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~奇跡(3)~

皆と別れ、単身で大図書館へと戻るヨセフカ。既にその眼に迷いはなく、一歩一歩、確実に大図書館へと近づいて行く。だが、その一歩を進める度、剣へ込める力は強まり、瞳はより冷たさを増す。まるで、奈落へ挑む恐怖を振り払うが如く....................

 皆と別れ、大図書館跡地へと辿り着いた私は、到着早々、信じられない光景を目にしていた。


 「相当、私に会いたいらしいわね....................」


 到着してすぐの事だった。私は不自然に瓦礫が除けられている場所を見つけ、恐る恐る近づいた。そこには、ご丁寧にも地下へと続く階段があった。瓦礫は丁寧に除けられ、いかにも”ここが入り口です”と言わんばかりに....................


 『フィー、どう思う?』


 『単に罠と言いたい所だけど、どうも引っ掛かるんだ…………』


 『引っ掛かる?』


 『あのエルフは、常に君を試すような言動をとり続けていた。命の取り合いをしている最中でも、それは一切揺らがなかったんだ』


 『確かに、常に値踏みするような言動ばかりだった。私の実力を知ってどうしようというの?勝つための分析?』


 『いや、あれは勝敗云々(うんぬん)を気にしているというよりも、材料を選定する職人という方がしっくりくる感じだったかな』


 『私は魚市場に並ぶ魚かしら?』


 『案外、外れてもいないかもね。少なくともあれは、対等な敵を見る目ではなかった』


 『いいわ。まな板へまんまと上がるとしましょう。まぁ、私を捌けたらの話だけどね』


 一歩、また一歩、階段を降りていく。丁度、外からの陽光が陰り始めたと思うほどまで下りた頃、扉にたどり着いた。少し開けられた、何の変哲もない木の扉だった。一応の警戒をしながら扉を押すと、そこには、降りてきた階段の横幅よりも広い通路が広がっていた。左右には等間隔で更に扉が配置されていた。加えて、左右の壁には、青白く光るランプが配置され、陽光の届かぬ場での光源となっていた


 「これの中身は…………魔石……?」


 ”その通りだ”


 「なっ!?」 


 魔剣を抜き、すぐさま周囲を確認する。だが、奴の姿はなかった。この声、間違えようもない。先ほどまで聞いていたのだ。更に周囲を見回し、確認していると、頭上から再び声が舞い降りた


 ”凄いモノだろ?例え目の前に居なくとも、相手と話すことが出来る代物だ”


 口を開けて驚くしか出来なかった。中世も思わせるこの世界に突然、現代でしか見られないようなことが起こったのだ。あっけに取られることしか出来なかった 


 ”発する声に魔力を乗せ、それを魔石が受け取ると、内部に蓄積される。そのままでは、声は消え、魔力だけが魔石へ蓄積される。だが、外部へ魔力が伝わる道があれば、伝わった声は魔力と共に流れ、出口の魔石から同じように出力される。後は、その魔力が霧散しない範囲に魔力感知者がいれば、込められた声を聞ける”


 「ここには、随分と画期的な設備があるのね…………」


 仕組みを聞き、まさかと思いながら会話を試みると、相手は弾んだ声で返答してきた


 ”素晴らしい。殆どの凡人は驚く以外できんのに、君は仕組みを理解するとは驚きだよ。君の考え通り、こちらから送れるのだから逆も然りだ。君は今、臨戦態勢で魔力を(みなぎ)らせている。勿論、声にも魔力が多いに乗っている状態だ。あと、位置の方も大体は把握しているから、道案内に支障はないから安心してくれ”


 「目的は何?」


 ”魂だよ”


 「あら、随分と素直ね。もう少しぼかすと思った」


 ”嘘も謎かけも、今は意味をなさない。ここまでの道、そして、そこから私に至るまでの道。何かしら罠があるのではと疑っているだろうが、そんなものは用意していない”


 「私がそれを信じるとでも?」


 ”敵を信じぬは道理だ。だが、ここは創作の場。何物にも縛られぬ創意工夫が尊ばれる場所だ。子供じみた罠の類など、この場には不釣り合いだ”


 「その縛られぬ創意工夫とやらで、祖国を”仲間ごと”滅ぼしたのかしら、レブリン卿?」


 ”王城の資料に目を通していたのだったね。だが、なぜレブリン卿だと分かった?”


