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魔法死幼女セレスト  作者: 岡本
第一章 おばけはしなない
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05話 『ダンジョン』

 闇の中、一つは小さく一つは大きい二人分の足音がしている。

だが決して夜中というわけではない。

二人が今居るのは地下空洞に魔力が溜まり、それがまるで生き物のように成長して地上に口をあけた自然の地下迷宮だ。

廃坑や地下要塞などのように、知性的な何者かが意思を持って掘ったものとの対比で、自然発生型ダンジョンと呼ばれている。

地上と繋がるとじきに成長が止まって安定化する特徴があり、地下に溜まった魔力が自身を繋ぎ止めている地下牢獄(ダンジョン)から脱出しようとして出口を探す行為により生成されるという説が有力だ。

特性上、深い場所から生まれるダンジョンほど巨大なものとなる。

なお自然発生型ダンジョンからは高い確率で様々な鉱脈が発見されるために有用な資源であり、安定化後は国か、もしくは発見者に程近い立場の富豪により管理される事が多い。

ただし、成長途中に沈着した魔力を求めて様々な魔物が引き寄せられたり自然発生したりするために、発生後しばらくの間はその周囲を含め危険な空間と化す。

だが魔物が出す結晶を求める魔物狩りにとっては、その危険な状態こそが稼ぎ時であり、ダンジョン自体からの採掘を目指すものとうまく住み分けているのだ。

今歩いている二人、リッチの少女セレストと悪魔スナッチが欲しがっている物はもちろん鉱物資源などではなく、そこに棲まう魔物の魂と結晶である。

魔物狩り詰所でスナッチが仕入れてきた新たな大型ダンジョンの情報を聞いたセレストは即座に出発を決めた。

怪しまれず、なおかつ一気に稼げる機会は貴重なのだ。


「なあマスター、非物質化(ディマティリアライズ)で底まで潜ってから逆走する方が楽っぽくねー?」


「だめ」


「なんでさ、こんな浅い部分の魔物は実入りも少ないし俺の栄養にもあんまり」


 高い暗視能力を持つ赤みがかった茶色の瞳を瞬かせ、スナッチが呟く。

ここに侵入してそれなりに時間が経過しているが、彼の振る長剣が切り裂いたものは地上や安定化後のダンジョンに棲息しているのと変わらないような小型魔物ばかりだ。

半年にわたるリッチモンドの分霊による講義とセレストの特訓により、空間把握能力が上がり影の魔法をいくつか使えるようになったスナッチだが、あいかわらず貴魔(ノブル)のままである。

