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魔法死幼女セレスト  作者: 岡本
第一章 おばけはしなない
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04話 『貴魔』

 強い日差しが照りつける荒野で、長剣を構えた青年と灰色のローブに包まれた小さな人影が対峙している。

青年の剣はスパークを放っており、危険な魔法がかかっている事が見て取れた。

少し離れて立つ小さな人影は微動だにしない。

青年が動いた。

一気に振りぬいた長剣から雷光が迸り、灰色ローブの人影へとジグザグに飛ぶ。


「あれ?マスターどこ?!」


 強力な電撃を放った青年が気の抜けた声を上げた。

現在対峙している灰色ローブの人影、つまり彼の主人であるセレストが地面や壁に潜れるのは知っている。

だが、それはあくまで通常の移動の範疇であり不可解な挙動にはならない。

手合わせするたび負けてはいる、しかし今回のような特殊転移(テレポート)めいたことをされるのは初めてだ。


「よっと、新魔法成功」


 その直後、青年の影の中から飛び出してきたセレストの手元で氷の刃が煌く!

あわてて飛び退こうとするが、既に彼の手首は二本とも斬り落とされていた。

所持者から離れた長剣が地面に落ち、金属音を立てる。

彼は悪魔であり、現世の身体は仮想肉体であるため血などは出ない。

しかし損失に応じてある程度のダメージは発生する。

溜め息をついた青年が座り込んだ。


「いてて……」


「スナッチはもっと反応速度上げなきゃだめねー。

あ、手出しなさい、修復したげる」


 言いつつ、セレストが灰色ローブのフードを外した。

プラチナブロンドの髪がふわりとこぼれ、美しいことは美しいが七歳児としか言い様のない幼い顔が現れる。

どんなに陽光を浴びても焼けることのない真っ白い肌と、単なる青ではなくサファイアのように透き通った虹彩を持つ不思議な瞳が特徴だ。


「え、いいよ、自分で再生できるから、な!できるって!」


「だーめ、そういうのはもう少し素早く回復できるようになってからよー」


「わかった、わかったよ……うわ、やめ、くすぐったい!」


「そりゃ、ちゅ、直接魔力で修復してるんだから当たり前でしょ」


 嫌そうに差し出された手首の断面を、セレストの舌が這い回る。

彼女には代謝が無いため、その唾液は消化酵素を含んだ体液ではなく液体状の魔力だ。

通常の生物にとっては毒、魔力を主な活力源とする種族には回復剤となる。

特に、全身が仮想肉体であるスナッチのような悪魔にとっては劇的な効果をもたらす。

文字通り舐めれば治るのだ。

あっという間に彼の手首からは新しい掌が生え、無骨な指先まで完全に元通りとなった。


「ありがとマスター……なんか悔しいぜ」


「よろしい。ってスナッチはわたしの部下なんだからわたしが治すのは当然なんだけどねー」


「そうなのかな?」


 スナッチが再生した手の調子を確かめながら首をかしげた。

サーディアンでセレスト達が暮らすようになって二年半以上経つが、他の契約悪魔に出会ったのは二回だけである。

そのうち一人は知能の低い枝魔(インプ)、もう一人の小悪魔(デビル)は魔物の支配下にありセレストに瞬殺された。

よって現世で暮らす他の悪魔と会話したことはまだなく、スナッチが子供であるせいもあって本来どういった関係が普通なのかはよくわからない。

今は黙っているリンガーリングや、魔道書の中で休眠中のリッチモンドも詳しくないようだった。

なお、スナッチは貴魔(ノブル)というタイプの悪魔だ。

能力や地位を持った称号ではなく単に上位悪魔の幼生を示すもので、成体になる際にもう一度変化があるらしい。


「そうったらそうなの。

んじゃ、わたしはもうちょっと練習するから」


「え、まだ戦うの、俺疲れた」


「スナッチはそこで何もせず立っててくれればいいから」


「それならまあ、うん。

ええ、マスター頭!」


 彼の目の前に居て、今まで喋っていたはずのセレスト。

その頭部が消失している。

切り口は何も無く、ただ別の空間かと思うような闇が広がっているだけだ。


「ここー」


「うわあああ?!」


 セレストの声がスナッチの真後ろから聞こえてきた。

慌てて振り向くと、影から頭だけを出したセレストが悪戯っぽい笑みを浮かべている。

じきに肩と腕までが影側に実体化。


「見える位置にある影から影に移動できるの。

面白いでしょ、影跳び(シャドーリープ)


