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202 大ファサード前広場


街門の前で、衛兵が、リン達を呼び止めた。


布で頭を覆った男だった。長い槍を持っている。腰には湾曲した剣も差していた。槍の先端には、小さな飾り紐が結ばれていて、風に揺れている。


「初めての客か」


「そうだ」


衛兵が、ロバ隊の隊長と短く言葉を交わした。商業ギルドへの紹介状の有無、滞在予定日数、人数の確認。リンは、ローズの紹介状を提示した。衛兵は、紹介状の表裏を確認すると、軽く頷いた。


「商業ギルドで、入街の手続きをしてもらう。それから、宿の手配だ。今、混んでいる。良い宿は、早く取った方が良い」


「分かった」


衛兵は、頷いて、門の脇に下がった。


ロバ隊が、門をくぐった。


---


街の中は、外から見たのとは、まったく違う景色だった。


外から見た時は、岩の塊の表面に窓が並んでいるだけに見えた。しかし、門をくぐった瞬間、街の中に入ったことが分かった。岩の塊の中は、空洞になっていた。岩を削って、内側に、街路と広場と、建物の中身が、作られていた。


街路は、岩の天井の下を、複雑に走っていた。ところどころに、天井の岩を削り抜いた、光の取り入れ口があった。そこから、太陽の光が、まっすぐに、街路に降り注いでいた。光の柱の中で、塵が、ゆっくりと舞っていた。


人が、街路を歩いていた。布で頭を覆った男達、色とりどりの布を巻いた女達、子供達。商人が、店の前で、商品を並べていた。香辛料、布、皮製品、銀細工、金細工。空気には、複雑な香りが、混ざり合っていた。


ファーファが、ロバの背の上で、鼻を、ひくひくさせていた。


「**……主、いい匂いニャ**」


「香辛料だな」


「**……ヴァナールと、違うニャ**」


「ああ。違う」


ユミルも、しばらく、街路の様子を見ていた。


それから、リンの方を見た。


「**……リン様**」


「ああ」


「**……早く、街を見て回りたいです**」


「ほう」


「**……食べ物の屋台を、見たいです**」


「お前、食い物かい」


ユミルは、わずかに、口の端を緩めた。


「**……だって、香辛料の匂いがいくつも混ざっています。これは料理を見ないと、何の組み合わせか分かりません**」


「分かったから、まず宿だ」


「**……はい**」


ユミルは、頷いた。それでも、街路の方を、ちらりと見ていた。


---


ロバ隊が、街の中ほどで、止まった。


「ここで降りてくだせえ。大ファサード前広場は、この先の街路を、真っ直ぐだ」


ロバ使いが、御者台から降りて、リン達の荷を降ろしてくれた。


「世話になった」


「砂漠の街、楽しんでくだせえ」


ロバ使いは、頷いて、自分達のロバの方に戻っていった。


リンは、街路を見渡した。街路は、複雑に分岐していて、どちらに行けば大ファサード前広場に出るのか、すぐには分からなかった。


近くを通った街の住人に、声をかけた。


「大ファサード前広場は、どっちだ」


住人は、布の隙間から、歯を見せて笑った。


「まっすぐ行けば、すぐに開ける。迷うことはない」


「世話になった」


リンは、礼を言って、歩き出した。


ユミルとファーファが、後ろを付いてきた。


街路は、ゆるやかに下っていた。岩の天井が、徐々に高くなっていく。光の取り入れ口の数が、増えていく。街路の先に、大きな空間が、見えてきた。


---


街路の先が、突然、開けた。


岩の天井が、ぱっくりと無くなっていた。


そこは、広場だった。


岩を削って作られた、円形の空間。広場の直径は、ヴァナールの市場より、ずっと広かった。広場の床は、岩を平らに削った石畳になっていて、足音が、よく響く。広場の周囲には、岩を削って作られた建物の正面が、いくつも並んでいた。


