応」
「了解」
「三つ目は?」
「**追風**」
「追い風?」
「リン様の背中を風で押します。走る時、速くなります」
「……便利」
「はい、便利」
ユミルが三つの小石に魔力を注入した。
青白く光った。
それぞれ、光が違う色になった。
「色、違うの?」
「識別、用、です」
「……分かりやすい」
「はい」
※
リントが三つの魔石を受け取った。
「トリガー、ワード」
「シルド、消、追風、です」
「そのまま」
「はい、そのまま」
「試してみる?」
「はい」
リントが一つ目の魔石を掌で握った。
馬車の中、小さな声で。
「シルド」
魔石が青白く光った。
(exec.firewall --size=small --layer=1 --target=empty)
リントの前に小さな光の板が出た。
自分の身長よりも少し小さい。
「……出た」
「はい」
「持続時間は?」
「発動から三十秒」
「短い」
「代わりに、充電、早い、です」
「……なるほど」
ユミルが板を解除した。
「シルド、解除」
(exec.firewall_dismiss)
板が消えた。
「次、消、試す?」
「試す」
「でも馬車の中、火、ないよ」
「……試せません、ね」
「後で試すよ」
「はい」
※
馬車が昼過ぎに止まった。
休憩。
五人、街道の脇で軽い昼食。
ミラがパンを齧りながら言った。
「あと、半日」
「そう」
「夕方、着く?」
「着く」
「到着して、中、入る?」
「入る」
「夜、遺跡、危ないけど」
「ヴェスティアも夜、入った」
「……そっか」
ミラが頷いた。
「でも、無茶、しない?」
「しない」
「危ないなら、撤退?」
「撤退」
エルナが確認した。
「誰かが危ない、と感じたら、即、撤退」
「了解」
「了解です」
「はい」
※
シオンがリントに話しかけた。
「リントさん」
「うん」
「魔石、新しいの、作ってたんですか」
「見てた?」
「……ちらっと」
「ユミルが作った」
「……魔石、私、使えないんです」
「え、なんで」
「宮廷魔法、体系が違います」
「……そうなのか」
「はい。魔石は個人の魔力と繋がって発動」
「うん」
「私の魔力、水晶を介する訓練、受けました」
「別物?」
「別物、です」
シオンが少しだけ残念そうな顔をした。
「便利そうなのに」
「羨ましい?」
「……羨ましいです」
ユミルが横から言った。
「シオン様」
「はい」
「後で、シオン様の体系に合う、別のデバイス、設計、出来るかも、しれません」
「え」
「……検討、します」
「……いつか、お願い、します」
シオンの目が輝いた。
リントはそれを見ていた。
**ユミル、シオンに新しいおもちゃ、作る気だな**。
ユミルの研究者魂が火についていた。
※
馬車が再出発した。
夕方、**遺跡**が見えてきた。
街道から少し外れた丘の向こう。
白い石造りの建物。
半分、朽ちていた。
でも、ヴェスティアの遺跡より**大きかった**。
全長二十メートル以上。
遺跡、というより**神殿**、と言っていい規模。
「……でかい」
リントが呟いた。
「あれが白蛇の祭壇」
ミラが指さした。
「ヴェスティアより大きい」
「大きい」
「三年前の遺跡より?」
エルナが聞いた。
「……大きい」
「……」
エルナの顔が硬くなった。
でも、今回は**震えていなかった**。
三年前の重さを、前よりずっと軽く背負っていた。
※
馬車を遺跡の前で止めた。
御者たちに「一刻半後、戻る。戻らなければ、王都に伝言」と伝えた。
五人、遺跡に向かった。
ユミルが先導。
視線が遺跡を流れた。
「……中、気配、あります」
「どのくらい」
「……濃い」
「……」
「ヴェスティアの時と**同じ種類**」
「……」
エルナが剣を確認した。
リントが弓と魔石を確認した。
シオンが杖を構えた。
ミラが短剣を二本、抜いた。
五人、遺跡の入り口に立った。
アーチの上に古い文字。
ユミルがじっと見た。
シオンも見た。
「……白蛇の祭壇、と古語で」
シオンが言った。
「それだけ?」
「それだけ、です」
「他の文字は?」
「……読めません」
シオンは本当に読めないらしかった。
ユミルは何も言わなかった。
でも、リントは知っていた。
**ユミル、たぶん全部読める**。
でも、読まない。
ユミルが、**読まないと決めている何か**。
※
「行こう」
エルナが言った。
「行こう」
「行きます」
「行く」
「はい」
五人、アーチをくぐった。
遺跡の中。
空気が急に**冷えた**。
古い、古い空気。
**始まるぞ**、とリントは思った。
※
――第四十六章、了。