 更に奇怪な技は続く。

スナッチの足首を掴んだセレストがそのまま彼を影の中に引っ張り込んだ。

叫びながら自分の影に吸い込まれるように消えるスナッチ!


「マスター!助けてマスター、あれ?」


「うんうん、逆も成功ね」


 消えたスナッチはすぐに現れた。

ただし、元々立っていた場所ではなくセレストのすぐ後ろ。

つまり自分の影を通して引き寄せられたのである。


「なあ、俺もちろんマスター好きだけど、でもあんまり怖いのはやめて」


「怖くないよ?

うーん、なんて名前にしよっかな、こっちの」


「あれ、引き寄せるのも影跳び(シャドーリープ)も同じ原理の魔法じゃないのか?」


 疲れからか地面に胡坐をかいたスナッチが首をかしげた。

何だかんだで魔法的な生き物であるため、こういうことは気になるのだ。


「えっとねスナッチ、影跳び(シャドーリープ)は目標の影に自分の影を合わせて跳ぶのね。

引き寄せる方は目標の影を自分の影に合わせる。

だから起こることは似てても、理論はちょっと違うの。

まー高祖父様の受け売りなんだけど……」


「抵抗されるってことか、使いにくいなあ」


「物とかでも軽ければこんなふうに取れるし、きっと何か役立つ方法があると思うんだわたし」


 言いつつ魔力を操作したセレストの掌に、小さな石が乗った。

少し離れた場所から“拾った”のだ。

スナッチが顔をしかめる。


「マスターはきっと盗賊としてなら大成できると思う」


「失礼ねー……ところでさ、スナッチっていつ貴魔(ノブル)じゃなくなるのかな。

悪魔は魔力供給で成長するんだよね?

常に魔力が湧き出してるわたしの傍にいつもいて、結晶も結構食べてるのにずっとそのままなの、不思議。

現世に出た貴魔(ノブル)をはじめとする悪魔の幼生は契約して半年もすれば、能力に応じた種類の成体悪魔に変化するってこないだ読んだ本にあったんだけど」


「全然わからんっていうか俺も早くおっきくなりたいぜ!

いや、大きさじゃなくて成体の悪魔になりたい」


「契約者の魂を食べなきゃいけないとか?

あげないけどね、いくらスナッチでも」


「それはないと思うな、契約が切れたらこっちに居られなくなる。

精神干渉したり囲ったりはするかもだ、いや俺はしないっていうかマスターが強すぎて無理だけど。

でも食べることはないぜ、自分から外で遊べなくなるようなことするわけない、特に俺たち貴魔(ノブル)は」


 セレストは考え込んでしまった。

実際スナッチの意見は筋が通っていて、二心ありそうな様子もない。

そして、少なくとも栄養が足りず成長が止まっているということはないだろう。

仮に彼女の供給する量で不足ならば、誰にも貴魔(ノブル)を成長させることなどできはすまい。

今後の課題である。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 そして数日後。


「ということで、スナッチにも影の魔法を覚えて貰おうかなって思うんだけど。

わたしの魔力が流れてるんだから、わたしの技術もある程度は使えないとおかしいよね」


「ええ、あんな難しそうなの俺は」


「聞いてたと思うけど高祖父様がさ、スナッチは取り込んだわたしの魔力をうまく活用できてないんじゃないかって。

何でかっていうとわたしが舐めると傷はすぐ治るし、結晶食べたら元気になるでしょ?