しかし、最近偶然に成体へと変化するための条件、というか契約主から供給された魔力をただの外部備蓄ではなく自身の魂の器に転換する方法が判明したのだ。

それは“魔物でも人間でも動物でも何でもいいので無力化した魂を吸収する”という事だった。

セレストとスナッチ、そしてリンガーリングは継続的に魔物を狩り、時には賞金首やセレストを無力な子供と勘違いし狙った賊なども殺している。

それでも三年以上もの間方法が謎だったのにはあまりにも単純で、そして間の抜けた理由があった。

スナッチよりも遥かに強力な魔法生物である契約主セレストが、それら全ての魂を喰っていたために彼が吸収する機会がなかったのである。

影の魔法の実験の過程でスナッチ自身が狩った魔物の魂を何となく取り込んだ際、いきなり漲った活力でようやく謎が解けた。

それ以降、(ごはん)はちゃんと二人で分けて食べる事になったのだった。

ともかく今のスナッチは悪魔から見て栄養のある強い魂に飢えている。


「確かにスナッチを育てたり結晶を稼ぐにはそれが早いと思うけど、だめよ。

わたしはともかくスナッチはあくまで新ダンジョンの調査と制圧に来た魔物狩りなんだから、その流儀を守らなきゃ。

先行で底まで潜ってる人は居ないみたいだし、のんびり行こう、ね?」


 言いつつ、殺した魔物から影の触手で結晶を引き剥がし、収納するセレスト。

真の闇では光と影の差分を利用する系統のものは使えないが、それでも亜空間に干渉できる影の魔法は強力だ。

魂に関しては今は全てスナッチに渡されている。


「……まあ、マスターが言うならそうかな。

それにしても、なんか俺ちょっとずつ強くなってる気がする」


「きっと一番下まで行くころにはもっともっと強くなってるわよ、たぶん成体になれる。

というか、スナッチを大人にするために来たんだしね。

わたしの感覚網だと下の方にゴーストがいっぱい引っかかってるから、効率よさそー」


「ゴーストかあ」


「どしたの」


「俺さ、アンデッドはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ抵抗あるんだ。

なんかこうマスターに手を出してるみたいな、いや、うん、全然違うのはわかってるんだけど」


「わたしより年下っぽいのにおませさんねー」


「ちげえ、そうじゃない!ああもう」


 だらだらと無駄話をしながら、曲がりくねった地下道を灯りも無しにさくさく降りて行く二人。

装備類も大して持ち歩いてはいないが特に影響はない。

セレストが集中すると、別の道を進む魔物狩りや曲がり角に潜む新たな魔物をかなり精密に認識できる。

今のところ人も魔物も名前を覚えるまでもないような連中ばかりだ。

人間は回避し、魔物は適当に殺す。

しばらく後、突然立ち止まって首をひねったセレストが口を開いた。


「あれ、もう広間?

おっかしいな、リンちゃん悪いけど下層の構造把握おねがい」


「あいあいセレスト様」


 その言葉に反応してセレストの手首に嵌められている腕輪が変形、小さな銀色の蛇になって浮遊し、薄い魔力の波を発する。

セレストもかなり非常識な探知能力を持っているが、それでもナビゲーターとして特化した魔法生物のリンガーリングには劣るのだ。

流体魔法銀(ミスリル)製の身体から放たれる探知波が地中を立体的に把握してゆく。


「どうかな」


「すぐ下の広間はダンジョン発生地点じゃねえな。

本来の空洞はもっとずっと奥だ、深さにして二百フィートは先だぜ。

でもゴーストが溜まってるのは確かだセレスト様、ボーナスステージだな」


「ありがとね」


「あいよ」


 一通りの報告を終えたリンガーリングが不定形に変化し、元の腕輪に戻りながらセレストの細い手首に巻き付いた。

リンガーリングは無駄話さえさせなければとてつもなく有能だ。


「よし、スナッチ行くわよ。

右の突き当りまで行って二回曲がればゴースト食べ放題」


「え、あ、うん、行……うおあー!」


 浮遊したセレストがスナッチの手を掴み、加速する。

並みの成人男性よりだいぶ大柄なスナッチだが、今のところ膂力でもセレストに敵わない。

引き摺られるように飛ぶスナッチは得物である長剣を取り落とさないようにするので精一杯だ!

その道には魔物もおらず、すぐに目的地に着いた。


「到着!」


「俺には壁にしか見えないんだけど」


「ちょっと集中してみなさい、影の魔法使うときっぽい感じで。

四次元視点の使い方教えたよね」


「うーあー、うん……おお?!

確かにいっぱい居るけど、入り口が反対側だぜ、もしかして壁壊すの?」


「壊さないわよ、中に居るのがゴーストなんだから殆どの個体が壁抜けできるでしょ。

つまり、ここから釣り上げるってこと。

さ、ちゃんと好き嫌いせず食べるのよスナッチ」


「……わかった」


 スナッチが戦闘準備を終えたのを確認し、セレストは壁に掌を押し当てた。

接触部分から挑発的な魔力が発され、分厚い壁を挟んだ広間へと流入する。

しばらく後、壁の奥で何か呻くような霊的振動。


「さあ、次々来るわよー。

そんなに強いのはいないからさくっとやっちゃえ」


「おっしゃマスター!ゴーストなんざ素手で!」


「素手の方が楽、の間違いよねスナッチ」


「お、おう……」


 やる気を出したスナッチが軽口を叩きながら壁から湧いて来るゴーストを掴み、引き千切る!

