159 密談その2
その夜、トビーが、宿に、来た。
裏口から、いつも通り。
部屋に入って、フードを、取った。
灰色の毛並み。頬の色が、戻っていた。
「リン」
「ああ」
「あの男、見てきた」
リンは、矢の手入れを、止めた。
ユミルと、ファーファが、トビーの方に、寄った。
「どこで、見た」
「ギルド舎の、裏路地。今夜、また、来てた」
「ティルスと、か」
「ああ」
トビーは、椅子に、座った。
机の上に、肘を、つく。
「俺、屋根の上から、見てた。声は、聞こえなかったが、姿は、見た」
「ふん」
リンは、頷いた。
「身体つきは」
「ティルス様より、少し、低い。たぶん、頭、半分」
「肩は」
「広い」
「武人、だな」
「ああ」
トビーは、頷いた。
「だが、ティルス様、みたいな、武人じゃ、ねえ気が、する」
「どう、違う」
「ティルス様は、剣の、武人だ。あの男は**……**」
トビーは、言葉を、探した。
「**……気配が、違う。剣じゃ、ねえ。何か、別の、何か**」
リンは、頷いた。
ユミルが、低く、続けた。
「**……武人寄りの、体格。ですが、剣の、武人ではない**」
「だな」
リンは、考えた。
——魔法か、何か、違う技。
「フードは、深いか」
「ああ。顔、まったく、見えねえ」
「声は」
「低い。ティルス様より、ちょっと、低い」
「ふん」
「あと、もう一つ」
トビーが、続けた。
「**何**」
「あの男、ティルス様より、立場、上、っぽい」
リンは、目を、細めた。
「上、か」
「ああ」
「**……根拠、ですか**」
ユミルが、聞いた。
「ティルス様の、姿勢、だ」
トビーが、答えた。
「ティルス様、いつも、堂々としてる。剣の、武人の、姿勢だ」
「ああ」
「だが、あの男と、話す時、ちょっと、頭が、低い」
「ふん」
「気をつけて、見ねえと、分からん。ちょっと、だけだ」
リンは、頷いた。
ユミルが、淡々と、言った。
「**……組織の、上位、または、別の、組織の、責任者**」
「ああ」
「ふん」
リンは、頷いた。
——上の、やつ、か。
ファーファが、机の上に、座って、トビーを、見ていた。
「**……トビー、お疲れ、ニャ**」
「ああ、お疲れだ」
「**……ファーファ、ジャーキー、上げる、ニャ**」
「いい、いい。さっき、もらった」
トビーは、胸のポケットを、軽く、叩いた。
「十本、もらった」
「**……ニャ**」
ファーファは、頷いた。
「で、リン」
「ああ」
「明日、また、見に行くか」
「いや」
リンは、首を、振った。
「お前、しばらく、休め」
「いいのか」
「ああ」
「動けるぞ」
「分かってる。だが、休め」
トビーは、頷いた。
「ありがとう」
「もう一つ」
「ああ」
「明日、商業ギルドの方に、行く」
「ああ?」
「スカジー、もう一回、会う」
「ああ、それは、いいな」
「お前、案内、頼むぞ」
「ああ、任せろ」
トビーは、頷いた。
「商業ギルド長は、出張中だ。だが、副長が、いる」
「副長?」
「ああ。猫獣人の、四十代の、女だ。しっかりしてる」
「ふん」
リンは、頷いた。
「商業ギルドと、繋ぎ作りたい」
「ああ、賢明だ」
「ティルスを、追い詰めるには、商業ギルド、味方に、つけたい」
「ああ」
トビーは、頷いた。
「俺、案内する」
「頼む」
トビーが、立ち上がった。
「明日、朝、迎えに来る」
「ああ」
「フードは、被ってくる。お前らを、観察してる、振りで」
「ふん」
リンは、笑った。
「お前、嘘つき、上手いな」
「ああ、得意だ」
トビーは、笑った。
「ダウンタウンで、育った。嘘は、得意だ」
「ふん」
「だが、お前らには、嘘つかない」
「ああ」
リンは、頷いた。
トビーが、フードを、被った。
裏口に、向かった。
「リン」
「ああ」
「ユミルに、よろしく」
「ああ」
トビーは、出ていった。
ユミルが、机の脇に、立った。
「**……リン様、トビー様、信頼に、値する、と、判断、します**」
「だな」
「**……あの男、戦闘、避けるべき、です**」
リンは、頷いた。
「分かってる」
「**……今、戦って、勝てる相手か、不明、です**」
「ああ」
リンは、矢を、見た。
矢筒に、まだ五本、残っている。装置の、戦闘で、使い切らなかった分。
——だが、五本、足りるか、分からん。
「ユミル」
「**……はい**」
「あいつ、ヤバいな」
「**……はい**」
ユミルは、頷いた。
「**……ティルス様、よりも**」
「ああ」
「ふん」
リンは、矢を、矢筒に、戻した。
ファーファが、机の上で、転がっていた。
「**……主、ファーファ、寝る、ニャ**」
「ああ、寝ろ」
「**……主、隣で、寝て、ニャ**」
「ああ」
リンは、ファーファを、抱き上げた。
ベッドに、運んだ。
ファーファは、ベッドの隅で、丸くなった。
クラケンが、触手で、ファーファの背を、軽く、叩いた。
「**……ぴゅ**」
ユミルが、机の脇で、立っていた。
「**……私、解析、続けます**」
「お前、今夜も、寝ねえつもりか」
「**……はい**」
「ふん」
リンは、笑った。
「無理すんな」
「**……はい。お休みなさい**」
「ああ」
リンは、ベッドに、入った。
ファーファの、隣だった。
ファーファが、寝ぼけたまま、リンの腕に、頭を、載せた。
「**……主**」
「ああ」
「**……明日、商業ギルド、行く、ニャ?**」
「ああ」
「**……ファーファ、付いて行く、ニャ**」
「ああ、来い」
「**……ファーファ、頭、いい、ニャ**」
「お前、頭、いいかね」
「**……ファーファ、いい、ニャ**」
リンは、笑った。
ファーファは、また、目を、閉じた。
ユミルは、机の脇で、解析を、続けていた。
夜の、光が、窓から、差していた。
月の、光だった。
-了-