その中で、特に大きなものが、広場の正面にあった。


大ファサード。


岩の壁を、巨大な建築の正面に削り出した、装飾だった。柱が、左右に何本も立っている。柱の間には、人の像が、岩から浮き出るように彫り込まれていた。柱の上には、複雑な文様が、横に走っている。装飾の頂点は、広場の天井に届くほど高かった。


ファーファが、リンの足元で、ファサードを見上げていた。


「**……主、これ、岩、ニャ?**」


「岩を、削ってある」


「**……削った、ニャ?**」


「全部、岩から、削り出してる」


「**……ファーファ、信じられないニャ**」


「俺もだ」


ユミルは、ファサードの装飾を、しばらく見ていた。


「**……これだけの装飾を岩から削るのに、何代もの職人が要ったでしょう**」


「ああ」


「**……知らない技術です**」


ユミルは、頷いた。


---


広場には、人が多かった。


商人の屋台が、広場の周りに並んでいた。香辛料を量り売りする店、銀細工を並べる店、布を巻物で売る店、果物を山に積む店。砂漠の街の市場の活気が、広場に集まっていた。


地元の住人と、巡礼者らしき外来の客が、広場を行き来していた。子供達が、屋台の隙間で、走り回っていた。


リンは、広場の中央で、立ち止まった。ユミルとファーファが、隣に並んだ。


「ロックは、どこだ」


「**……人が、多いです**」


ユミルが、広場を見回した。


それから、ファサードの脇の柱の影を、軽く指した。


ファサードの脇の柱の影に、男が一人、立っていた。


布で頭を覆っていた。地元の格好に紛れていたが、立ち姿が、リン達を待っていた人物のものだった。


ロックが、こちらを見て、軽く片手を上げた。


---


ロックは、布を、頭から外して肩に下ろした。


「来たか」


「ああ」


「思ったより、早かったな。十二日か」


「ロバ隊で、平原を抜けた」


「効率的だな」


ロックは、笑って、リンの方を見た。それから、ユミルに、軽く頭を下げた。ユミルも、頷き返した。


レヴィは、いつも通り、ロックの肩のあたりに乗っていた。雄鶏の姿だった。広場の人混みの中では、ロックの肩の雄鶏は、目立たない存在だった。砂漠の街では、雄鶏を肩に乗せた商人風の客は、珍しくないのかもしれない。