何らかの生物の魂が暴走したアンデッド魔物であるゴーストは、簡単な魔法や念力を使って攻撃を行う。

大して攻撃力や耐久力が高いわけではないが、非物質存在であるために壁をすり抜け通常の物理攻撃を受け付けない。

武器や拳に魔法や気合を纏わせて振ることで精神攻撃するか、神聖魔法か死霊魔法で消し去るのが主な攻略手段だ。

しかし、セレストとスナッチの場合は話が違う。

魂を好んで食べる二人にとって、たいした防壁もなく魂の実体を晒しているゴーストは柔らかい果物と同じ。

一匹!二匹!三匹!四匹!五匹!

次々とコアになっている魂を取り出し、魂袋に収納する。

時折火球や石礫等が飛んでくるが、強靭な皮膚と防御膜を兼ねた服に跳ね返されてダメージにならない。

だんだん楽しくなってきたスナッチがモグラでも潰すようなテンポでゴーストを消していく。

最初しり込みしていたのが嘘のようだ。

しばらく後。


「さっきので最後かな、全部で五十匹ぐらい?

それにしてもなんで新しいダンジョンにこんなにゴーストが居たんだろ、このへんでなんかあったのかしら」


「そいやアンデッドって何もねーとこにはいないんだっけ。

けどこの魂はなかなか、うまい、パワー湧いて来るぞマスター」


「あんな事言っといて結局喜んで食べてるじゃない。

全部いいわよ、いや待って、やっぱ一匹だけ……うん、美味しい叫び」


 近くのゴーストを全て処理した二人が休憩しつつ考え事をしている。

大量のアンデッドが存在していた理由はいくつか考えられるが、単純に地上に墓地があったというわけではなさそうだった。


「なあセレスト様」


 細く金属的な声が腕輪から響く。

リンガーリングだ。

集中を乱されたセレストがかすかに顔をしかめた。


「外に居る時は勝手に喋っちゃだめって言ってるでしょリンちゃん、それでなに?」


「さっきから索敵してたんだが、発生地点に大量の死体があったみたいなんだよ。

当然今はもうアンデッドになっているか、そうでない奴は消滅してるが。

そんなに古くないと思うぜ、百年は経ってない。

何か目的を持って地下深くに埋めた感じで。

以上だな」


 腕輪は不気味な警告をすると再び静かになった。

セレストが腕を組み、首をひねる。

スナッチは無視して口を動かしていたが。


「なーんか気になるわー……ま、むしろラッキーよね」


「むぐ、はふ、うめえ!!」


「あんたはいっつも楽しそうねー。

食べ終わったら下行こ」


「ふぁい、はふはー」


「口に物入れたまま喋らない」


「ハイ」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 深層は予想以上に横に広がっていて、睡眠も灯りも必要としない二人ですら一通り踏破するのに数日を要した。

無理せず壁抜けすれば相当短縮できたが、妙なところで子供らしい意地を発揮してしまい結局全て歩いたのだ。


「あとは発生地点でおしまい」


「なんかさマスター、俺もうちょっとでがーってきそうな気がする。

よくわからないけどすごい感じ」


「そっか、スナッチ大人になっちゃうのねー」


「へへへ」


 大量の魂を得て、溜まりに溜まったセレストからの契約魔力を消化中のスナッチの身体はダンジョンに入る前と大きく変化している。

元々大柄だった体格は骨格から変化し、巨躯といって過言でない。

赤茶色の瞳は、いまや闇の中で透き通った真紅に輝いている。

そして象牙色の滑らかな肌は吸い込まれるような黒に染まっていた。


「ねー、思ったんだけどさ、成体になるとき体型変わったりとかってあるのかな?