 レブリン・ケール、エルフの国における学派のリーダー。国では知らぬ者がいない有名人。国の重要人物のリストでは、すぐさまその名が上がるほどだった


 「あなたの強さと言動から出る雰囲気よ。かのレブリン卿は、優れた”手の(わざ)”の使い手であると同時に、優れた”武の才”をも持った人物だったと書かれていた。そういう人物は、自身と自身の作り出したモノには絶対の”自信”と”誇り”を持っている。そんな人物が、部下で事足りるような現場仕事に、進んで出てくるなんてありえないわ」


 ”凄いな。私をそこまで見透かす者は、側近にさえもいなかった。どうやら、力だけを頼みにした者達とはモノが違うらしいな。ますます君が欲しくなったよ”


 「気色の悪いことを言わないで頂戴。私はモノでもないし、あなたにどうこうされるつもりもない」


 ”まぁ良いさ。久しぶりの賓客(ひんきゃく)なのだ。無粋な真似は無しで、誠実に道案内をしようじゃないか。私の所に案内するがてら、色々と見せたいものもあるんだ”


 そう言うと、奴は嬉々として道案内を始めた。魔石からの明かりで照らされた通路は視界が良く、清掃も行き届いていた。案内の途中、奴は所々で私に”そこを開けてみてくれ”と、まるで子供が自慢するかのうような口調で私に語り掛け、部屋を紹介した。ある部屋には複数の鎧、また違う部屋には何本かの剣があり、それらの部屋は書斎も兼ねていた。奴に促されたことは癪だったが、好奇心に駆られた私は、書斎スペースにあった資料に目を通した。大方の予想通り、それらは研究に関わる資料だった。内容は、魔石を含んだ合金にミスリルを加える研究だった。似たような部屋をいくつも見学し、再び通路を進む私は、当然の疑問を投げかけた


 「随分とミスリルの研究にご執心のようね?」


 ”ドワーフ共は、ミリルの事を綺麗なばかりで、魔鋼技術の前では器用貧乏の役立たずと断じた。軽いながらも強靭で、魔力への親和性も非常に高い。相反するはずの性質が同居した奇跡の鉱石だ。そんな稀有なモノが何の秘密も持たぬはずがないと考え、様々な研究を行った。さっきまで君に使っていた鎧も、その成果の一部だ。あぁ、それと....................”


 奴の言葉と重なるように、私は通路を進んだ先に合った扉を開けた。その扉は、その他の扉よりも大きめで、作りもしっかりとしていた。何か重要なモノでもあるのかと少し身構えながら開けると、そこには今までの部屋より二回り以上も大きな部屋が広がっていた。そこは、作業用を思わせる長机がいくつも置かれ、左右の壁には、大きな三段構成の棚も置かれていた。その棚には、魔石が放つ青白い光を放ちつつも、銀のような美しい光沢を放つ鉱石がいくつも安置されていた。大きさは、成人男性の手のひら程のものだった。


 ”おや、説明よりも先についてしまったか”


 「....................研究室?」


 先ほどまで案内されていた部屋たちは、どれも研究成果をまとめる為の部屋だった。対してこの部屋は、研究者たちが実験を行うための場所という雰囲気で、よく観察してみると、机の上には鉱石の破片や小さな槌も見られ、実際に使用していた痕跡が見て取れた


 ”すまないね。位置の把握も完全ではないんだ。君の推察通り、そこは我々の研究室だ。左右の棚にあるのは研究成果の一部でね、もし良ければ見て行ってくれないか?”