ファーファが、ロックの足元に寄っていって、鼻を上に向けた。


「**……ロック、来たニャ**」


「待たせたな、ファーファ」


「**……ファーファ、ジャーキー、減ったニャ**」


「来て早々、それか」


ロックは、笑って、自分の腰の袋から、ジャーキーを一本取り出した。


「砂漠のジャーキーだ。山岳のとは、味が違うぞ」


「**……ニャ?**」


ファーファは、ジャーキーを受け取って、噛んだ。しばらく、口の中で、味を確かめている。


「**……ファーファ、これも好きニャ**」


「気に入ったか」


「**……ロック、ジャーキー、いつも持ってるニャ**」


「お前のためじゃないけどな」


ファーファは、満足げに、ジャーキーを噛み続けた。


レヴィが、ロックの肩で、軽く首を傾げた。


「**……お嬢さん、お元気そうで**」


レヴィが、ユミルに声をかけた。


「**……はい、レヴィ様もご無事で**」


「**……砂漠は、わしには、暑い**」


「**……雄鶏には、辛い気候ですね**」


「**……お嬢さんなら、人化を、お勧めしますがな**」


レヴィは、にやりとした、ような顔をした。雄鶏の顔で、にやりとするのは、難しいはずだったが、そう見えた。


ロックが、首を振った。


「無駄話は、後で。まず、宿だ」


「宿は、決まってるのか」


「決まってる。広場から少し離れた、商業ギルド推薦の宿だ。俺も、そこに泊まってる」


「先に、商業ギルドに、ローズの紹介状を渡したい」


「分かってる。宿の途中で、寄れる」


ロックは、頷いて、広場の縁の方に歩き出した。


リン達は、後を付いていった。


---


商業ギルドは、広場から街路を二本下った先にあった。


岩を削って作られた、中規模の建物だった。入口は、岩の自然な形を活かして、アーチ状になっている。入口の脇に、商業ギルドの紋章が、岩に彫り込まれていた。


中は、ヴァナールの商業ギルドより、広く感じた。岩の天井が高く、空間が縦に伸びている。窓は無いが、岩の天井に開けられた光の取り入れ口から、柱状の光が、何本も降りてきていた。光の柱の中で、塵が、ゆっくりと舞っていた。


リンは、受付に行って、ローズの紹介状を渡した。受付の男は、手紙を一瞥すると、軽く頷いた。


「ヴァナールのローズ様からだな。少し、お待ちを」


しばらく待って、ギルド長らしき男が、奥から出てきた。年配の男で、髭を、丁寧に整えていた。


「ヴァナールのローズ嬢のご紹介ですね。承知しました。ミルラペトラの商業ギルドが、できる範囲で、便宜を図ります。お困りの際は、いつでも」


「助かる」


「ローズ嬢の紹介でしたら、最初の挨拶は、これで十分です。手続きの詳細は、明日以降、こちらからお声がけします」


「分かった」


リンは、礼を言って、ギルドを出た。


ロックが、外で待っていた。


「早かったな」


「ローズの紹介状は、効くな」


「ヴァナールの商業ギルドは、砂漠でも知られてる。あいつの腕だ」


ロックは、笑って、宿の方に歩き出した。


---


宿は、広場から少し離れた、住宅区の中にあった。


岩を削って作られた、四階建ての建物。入口は、岩の柱に挟まれた、アーチ状のドアだった。看板には、砂漠の文字で、宿の名前が彫り込まれている。


ロックが、入口で、宿の主人に話しかけた。主人は、頷いて、リン達の部屋を用意してくれた。


部屋は、宿の三階だった。岩の天井が、低めだった。窓は、街路の方を向いた、細長い切り抜きの形だった。


「街路の音が、よく入る部屋だが、空気はいい」


ロックが、説明してくれた。


「俺の部屋は、その隣だ。何かあれば、声をかけてくれ」


「ありがたい」


「夕方、俺の部屋に来てくれ。砂漠の事情を、簡単に説明する」


「分かった」


ロックは、頷いて、自分の部屋に戻っていった。


---


部屋に荷を降ろして、リン達は、しばらく休んだ。


ファーファは、寝台の上で、ジャーキーを噛んでいた。新しいロックのジャーキーが、気に入ったらしい。


「**……主、ロックのジャーキー、美味いニャ**」


「ヴァナールのとは、違うのか」


「**……違うニャ。なんか、違う味、ニャ**」


「砂漠の味だな」


ユミルは、窓の前に立っていた。


街路の音が、窓から、上ってきた。商人の声、子供の声、何かを叩く金属の音、布が風に揺れる音。空気には、香辛料の匂いと、岩の匂いと、わずかに、砂の匂いが混ざっていた。


「**……リン様**」


「ああ」


「**……明日、市場に行きましょう**」


「お前、本当に食べ物のこと考えてるな」


「**……はい。あと、香辛料の店も見たいです**」


「ロックの説明が終わったらな」


「**……はい**」


ユミルは、わずかに、口の端を緩めた。それから、もう一度、街路の方を見ていた。


「**……ここに、しばらく、いるんですね**」


「この国は、長くなる。三つの遺跡があるはずだ」


「**……毎日、何か新しいものが、食べられそうです**」


「食い物に戻るのか」


「**……はい**」


ユミルは、頷いた。


リンは、息を吐いた。


【了】


書くための資料をまとめ直しました。

まる3日かかりました。

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