あんまり極端に人から離れた姿になられると大変かも……」


「少なくとも、今の俺は成体の姿とは違う。

あとは二足歩行で受肉したのが魚になったり獣になったりはしない、と思うけどわっかんねえ。

帳の向こうでも他の貴魔(ノブル)が成体になるとこなんか見たことないもん。

友達の低魔(レッサー)小悪魔(デビル)になるのに立ち会ったことが一回だけ。

そいつも変態中は犬っぽくなってたけど、結局ちっちゃな角が生えたぐらいで特に変わってなかった」


「あっちの世界で成長するのってどうやってるの、魂とかそう簡単に取れないでしょ」


「他の成体悪魔や現世帰りからパワー貰ったり、年月の経過でだんだん育ったりとかする。

だけどこっちの方が圧倒的に育ちやすい、らしい」


 スナッチが低く掠れた声で何ともいえない断片的な情報を喋る。

外見よりずっと幼い彼は実際よく知らないのだろう。

軽く肩を落としたセレストが気を取り直して集中し、最後の広間にいる敵の数と種類をチェックしてゆく。


「なるほどね。

おっと、突き当りを曲がったら発生地点よ。

……骨将軍(ジェネラル)が一匹、骨戦車(チャリオット)が三匹、亡霊団(レギオン)が二グループ、あとはスケルトン、ゴースト、レイスがあわせて四十ほど」


「結構いるなー」


「今のスナッチならきっといけるわ」


「……全部いいんだなマスター」


 裂けた口で獰猛に笑ったスナッチが、漆黒の身体からごぼごぼと魔力を立ち上らせながら、少し前までの彼なら両手で振っていた長剣を右手一本で握った。

色々な決意と、力強さと、危うさを感じさせる、恐ろしくも子供っぽい瞳が最後の許可を求めセレストを見る。


「命令」


「え?」


 妙な回答に首をかしげるスナッチの左手を握ったセレストが歩みを速めた。

手を引いたまま突き当たりまで無言で進み、広間を、ダンジョン発生地点へと向き直る。

そこは、まるで異世界であるかのように瘴気が湧き出し、空気も薄い。

普通の人間ならば、風の魔道士と神官を連れていなくては戦う前から命が危ないだろう。

索敵により判明している敵の数も、本来ならば大人数のグループで時間をかけて削っていくべきもの。

しかし関係ない。

瘴気はむしろ喜ばしいし、魂の露出している連中はどこまでいっても餌だ。


「わたしのことは気にせず、砕いて、喰らって、強くなって。

聞きなさい、あんたにはわたしの魔力が流れてる、それも三年分。

“わたしの”スナッチには強くなる権利があるの。

もちろん、わたしは今のままでもいい、それで困らないからね。

でもあんたは違うのよね、ならやりなさい、命令。

……一匹も逃がすな(キルゼムオール)!」


「ハイ。……フフ、ハハハ、ハ、ヘハハハハ!!」


 悪魔スナッチが広間に飛び出し、咆哮する!

その漆黒の身体から死と影のオーラが、セレストに近いが少し違う魂を狩り取る力が噴出した。

ほぼ同時に広間の、ダンジョン発生地点の主、無数の骨が組み合わさった巨大な骨将軍(ジェネラル)の眼窩が不吉に輝きアラートを発する。

呼びかけに応える部下は無数の魂の集合体、怨念の防壁に包まれ禍々しい唸りを発する亡霊団(レギオン)

そして恐竜めいた骨の獣に引かれ、骨棘だらけの車輪と座席を打ち鳴らす骨戦車(チャリオット)

三台の骨戦車(チャリオット)の内、一際巨大なものに骨将軍(ジェネラル)が飛び乗って、柱のような槍を振りかざす。

残りの二台にも次々と雑多なアンデッドが乗り込んだ。

セレストはその様子を入り口から観察している。

彼女の身体は影の帳で覆われ、その姿は非物質化(ディマティリアライズ)により存在感を失っていた。

今回は全てスナッチの仕事なのだ。


「俺の、餌になれ!」


「BAAAAAAA!」


 言うが早いか近くの骨戦車(チャリオット)に力任せに長剣を叩き付け、骨獣の頭蓋に左掌を突っ込む。

負荷に長剣が耐え切れずへし折れるが、骨戦車(チャリオット)の動きは止まった。

同時に重い音とともに骨獣の頭骨が砕け散り、霊的な悲鳴が漏れる。

引き抜いたスナッチの掌には、おそらく生前はかなりの魔物であったであろう骨獣の魂。

時間経過と苦痛により、よく熟成されている。

彼はそれを一口で食べた。

直後、両肘から赤く光る結晶のようなブレードが出現!

