2話 結婚しよう
心乃葉は確認のため河川敷へ来ると、人集りがあり、掻き分けて進むと、それはあった。
「心乃葉ちゃん!」
「あ、おばさん…。」
近所のおばさんに声を掛けられ、駆け寄る。
「何があったの?なんで太田さんが…。」
「昨晩飲み歩いていた時に襲われたそうだよ。」
説明されてる横で違う人が横から入る。
「女癖が悪いからな〜。怨恨じゃないか?」
「いや、傷口からすると、間隔が短い鋭い物で割かれてるって。」
色々な言葉が飛ぶ中、太田の父親が涙を流しながら、ポツリと呟いた。
「…鬼じゃないか?」
「なんだって!?」
「嘘でしょ…。」
周りがざわつく。
遠い昔から、鬼と人は共存していたが、悪い人が居るように、悪い鬼も居る。
凶悪な事件があると、お互いがお互いのせいにしていた歴史があった。
その日の夜。
心乃葉はモクレンの木の下にいた。
ザッザッ。と足音が聞こえて振り返ると、朔夜が立っていた。
「…こんばんは。」
心乃葉から声を掛ける。
「あぁ。今日も悲しそうだな…でも初めて会った時とは少し違う。」
「不思議な方ですね…まだ三回しか会ってないのに…私、わかりやすいですか?」
「いや……何かあったのか?」
朔夜が一歩前に出ると、心乃葉は目を伏せてしまう。
「許嫁の方が殺されました。」
「…それで悲しいのか?」
「太田さんが殺されて、正直何も感じてません…。」
「なら、なんで。」
「うちは商いを営んでるのですが、経営が傾いていて、太田さんと結婚を条件に援助してもらう予定だったのです。」
心乃葉の頬を涙が伝う。
「女の私は継げないし、許嫁を殺された女を嫁に欲しがる人はいません。このままではうちは…。」
手で顔を覆う。
「好きな奴…そいつに頼れば良いだろ?」
朔夜の心は軋むが、本心だった。
「ダメです。あの人は…もう世帯を持っていますから。」
「なっ!」
朔夜は後悔した。
もっと調べれば良かった。心乃葉を自由にと思って太田を殺したのに、逆に悲しませてしまった。
「ならば、俺が!」
(何を言おうとしてる?俺は鬼だぞ!?)
心乃葉と目が合う。
「…俺と結婚しよう。」
「え……」
「商いは…少しはわかる。好きでもないやつと結婚するなら、俺でも良いだろ?」
「結婚ですよ?朔夜様にご迷惑が……。」
「迷惑ではない。俺もそろそろ結婚しろと言われているし。」
(まあ、嘘だが……。)
朔夜はぎこちなく笑顔を作ると、心乃葉はクスっと笑った。
「ありがとうございます。急ですし、父には私から伝えます。」
「……いや、急だからこそ、俺が言って説得する。」
「ですが。」
「明日、両親に会わせて欲しい。」
少し考えて心乃葉の出した答えは、戸惑いを隠しきれていない、小さな頷きだった。
─────
(…これが緊張というものなのか?)
朔夜はモクレンの木の下で、心乃葉を待っていた。
「朔夜様!」
「…心乃葉。」
「昼間に会うのは初めてですね。」
「ああ…夜の時もだが、昼の時も…綺麗だな。」
「へ?」
思わぬ言葉に、心乃葉の返事は変なものになり、顔もみるみる赤くなっていった。
だが、朔夜は気にも止めず心乃葉の手を取り歩き出した。
「あ、あの!」
「なんだ?」
「手、手が…あの手を…。」
「好き同士は手を取って歩くのだろ?」
朔夜は首を傾けていた。
「す、好き同士……あの、私はまだ…朔夜様の事知らないですし…。」
「……演技だ。」
朔夜は意図がわかり、顔を赤らめた。
「そう、ですか。演技…しないとですものね。」
赤い顔の心乃葉は、取られた手をキュッと握り返した。
(なんだ?それで力を込めたつもりか?
これだけでも可愛いなんて…。)
二人は心乃葉の屋敷に着くと、両親の前に正座していた。
「……急に、どこの者かも知らないやつを、婿になんて。何か企んでいるのか!?」
怒りを含ませた父親が朔夜に言い放った。
「心乃葉…さん、とは、少し前に知り合いました。私の一目惚れです。商いには少し知識がありますので、役にたてるかと…。」
怒気を向けられても、朔夜は眉一つ動かさず、穏やかな笑みを浮かべていた。どこか揺るぎない自信すら感じさせた。
「……。」
「…あなた、少し、家の手伝いをさせてみたら?」
見かねた母親が進言すると、「仕方ない。」と言いながら、父親は小さく頷いた。
つづく。




