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愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


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9話 すれ違い

「……。」


黙る朔夜の、気持ちを悟る李雲。


「あの娘か?……紅蘭が…。」


「柚鞠に手伝ってもらった。

……今、一緒に居るんだ。」


声は強ばっていたが、表情は柔らかかった。

そんな朔夜を見て、李雲は少し諦めた様子で話し始めた。


「長には、俺がなろうかと思ってる。」


「本当か!?」


「紅蘭は、お前を強く押しているがな。」


呆れたように言う李雲。


「最近、下級の鬼が里でも人間の町でも、暴れているらしい。」


「それなら俺も見た。…盗みを働いていたのを捕まえた。」


「だろ!?そんなの野放しにしていると、人間との共存が難しくなる。」


李雲は、何か考え込む朔夜の肩に手を置くと、笑顔を見せた。


「…悪いな。」


朔夜は目を伏せたまま言う。


「気にするな。だが、たまには来いよ!」


「ああ。」


短く返事をすると、朔夜は里を出た。


(長が決まったら、戻らなくても平気になるな。)


そう思うと、心がふっと軽くなった。


戻った朔夜は山小屋の戸を開ける。

いつもなら、心乃葉が出迎えるのに、今は居ない。


(…心乃葉?)


モクレンの木の下、畑、井戸…。

そんなに大きくない家の敷地を一周する。


「もしかして!?」


朝、返事がなかった事を思い出した朔夜は、嫌な予感がして、胸がザワついた。


鬼の姿に戻ると、上空から目を凝らしてみる。


すると――心乃葉が地蔵の横にある石に、腰掛けているのが見えた。

人間の姿に戻ると、朔夜はゆっくり近づいた。


「……。」


足音と気配で、心乃葉も気づく。

そして顔を上げると、苦笑いをした。


「足…痛いのか?」


朔夜は咎める事なく、ただ安堵していた。

だが、心乃葉は違った。


「…なぜ怒らないの?勝手に山道を歩いてるのよ?」


「……無事なら良いんだ。」


朔夜はかがむと、心乃葉の手を取る。


「なんでそんなに優しいの!?」


口調が強い心乃葉に、朔夜は目を丸くした。


「優しいのは悪いのか?」


「悪くないけど…朔夜さんの気持ちがわからない。」


「俺は、心乃葉が好きで、一番に考えている。」


直接な言葉なのに、心乃葉には不満だった。もっと感情をぶつけてほしかった。


「…帰ろう。」


朔夜がそう言いながら、背中を差し出すと、心乃葉は渋々体を預けた。


次の日と次の日と…心乃葉は浮かない表情のまま、朔夜と過ごしていた。

畑仕事は楽しそうにしていたのに、全くやらなくなっていた。


「そろそろ野菜が取れるんじゃないか?」


見かねた朔夜が言う。


「……朔夜さんが取りに行けばいいじゃない。」


心乃葉は目を合わせず言い放つ。


「……一緒に、収穫したいのだが…。」


朔夜の真っ直ぐな言葉…嬉しいはずなのに、今の心乃葉には棘でしかない。


「今日はそんな気分じゃない。」


朔夜は、心乃葉が寝室の扉をビシッと閉めるのを見ると、困った表情を浮かべた。


(…どうせ、朔夜さんは何も言って来ない。)


心乃葉はそのまま、部屋に閉じこもる。

予想通り、朔夜は一人、野菜の収穫を始めた。


…ぐすっ。


心乃葉のすすり泣く声が、部屋に響く。


朔夜は動揺していた。

前の心乃葉とは違う事に…人間の娘の扱いに…。


(何がいけないんだ…。)


その日の夕げを済ませた後に、朔夜は意を決した。


「心乃葉……話したい。」


「……なんでしょう?」


心乃葉とは相変わらず目は合わなかった。


「俺は、心乃葉が大事だ。傷つけたくない…。」


「……私は、朔夜さんと…お喋りしたり、一緒に何処かへ行ったり……子供だって…。」


心乃葉は顔を赤くした。

夫婦になったのだから、子供を考えるのは、ごくごく普通の事。

だが、鬼の朔夜には時間は無限にある。

それゆえ子供の事は何も考えていなかった。


「……すまない…出かけるのは、少し待ってくれ。」


「もうすぐ私の誕生日です……家族に会いたい。」


心乃葉は朔夜に訴えかける。


「そうだな。それまでには……。」

(長が決まると良いのだが……。)


「約束だからね!」


「ああ……。子供の事も…誕生日を迎えたら、考えよう?」


「……はい。」


二人は顔を赤くした。

わだかまりが無くなった二人は、口付けをする。

だが、この口付けは二人にとって、最後のものになった……。



つづく。

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