失った長剣の代用品だ。


「うめェー……」


 メイン動力を失った骨戦車(チャリオット)が乗り込んでいたアンデッド達を吸収し、変形していく。

車輪が格納され、座席が立ち上がり、棘は歪な腕に。

パキパキ音を立てながら組みあがっていくそれを無視し、スナッチが二台目の骨戦車(チャリオット)に飛び乗る。

元の乗り手は肘のブレードにより即座に切り刻まれた。

露出した数十の魂を、赤い牙を持つ無数の黒蛇と化した彼の髪の毛が蠢き呑み込む。

すぐさま手綱を握って魔力を流し込み、骨戦車(チャリオット)のコントロールを掌握。

元々持っていた精神干渉能力の応用だ。

彼の魔力に包まれ、一回り大きくなった骨戦車(チャリオット)と骨獣が軋むように叫ぶ!


「URRR URRRRR URR URRRRR」


「イヤッハー!走れ骨戦車(チャリオット)!」


「URRRRRRRRR!」


 骨の蹄が強力に地を蹴り、棘だらけの車輪が乱暴に回転をはじめる。

スナッチの駆る骨戦車(チャリオット)の正面には、先ほど倒した一台が歪なヒト型へと変形した、骨巨像(コロッサス)が待ち構えていた。

その斜め後方からは骨将軍(ジェネラル)の駆る大骨戦車(チャリオット)が迫る!

振るわれる巨大槍がスナッチを叩き落さんとするが、届かない……いや、伸びた!

まるで伝説の如意棒だ!

驚いたスナッチが咄嗟に左手を伸ばす。


「うわあ!?……あれ、弱い」


「オ、オオ、貴様アァァ?!」


 骨将軍(ジェネラル)の巨大槍はスナッチの目の前で止まっていた。

正確には、スナッチの左手に掴み取られている。

骨戦車(チャリオット)の上に立つスナッチの身体は微動だにせず、黒く泡立つ鋭い指が金属槍に、歪な爬虫類のような足の爪が骨の座席に食い込んでいた。

魂を吸収し、セレストの魔力の消化が進むたびごとに湧き上がる力がスナッチを強化している。

とんでもない膂力だ。

骨将軍(ジェネラル)が骨を震わせて出す金属的な声で呻く。


「コレ、ハ、コンナコト、アア」


「力、力だ!マスターの力、俺の力!

槍よこせ骨野郎!」


 そして、巨大槍が持ち上がる。

根元には、もはや声にならない叫びを上げる骨将軍(ジェネラル)が掴まったままだ。

風を切る音を立てながら、スナッチが逆向きのままの巨大槍を振り回す。

ベチャリと嫌な音を立て、魔力弾を撃ち出そうとしていた亡霊団(レギオン)が落とされる。

骨巨像(コロッサス)が伸ばす手を払い、足元へと強化された骨戦車(チャリオット)が突撃!

跳ね飛ばされた骨巨像(コロッサス)骨戦車(チャリオット)が踏み、引き摺ってゆく。

それを一瞥したスナッチは骨戦車(チャリオット)から飛び降りると、乗り手を失ったもう一台に骨将軍(ジェネラル)ごと巨大槍を叩き付けた。

槍が捻じ曲がり、骨将軍(ジェネラル)の上半身と下半身が千切れ飛ぶ!

