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愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


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22/24

22話 それぞれの想い

数日後。


一花は朔夜の元へ来ていた。

心乃葉の様子を伝えるために。


――「…そうか。」


「やっぱり二十歳まで生きられないのかなあ……。」


一花は手で顔を覆った。


「大丈夫だ。生きようとしていのだろ?心乃葉を信じてやれ。」


その言葉とは裏腹に、朔夜は自分の手を強く握り締めていた。


「……はい。」


「教えてくれて、ありがとう。」


「はい。」


一花は一礼すると、その場を離れていった。


誰もいなくなった境内で、朔夜は更に手に力を込める。

そして爪が食い込む。


ぽたり――。


赤い雫が、地面へ落ちた。


────


それから二ヶ月が経った。心乃葉はようやく、自分の足で歩けるまでに回復していた。 けれど、以前のように長く歩くことはできず、すぐに疲れてしまう。

それでも朔夜に会いたい思いが、足を動かし続けた。


「はぁ、ゴホッゴホッ。

はぁ……大丈夫、大丈夫。」


休憩する度にモクレンの押し花を胸に抱き、疲れた様子も見せないように、着物の裾を払い、髪を整えていた。


ようやく神社の境内に足を踏み入れる。


すると、朔夜の隣には見たことの無い女の人が立っていた。


(……誰だろう?綺麗な人…。)


それ以上近寄れずにいると、微かに会話が聞こえた。


「――いい加減里に戻って来な。

いつまで居る気だい?」


「……今までの心乃葉と、違うんだ。」


(今までの私?)


無意識に足が進むと、ジャリっと音がする。

二人の視線が心乃葉を捉えた。


「心乃葉!?大丈夫なのか?」


「あー、娘さんかい。」


やっと会えた朔夜を他所に、心乃葉は手のひらを握りしめると、女に向かって声を絞り出した。


「あの!お姉さんは、朔夜さんと…恋仲なんですか?」


「…ん?」


目を丸くする朔夜と女。

だが、すぐに女は口角を上げると、心乃葉に近寄った。


「そう見えるかい?

そうだろうねぇ。朔夜とは千年以上の付き合いだ。お互いなんでも知ってるよー。

だから娘さんとは釣り合わないよ!」


「辞めろ、柚鞠。」


制止する朔夜の手を、柚鞠は見せつけるように絡ませた。


「っ!」


心乃葉は今にも泣きそうな顔になると、その場から去って行ってしまう。


「心乃葉!」


「辞めるのはあんただろ。」


朔夜の肩がビクリとする。


「関わらないと決めたなら、ここに来ないようにした方が良いだろ?」


「……。」


それ以上何も言えず、朔夜の手のひらは赤く滲んでいく。

柚鞠はその手をゆっくり開くと、包み紙を乗せた。


「頼まれてた薬。あの子に効くかわからないけどね…薬をあの子に渡して里へ戻るか、薬を渡さず、ここに残るか。

あんたは多くを求めちゃ駄目だよ。」


「……わかってる。俺が心乃葉を殺しているって…。」


ため息をつくと、柚鞠は何も言わず、姿を消した。


心乃葉が階段を下っていると、探しに来た一花に出会う。


「心乃葉!そんなに動いちゃダメじゃない!」


「……ごめん。」


朔夜に会えただろう心乃葉の表情は暗く、一花が尋ねると、心乃葉はしゃがみこみ、泣いてしまった。


「どうしたの!?」


「朔夜さん…女の人が居たの。」


「えっ!?」

(心乃葉の事、大切そうだったのに…。私の勘違い?)


一花は心乃葉の背中を摩る。


「帰ろう?段々暗くなるし、おばさんたちも心配してるから。」


「グスっ…うん。」


そうしてゆっくりと、心乃葉の体を気遣いながら階段を降りていった。


失恋からなのか、病気からなのか、心乃葉は布団で過ごす事が多くなっていた。

毎日お見舞いに来ていた一花は、見兼ねて朔夜の元を訪れていた。


「こんにちは。朔夜さん。」


「ああ。どうした?」


「心乃葉が…。」


朔夜は勢いよく立ち上がる。


「心乃葉が!?大丈夫なのか?」


「は、はい。」

(心乃葉の事、気にかけてると思うのだけど…。)


一花は、今の心乃葉の病状を話し、意を決して柚鞠の事を聞く事にした。


「あの…恋人が居ると聞きましたが…。」


「恋人?」


少し考えた後、朔夜はモクレンの木の横に腰掛けた。


「あいつは同じ鬼で、古い付き合いだが、それだけだ。

この前、心乃葉は恋人だと勘違いしたまま帰ってしまったからな。」


「そうなんですか!……良かった。」


話し終えると、一花は心乃葉に朔夜との会話を伝えた。


「そうだったの…。」


「恋人じゃないって!良かったじゃない!」


「うん。」


誤解は解けたのに、浮かない表情の心乃葉。


「心乃葉?」


「私…朔夜さんに、想いを伝える!」


「……え?」


一花の笑顔が、一瞬だけ固まった。

わかっていたことなのに、胸の奥がキュッと痛んだ。それでも一花は笑ってみせた。


「そっか…心乃葉なら大丈夫だよ!」


「ありがと!」


心乃葉は不安と緊張から、上手く笑えなかった。

それから心乃葉は布団から出られるようになり、村の中を歩いていると、一花に会う。


「心乃葉!大丈夫?丁度今、行こうとしてたの。」


「うん。早く朔夜さんに会いたいから…私、きっと、そんなに長くもたないのでしょ…。」


一花は言葉に詰まってしまう。


「そ、そんな事…。」


「血を吐いたのだもの…。

自分でもわかるわよ。」


力無く笑う心乃葉に、一花は涙を堪えた。少しでも長く生きて、朔夜と一緒にいられますようにと願うばかりだった。


「冬になる前には行けるようになりたいな。」


「そうだね。寒いとあの階段は大変だわ。」


それから二人は毎日村の中を歩いては、畑仕事の手伝いをしていた。


一方の朔夜は、しばらく心乃葉が尋ねて来ない事に不安になると、薬を渡しに行こうと決意する。そしてモクレンに寄りかかり、最後の別れを告げていた。



つづく。

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