 警戒しつつも、私は右の棚に近づき、一段目に安置された鉱石の一つに手を伸ばした


 ”助けてっ!!” 


 「なっ!?」


 触れていた手を放し、一、二歩後ろへと後ずさった


 「今のは一体?」


 嫌な予想が頭を(よぎ)った。(おぞ)ましく、忌避すべき予感が....................


 ”痛いよっ!” ”暗いよっ!!” ”お母さん!どこに行ったのっ!?”


 一段目の鉱石に触れる度、頭へ流れ込んでくる声…………いや、悲鳴と呼ぶべきそれが何のかは、おおよそ予想が付いてしまった。試しに二段目、三段目の鉱石にも触れてみた。二段目の鉱石では、悲鳴が聞こえはするものの、どこか(かす)れていて、上手く聞き取れない部分があった。三段目では、どれに触れても声はしなかった


 ”研究成果の方はどうかな?”


 握る拳に力が入るのが分かる。自分の中の魔力が警戒心とは別の理由で荒ぶるのが感じられる.................


 「....................魂の瓶詰めってわけかしら?」


 ”魂の声を感知できるも驚きだが、流石の洞察力だ.................それらは全て、私の中に収めておくことが出来る。だが、私は”魂の純化”までは出来ないんだ。何十個も入れておいたままだと流石に(うるさ)くてね。かと言って、一度出すと戻せない関係上、外で純化を施してから私の中には.................”


 「そんなことが聞きたいんじゃないっ!」


 ”おっと、流石にふざけすぎたかな?まぁ、それは君が想像している通りのものだよ。採取した魂をミスリルと魔石から作った入れ物に入れたモノだ。純化による精神の洗い流しが上手くいった順で、段ごとに分けている” 


 「採取?無理に奪ったの間違いでしょ?」


 ”無理に奪えれば幾らか楽が出来るんだが、私が持つ魔法はそこまで万能ではないんだよ。まったく、あの女を羨ましく思うなど屈辱的だね”


 瞬間、私の怒りは氷付き、奴が放った言葉が頭の中を駆け巡った


 「あの女?」


 名前など出ていない、こいつの周りの人間関係など知らない。確定させるような情報など一切なかった。なのに、逃してはいけない、追求しなくてはならいと言う思いがふと沸き上がった。単なる直感というには具体的で、背中から突き動かされるような感覚だった


 ”ここでの思い出など無いと思っていたが、自身の子供に話していたのか?”


 「母さんのこと、なぜあなたが知っているの?」


 ”なんだ、そこまで詳しく話してはいないのか…………まぁ良いさ、理由なら簡単だ。ここは彼女の元職場だったからさ。とは言っても、表向きの方でだけだがね”


 「…………母さんが元学派の人間?」


 ”娘なら知っているだろう?彼女が宿した法外な魔法の全容を…………”


 「作り出した魔石への魔法の想像と封入…………」


 ”そう、自身で作り出した魔石に魔法を封入することが出来た。しかも、封入する魔法は自身で自由に創造でき、魔石の質と創造力次第で、いかなる事象の魔法でも生み出すことが可能。持つ者が持てば、神にも等しい権能となる力だった.................だが、あの女には不釣り合いな代物だった。いつも根暗で、一人を好み、魔法も日用的なモノを生み出すばかりで、神に届き得る可能性の一端すら引き出せていなかった。魔法のこともあり、(しいた)げられはしなかったが、厄介な腫れ物だったよ”


 「随分と詳しいのね.................」


 ”直属の上司だったんだ、詳しくもなるさ…………あぁそれと、君の父上のことも私は知っている。一方的ではあるけどね.................”


 心臓が早鐘を打ち、最悪な予想と共に湧き上がる感情を抑えながら、私は奴に疑問を投げかけた


 「どうして、あなたが父さんのことまで知っている”必要”があるの?」


 交流のあったエルフでもなく、人間ですらない者に関する情報、それをこんな男が知りたがる理由は.................