その衝撃を全て受け止めた大骨戦車(チャリオット)は二頭の骨獣ごとバラバラになり、魂が露出した。


「ハハハハハ!」


 壊れた巨大槍をもう一匹の亡霊団(レギオン)に投げつけ、足止めしたスナッチが笑いながら骨将軍(ジェネラル)の上半身に向かってゆく。

そして、肘のブレードで兜を頭蓋ごと割り、魂を引き摺り出し喰らった。

周囲に浮かぶ大骨戦車(チャリオット)のものを含めた魂は髪が伸びて回収する。

残るは二つ融合して巨大化し蠢く亡霊団(レギオン)と、いつの間にかスナッチの骨戦車(チャリオット)に勝ってそれを取り込んだ骨巨像(コロッサス)だ。

どちらも非常に強力な魔物ではあるが、今のスナッチには及ばない。

まずは骨巨像(コロッサス)から主要な魂を剥がし取って貪る。

崩れ落ちた巨体を踏み砕き、細かな魂を集めているとようやく亡霊団(レギオン)が追いついてきた。

赤く煌く瞳でそれを一瞥したスナッチが大きく息を吸い込む。


「WHOOOOOO!!」


 裂けた口から放たれた吐息(ブレス)は、亜空間に干渉し非物質を捻じ曲げる影の魔力だ。

物理的な攻撃力は無いが、呪いを解き、魔法を吹き散らし、精神の防壁を破壊する。

亡霊団(レギオン)の怨念の壁が剥がれ、魂同士の結びつきがほどけてゆく。

崩壊するそれから全ての魂を回収し終え、座り込んだスナッチの隣に、いつの間にかセレストが立っていた。


「あ、マスター。

ちょっと疲れたけど、ちゃんと一匹も逃がさなかったぜ、ほめて」


「よしよし、やればできるじゃないスナッチ。

それにしても本当にヒト型の成体になるのかなー……」


 戦闘中に吸収しなかった分の魂を食べているスナッチを、やや渋い顔で眺めるセレスト。

彼の姿はあれから更に変化し、到底人類に友好的な造形ではない。

12フィートはあろうかという筋肉質の巨躯に、光を吸い込むような漆黒の皮膚。

肘からは赤い結晶体のブレードが張り出し、手足は通常のバランスよりやや大きく、指と爪は猛禽か、あるいは竜を思わせる。

そして顔。

頬まで裂けた唇のない口からは、肘のブレード同様に赤いギザギザの牙が覗く。

ゴブリンやエルフのように尖った耳は、しかしそれらとは異なり不安感を感じる奇妙な歪み方をしている。

白目も瞳孔も無い瞳はルビー色に煌き、さらに睫毛や眉毛も存在せぬ。

いつの間にやら長く伸びた髪は、いまやただの毛ではなく赤い牙を持つ細い蛇だ。


「これはー、むぐ、蛹っていうかだ、んぐむ、本来は仮想肉体内に収納される魂の姿、みたいな。

変態中で外殻が融けてるからこんなんなってるだけで」


「だから飲み込んでから喋りなさいってば。

で、変化するのにどれぐらいかかりそうなの?」


「一日ぐらいで終わると思うんだけど、自信ない」


「一日か、ちょっと危ないわねー。

わたしとスナッチが発生地点のここを含めて深層全部掃除しちゃったからさ、誰か来るかも。

見られたら見られたで殺せばいいんだけど、警戒する労力が無駄だし安全なところに移動しよ、スナッチ」


「ふぇ、動くのか」


「そ。今動いたら不味いとかあったりする?」


「いや、平気だよマスター」


「よし決まり。

リンちゃん地下室お願いー」


「アイアイ、セレスト様」


「え、うわっ!」


 スナッチの腕を抱いたセレストが非物質化(ディマテリアライズ)し、突然の位相変化に慌てるスナッチ共々、地面に潜って姿を消す。

後には綺麗に掃除され、瘴気も出なくなったダンジョン発生地点が残された。

二人とも照明も睡眠も水も無くていいのでこういう探索は得意ですね。

次は8月1日か2日になります。

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