つまり、少なくとも直接渡した分の魔力はすぐにパワーにできてるわけ。

行方不明なのは普段から主従契約を通して流れてる分なの。

そっちの方が結晶とかよりずっと多いはずよね。

仮にまだ成長しないにしても力が湧いてこないのはおかしい。

ここから先は推測になるけど、貴魔(ノブル)が上に行くには契約から吸収する必要があるんじゃないかな?

つまり“わたしの魔力”の使い方を知らないといけない」


 長々しいセレストの説明を受け、スナッチは微妙な表情を浮かべていた。

彼の仮想肉体には悪魔なら誰でも持つ、契約から魔力を受け取るための器官が存在する。

契約が成立している以上そこから力が流れているのは確かだし、彼自身もちゃんと吸収している感覚を持っているのでどうにも納得できない。

だが、主が言っているならばそうなのかもしれないと思えてくる。


「う゛ー」


「どしたの、やっぱり練習するのとかは嫌かな」


 青く光る瞳がスナッチを見つめている。

セレストの容姿は最初に彼が契約を行ったときから全く変わっていないし、変える事もできない。

可愛らしく、恐ろしく、無邪気で、邪悪……な年齢一桁の女の子。

だがそれは見かけだけだ。

肉体以外の能力や練度は外見年齢通りのスピードで成長している。

セレストは本物の怪物だ。

これにはリッチ化したセレスト本人も、ナビゲーター兼使い魔である魔法生物リンガーリングも、仮想肉体の構造設計者であるセレストの先祖リッチモンドすらも気付いていない。

契約により魔力回路が開かれているスナッチだけが知っていて、まだ子供である上に他の主を持った事がない彼にはその重要性がわからない。


「……そこまでは嫌じゃねーけど、あれ、“命令”しないの?」


「別に今のスナッチでも、わたしはそんなに困んないし。

この前早く大きくなりたいって言ってたでしょ。

だからさっきも言ったけど、その方法を考えてみようって話の一環で」


「いや、うん、ああ。

えっとな、もし俺が成長したら嬉しい?」


「もちろん嬉しいよ、強い方がいいに決まってるし。

ま、わたしを差し置いて育つとかちょびっとは悔しいけど」


「んじゃやる!やるぞ俺、早速行こうマスター……あ?!」


 俄然やる気を出して笑ったスナッチの黒髪が逆立ち、早速試すべく家から出ようとした。

しかしその直後、立ち上がった彼の逞しい肩を、ふわりと飛び上がったセレストの小さな手が外見からは想像もつかない力で掴み、引き倒す。


「待って待って、まずは勉強。

高祖父様も起こさなきゃいけないし座ってなさい」


「勉強?何の?」


「影の魔法に決まってるじゃない。

実際に存在する亜空間を数値として把握して、関連するいろんな正負の値を操作するものだから、他の魔法と違って計算がいっぱい必要なの。

とりあえず、微分積分と代数学を一通りと四則演算の高速化ねー。

そんな顔しないの、大丈夫だって。

この体の並列思考と分析力強化があるとはいえわたしでも出来たんだから、スナッチなら余裕よ余裕。

悪魔ってみんな観察者なんでしょ、世界の事象を全て視認できる奴とかも居るっていうじゃない」


「え?え?え?俺はそういうのちょっと苦手気味で、あれ?」


「やっとやる気になったか!

二人目の後継者が現れてわしは嬉しいぞ、では早速始めようか。

喜びたまえスナッチ君、生前ならわしの直接講義は予約でいっぱい、上級貴族でもなかなか受けられなかったものだ。

それが専属ぞ、フハハハ!」


 セレストの影から取り出された、黒く分厚い本の中からリッチモンドが嬉々として飛び出した。

そうして、わずか数時間でスナッチは自身の決定をちょっぴり後悔する事となったのである。

ちょっと時間ができたので投稿。

次は25日か26日と思われます。

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