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愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


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7話 雨宿りのお礼

昼が過ぎるといつの間にか雨は止んでいた。


「あ、そうだ。」


家族は朔夜の事を忘れていた。

だが、雨が止んだ事で、軒下に居る朔夜の事を思い出した。そして心乃葉は戸を静かに開けた。


「っ!?」


朔夜はいなかった。


「かーさん!男の人が居ない。」


「野宿の場所に戻ったんじゃない?」


「…声くらいかけてくれたらいのに…。」


そんな会話を、木の上から朔夜は聞いていた。


「心乃葉……。」


呟く朔夜の手には、ぼろ布が握り締められていた。


しばらく朔夜の姿は見られなかった。

そのせいか、家族は朔夜の存在自体を忘れかけていた。

そして警戒心が無くなった心乃葉は、川へ水汲みに来ていた。


「…娘。」


振り返る心乃葉。

そこには朔夜が立っている。


忘れかけていたけど、何故か忘れられない人…心乃葉は勢いよく立つと、着物をぎゅっと掴んだ。


「…急に……居なくて、何日も見てないから、ここを出たのかと思ってました。」


思ってもいない言葉を投げかけられ、朔夜は目を丸くした。


「……すまない。」


反射的に謝る。


「礼を……礼をしたいと、思っていた。」


そう言うと心乃葉の前に、無造作に枝を折ったモクレンの花を差し出した。


「綺麗……。」


初めて見るモクレンの花に、心乃葉の表情は明るくなった。


「…が……好きだったんだ。」


「え?」


「いや、好きなんだ。モクレンの花…。」


「モクレンと言うのですね。」


匂いを嗅ぐ心乃葉に、朔夜は続けた。


「…俺は、朔夜だ。名乗っていなかったな。」


「こちらこそ。

……心乃葉と言います。」


心乃葉を小さくお辞儀をしながら言った。

その一つ一つの動作を、朔夜は見逃さないよう、見つめていた。


一ヶ月の間、朔夜は家族に付かず離れずの生活をしていた。

時に、山で獣を狩ると、集落の皆に分け与え、川の水汲みも何日も行かなくてもいいくらい運んだり、ぼろ布の代わりの布を持って来たりとしていた。


そんな様子は、他の者たちの噂の的になっていく。


「――心乃葉ちゃんが、たぶらかしたんじゃないか?」

「私も見たよ。二人で歩いてとこ!」

「ここじゃあ、見た事のない花を持ってたね。」


噂話は、すぐに心乃葉と家族の耳にも入る。


「……。」


「噂の事か?」


浮かない顔の心乃葉に、朔夜は尋ねた。


「……はい。朔夜さんには感謝してますけど、たぶらかしたなんて…。」


「……それでもいい。」


「はい?」


「…俺は、心乃葉が好きだ。」


直接な言葉に、心乃葉の頭は真っ白になり、しばらくすると顔が真っ赤になっていく。


「あ、あの!私……好きとか、よくわからないので…。」


「ゆっくりで良い。」


朔夜はやっと想いを告げられた事を噛み締めていた。それと同時に、今度は同じ様な事のないようにと、固く誓った。


その夜、朔夜は心乃葉の家族に自分の気持ちを話した。


「まあ!」

「ねーちゃんとにーちゃん結婚するの?」


家族も祝福ムードだった。

だが、父親だけは反対した。


「……朔夜くんは、何をしている人なんだ?恩人ではあるが、謎も多い。」


「……そうですね…。」

(今回も父親に反対されるのか。)


父親の視線は緩む事はない。


「旅を…しています。

そこで山で飼った獣の肉や皮を町で売って暮らしています。」


「…ご家族は?」


「一人です。

……家族はいません。」


朔夜は何一つ嘘はついていない。

人間ではないと言う事を除いては…。


「そうか……。」


「心乃葉…さんを、幸せにします。」


頭を下げる朔夜の隣で、心乃葉もまた頭を下げた。

いつかのあの日と重なるように…。


(心乃葉…。)


「とーさん、今すぐお嫁に行くわけでもないんだし、朔夜さんのことゆっくりわかって行けば良いじゃない。」


「……まあ、そうだが…。」


渋々了承した父親に、弟たちは舞い上がっていた。


「またお肉食べたい!」

「わたし、お花を入れる皮の鞄を作ってほしい!」


「ああ、すぐ取ってきてやる。」


朔夜は目を細めて、二人に応えた。


────


度々朔夜は鬼の里へ帰っていた。


紅蘭に悟られないよう、次の長に誰かがなるまで、里のためになる事は率先して行動していた。


「お前が長になればいい。」


「俺は、お前の方が長に相応しいと思ってるよ。」


朔夜が紅蘭に言うと、眉間に皺を寄せた紅蘭が返した。


「……俺は、めんどくさいのは嫌なんだが。」


朔夜が零すと、紅蘭は鼻を鳴らした。


「人間の娘を好きになる時点で、めんどくさい事してるだろ。」


「……お前も好きなればわかる。」


「はっ。好きにならねーよ。」


紅蘭の返事を聞くと、何も言わずに朔夜は消えた。

そこへ柚鞠が来る。


「ほんと、性格真逆なのに、なんで仲良いの?」


「あ?仲良く見えるか?」


紅蘭は鼻で笑う。


「もう諦めてやんな。…人間と鬼が愛し合うのは、昔からあった事…否定なんて出来ないよ。ただ私たちが、長く生き過ぎるだけ…。」


「だから、変なのが産まれんだろ…。」


紅蘭と柚鞠の間には、しばし沈黙が流れた。

やがて紅蘭は何も言わずにその場を離れ、柚鞠もまた静かにその背を見送った。



つづく。

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