 ”獲物の情報は仕入れるのが普通だろう?それが強大な獲物なら猶更だ…………”


 かつて、残った魔神2体が打ち取られた時、二人の英雄の命が失われた。その戦場には、千を軽く超える程の魔族の軍勢がひしめき、多くの兵が命を()して彼らと戦い、二人が魔神を討伐するための隙を作った。戦いが終わり、最初の兵の一人が魔神の死に場所へと到着した時、そこには二人の遺体があった。その遺体は、私が悲しみに暮れていた1ヶ月の間で丁重に葬られたと後から話を聞いた。ここまでの話を教えてくれたウルバンドは、付け加えるように次のようにも述べていた


 【遺体の損傷を見た時、それぞれに剣による傷を見つけたんだ。魔神の戦闘だったのだから当たり前だと、その時は深く考えなかったが、今思うと違和感があった。刺し傷が綺麗すぎたんだ。あれは死闘による傷というより、まるで暗殺者でも相手したかのような代物だったんだ.................】


 「.................あなた、魔神の魂を回収しようとしたことはある?」


 ”勿論あるとも、一度目は完全に失敗し、二度目も半分しか目標を遂げられなかったがな.................”


 やるせなさを含んだ発言の内、私は”勿論ある”という部分までしか認識することが出来なかった


 『見つけた』


 予感は当たった。こいつはただの敵ではなかった。ガルムの時に感じた以上の奔流が私の中を巡る。全身を躍動し、いざ爆発するかと思った瞬間、それはふと消え、怖いほどの冷静さが私を包んだ


 「もう良いわ。きっとこれ以上、あなたから聞きたいことは無いと思うから.................」


 棚に背を向け、二、三歩進んだ当たりで、私は手の中に魔石の粒手を作り上げ、振り向きざま棚へと投擲した。放たれたそれは、全てが入れ物を(かす)め、少しの傷を付けた。次の瞬間、入れ物たちにヒビが入り、光と共に砕け散った。もう一方の棚にも投擲し、見事に全ての入れ物の粉砕に成功する


 「魂とは、超緻密な構造かつ高密度な魔力の集合体、それを入れる器もそれなりに安定したモノでないと務まらない。ましてや、傷が付いて、不完全な代物になった器では、魂を抑えきれずに自壊するのが関の山.................」


 ”どうも声から怒りを感じないな。もう気付いているのだろう?私は君の.................”


 「準備をしているのでしょう?」


 ”ん?”


 「あなたが研究で作り出した成果をかき集め、最大の状態となった私を打ち破る。本命の目的を達成できて、自身の成果の有用性も証明できる。こんな機会、人生で二度と無いわよ?」


 ”随分と見透かされたね。まぁ、これくらいでなくては倒し甲斐がない…………その部屋を出た通路をまっすぐ進むんだ。その先に、私たちの決闘場を用意した。万全の状態で待っているよ…………”


 そこで会話は終わり、私はその部屋を後にした…………不思議と怒りは沸いていなかった。魔剣を抜き、強く握り、全身に魔力を満たしていく。その時、私の中に去来していたのは”喜び”だった。探すまでもなく、二人が居なくなった原因を作った”仇”が向こうから来てくれた。改めて、自身のこれまでを振り返ると、悲しきことがありつつも、それでも恵まれた人生であったと感じる。今回も同じだ.................


 「まるで”奇跡”ね。必要なモノは、いつも願うよりも先に向こうから来てくれる。本当に愛されているわね.................』


 『私”達”は.................」


 通路を進み、私は最後の扉へと手を伸ばした


~次回 ”私達” へ続く~

エルフの言葉と共に、最悪の予感は当たった。だが、彼女に去来したものは怒りではなく”喜び”だった。エルフと魔狼の戦いは、いよいよ最終局面へと向かっていく。今度は、もう一人の魔狼も目覚めながら.................

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