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愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


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6話 輪廻転生

タイムリミットは18時間。

こと切れたばかりの心乃葉には、十分な時間ではあった。


そして、朔夜は長屋の戸を叩いた。


「はーい。誰?」


女の鬼が出迎える。


「頼む、柚鞠(ゆまり)!助けてくれ!

この娘の輪廻を早めてくれ。」


術を使える鬼の柚鞠。

人間の姿の時は、まじないや呪い、占いを生業にしている。

本当の力を出せば、輪廻転生を操れる。


「え?…人間じゃないか!?」


「俺が……俺の愛した娘だ。」


「朔夜…あんた長に……あ、いや、この話は断ってたんだよな…。」


柚鞠は頭をぐしゃっとすると、部屋へ招き入れた。


「朔夜、翠魂を出しな。そうすれば、この子を見つけやすいし、魂も安定する。」


そう言われると、朔夜は集中し、全身から淡い光が現れる。

すると、光は集まり、口の中からビー玉くらいの玉を吐き出した。


柚鞠は心乃葉を、床には模様が描かれ、その上に置かれた布に寝かせた。


「出したぞ翠魂。…次はどうすればいい?」


焦る朔夜を、柚鞠は宥める。


「落ち着け。まだ時間は十分あるから。」


「…ああ…悪い…。」


柚鞠は、ふぅ。と深呼吸をすると、朔夜から翠魂を受け取り、儀式を始める。


心乃葉の身体から淡い光が、ゆらゆら立ち込めると、翠魂に吸収される。

そこから呪文を唱える柚鞠が割ると、翠魂と同じ色の光がふわりと放たれ消えていった。


「…割って、平気なのか?」


朔夜は困惑したように、柚鞠に尋ねた。


「翠魂は魂の欠片…それを依り代にして、輪廻する……と言った感じだ。」


「……そう、なのか。」


「ふふふ。わからなくてもいい。私が出来るのはここまでだ。日本に居るが、何処かまではわからない。」


「感謝する…。」


冷たくなる心乃葉を抱き抱えると、朔夜はもう一つ尋ねた。


「どれくらいで逢える?」


「んー…五十年後くらいてとこか。」


「そうか…鬼にとってそれくらい、瞬き程だな。」


朔夜は心乃葉に話しかけるように言った。

そして、ふっと姿は消えた。


「朔夜……。」


柚鞠は今まで朔夜が居た場所で、ポツリと呟いた。

まるでもう少し話たかったかのように。


―――五十年後


山間部の集落に、探し人は居た。

丁度出会った時と同じ、十六歳。

名は――心乃葉。


「……見つけた。」


朔夜は、木の上からその娘を慈しむような目で見つめていた。


数日間、朔夜は心乃葉の行動を探っていた。畑を耕し、小さい弟と妹の世話し、川へ水をくみにも行っていた。


(親は何をしている?)


家の方まで足を運ぶと、女が洗濯をしていた。


(あれは母親か…。)


夕方になると、男が釣り具を片手に家に入る。


「とーちゃん、おかえりー。」

「おさかな、とれた?」


そんな子供の声が漏れてくる。


「……取れたけど、玄太くんのお母さんに、ひえと取り替えたから2匹になってしまったよ。」


いつもの事のような光景。

子供たちも「じゃあ仕方ないか。」と納得していた。


(家族五人で、この食卓……前の心乃葉とは正反対だ…。)


朔夜は、目の前の心乃葉の家族を、信じられない様子で見つめていた。


次の日、人間の姿になった朔夜は、務めて冷静に…水汲みをする心乃葉に声をかける。


「…娘…手伝おうか?」


「え?」


いきなり声をかけられ、心乃葉は驚きと警戒心を募らせた。


「だ、大丈夫です。」

(この辺では見ない人…何かしら?)


「だが、大変だろ?」


引く様子のない朔夜。


「大丈夫ですからっ。」


水汲みもそこそこに、心乃葉は立ち去ってしまった。


(……くそ。なぜだ…。)


朔夜は地面を強く踏みつけた。


家に帰ると、心乃葉は朔夜の事を家族に話した。


「こんな何もない所に…怖いわね。」


母親は不快な顔をする。


「子供たちは外に出てはいけないよ。連れて行かれたら、きっと何処かに売られてしまうんだ。」


父親は、幼い兄弟に言いつけをした。

そして心乃葉にも、遠くへ行かないよう注意をした。


「うん。わかった。」


三日経っても、水汲みに来ない心乃葉を心配して、朔夜は家へ様子を見に行った。


畑に実る…やせ細った野菜を収穫していた。


(なんて貧しいんだ…。)


朔夜は拳を強く握りしめていた。


次の日は朝から雨だった。

家族は外に出ず、一日分の食事を何とかしようと、悩んでいた。


すると、「誰か居ないか?」戸の方から声がした。

恐る恐る開ける母親。

ずぶ濡れの朔夜が立っていた。


「っ!」


驚く母親に、気にせず続ける朔夜。


「雨に降られてしまい…布を借りれないか?礼はする。」


「…は、はい。」


母親は籠から一番綺麗な、だけど、ずたぼろの布を朔夜に申し訳なさそうに渡した。


「…助かる。」


頭を拭いていると、心乃葉が朔夜に気づく。


「あ!この前の人。」


「……君は、ここの者だったのか。」


「はい。私の家です。」


「そうか…。」


朔夜は、初めて知ったかのように頷いた。


(知っている。何日も前から…家族の事も。)


だが、それを悟られる訳にはいかなかった。

その会話を聞いていた母親の表情が曇る。


「心乃葉…この人、この前話してた男の人?」


「う、うん…。」


母親は、心乃葉を自分の後ろに下がらせ庇うように立つ。


「娘に何か用ですか?」


警戒心を隠そうとしない母親が尋ねると、朔夜はたじろんで答えた。


「いや…用なんて…。ただ雨に濡れてしまっただけで…。」


「……。」


母親の鋭い視線は、朔夜を捉えて離さない。


「ここは何もない集落です。早くお帰りください。」


「……。」


朔夜は黙ってしまう。

心乃葉に会いに来た。とは言えない。だが、引き下がるわけにもいかない。

考え抜いた朔夜。


「……道に迷ってしまって…。しばらく野宿していました。」


「野宿、を?」


「はい…雨が降るとは思わなかった。」


「まあ…。」


母親は目を丸くした。


「…軒下で良ければ、雨が止むまでどうぞ。」


警戒心は解かない母親の、精一杯の優しさだった。


「…感謝します。」


そう言うと朔夜は戸を開け、軒下で、雨が止むのをじっと待った。

家から漏れる、心乃葉の声を聞きながら…。



つづく。

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