↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/24

23話 通じ合う想い

ジャリっジャリっと足音が近づく。

朔夜はモクレンから離れて音のする方へ飛び出した。


「…心乃葉。」


「こんにちは、朔夜さん。」


「ああ。体は大丈夫なのか?」


「ええ……今は。」


「そうか…。」


少しの間会わなかっただけなのに、やつれた心乃葉を見て、朔夜は懐にしまった薬に触れる。


「心乃葉――」


「――朔夜さん!」


朔夜の声に被るように、心乃葉が力を込めて朔夜の名前を呼んだ。

その顔からは何かを決意したような、力強さがあった。


「ん?」


朔夜は反射的に返事をする。


「あの……。」


心乃葉はモクレンの押し花を胸に抱きしめたまま、朔夜を真っ直ぐ見つめた。


「私……朔夜さんが、好き…です。」


そう言うと顔は赤く染っていく。


今までの心乃葉からも、好意はあった。だが初めて自分から近づいていないのに、しかも愛情を示してくれた事に、驚きと嬉しさで、朔夜は薬から手を離した。


「……俺は…。」


朔夜は小さく頭を振ると、心乃葉を自分の胸に引き寄せる。優しく、でも力を込めて抱きしめた。


「俺も……好きだ。心乃葉を、初めて見た時から。」


その言葉を聞いて、心乃葉は胸がいっぱいになると、朔夜の背中に腕を回した。


二人はモクレンの木の下に寄り添って座っていた。


「不思議なんです…朔夜さんと、初めて会った気がしなくて。たまに、前にもこんな事あった!て思ったりして。」


(っ!前回の心乃葉も同じような事を言っていたな…。)

「そうか……前世は兄妹か、恋人だったかもしれないな。」


朔夜は、ふふ。っと笑いながら言うと、突然心乃葉が腕を掴んだ。


「朔夜さん!覚えててくれたんですね。私が言った事!」


(っ!?この感覚……今の心乃葉じゃない。)

「…心乃葉?」


「はい。」


「すまなかった。俺は……ずっとお前を守りたかった!」


「わかってます。ずっと前も、今も……。

言わなかったけど…私、玄浪さんに会う前までは……。」


そこまで言うと、心乃葉はゆっくり目を瞑り、開く。


「……朔夜さん?……私、今…。」


「……大丈夫。お前はお前だから。

俺は心乃葉の全てを、愛している。」


何が起こったのか分からず、不安に揺れていた心乃葉だったが、朔夜の言葉が、その不安ごと優しく包み込んでくれた。


それから他愛のない話を続けると、あっという間に夕暮れになる。


「長居をさせてしまったな。」


朔夜は心乃葉の頭の上にポンと手を置く。


「いえ……私が、一緒にいたかったから…。」


「俺だって一緒にいたい。ずっと……。」


心乃葉を自分の胸に引き寄せると、名残惜しそうに抱き合った。


「家まで送る。」


「いえ、大丈夫です!」


「しかし、病気の体じゃ辛いだろ。」


「…ここに、朔夜さんがいるのは、一花と私だけの秘密なんです。もし村の人に知られたら、朔夜さんに迷惑がかかるかもしれないので。」


「そんな事……。」


「町では普通に鬼が歩いてるそうですが、ここは田舎の村なので、いきなり朔夜さんが現れたら、驚きますから。」


心乃葉を困らせたくない朔夜は、小さく頷いた。


「では、階段の下まで……その分一緒にいられる。」


「……はい。」


そして二人は手を繋ぎながら、階段を一段一段ゆっくりと降り始めた。

しかし数段降りると、心乃葉の様子が変わっていった。


「ゴホッゴホッ!」


「心乃葉!?」


「はぁ…はぁ……っ、ゴホ!」


ポタ、ポタ…。

咳き混んだ心乃葉の口元から、血が零れると、地面を赤く濡らした。

そしてそのまま、心乃葉の体がゆっくりと傾くと、朔夜は素早く受け止めた。


「心乃葉!」


「さく、やさん……。」


それだけ言うと、心乃葉は意識を手放した。

朔夜は抱き抱えると、境内の井戸の水を汲み、懐から小さな薬包を取り出した。


「……お前が助かるなら、俺は。」


朔夜は薬と水を口に含むと、心乃葉の口にそれを流し入れた。

コクリと心乃葉の喉が動くのを確認すると、少し寂しそうな笑顔で見つめ、もう一度触れるだけの口付けをした。


朔夜は心乃葉をだき抱えたまま、村へ降り立つと、心乃葉の家へ足を向けた。


(懐かしいな…だが、随分変わった。)


歩いていると、村人に出くわす。


「わぁ!鬼だ!」


慣れた光景。だが、敵意は感じられない。


「すまない…この娘が倒れていた。家が知りたい。」


「あ、ああ…そこを右に曲がって二軒目だ。」


「ありがとう。」


朔夜は言われた通りに進んでいく。

家の様子は違っていたが、周りは確かに……前の家と同じ場所だった。


「心乃葉はずっと、ここに居たのか…。」


グッと涙を堪えると、家の戸を叩いた。

出てきたのは慌てた様子の母親だった。


「はい!」


「あの…。」


「っ!心乃葉!?」


驚きを隠せきれない母親を、宥めるように冷静な声の朔夜。


「何処に寝かせれば?」


「あ、えっと…こちらへ。」


案内されるまま、奥の部屋へ行くと、心乃葉を静かに寝かせた。


「この子…体が弱くて……今日も朝から見当たらなくて。何処へ行ってたのやら…。」


母親が朔夜の背中に零した。


「……この薬を、飲ませました。

具合が良くなるようなら、飲み続けて下さい。」


朔夜はそう言うと、母親に薬が入った紙袋を渡した。


「え?これはどんな?貴方は?」


「……。」


母親の質問に何も答えず、朔夜は家を後にした。その表情は険しく、感情をぶつけたくて、山へ走った。


木に拳を叩きつけると、その衝撃で枝葉が大きく揺れた。


(せっかく想いが通じ合ったのに……。)


心乃葉の顔が脳裏に浮かぶ。


「俺は……離れられるのか…心乃葉から…。」


────

朔夜から渡された薬が効いたのか、心乃葉の容体はみるみるうちに落ち着いていった。


診察に訪れた医者も、その回復ぶりに驚きを隠せなかった。


「このままなら、もう大丈夫でしょう。峠は越しましたよ」


母親は安堵の息を吐き、眠る心乃葉の手をそっと握った。


「この薬はどちらで?」


「……倒れた心乃葉を運んでくれた鬼の方が、持っていました。」


「そうですか…町でも手に入るかどうか…。鬼の知識なのか…。いや、すみません。見た事ないも薬だったので。」


医者は何とも言えない表情を浮かべ、困ったように頭をくしゃくしゃとかいた。


「そうなんですね……。」

(どうしてあの鬼は、心乃葉にこの薬をくれたのだろう…。)


母親は、朔夜が去っていった玄関を見つめた。


つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。