18話 居場所
モクレンの木の下に、村民が集まっていた。風が強く吹く中、朔夜が空から降り立った。
「今度は鬼だ!」
「うわー!」
どよめく村民の中から、父親と母親が朔夜の前に出てくる。
「朔夜、なのか…。」
「…はい。」
「心乃葉!?」
「……俺が、殺してしまった。」
「っ!」
父親は朔夜を殴り、母親は泣き崩れてしまう。
「…これ、荷物です。」
約束していた荷物を母親の前に置いた。
「それと、心乃葉を…半日貸してください。」
「何を言ってる!今すぐ――」
父親の言葉を、母親が遮った。
「…良いわ。」
「お前!何を言ってるんだ!」
「…ごめんなさいね。朔夜さんが、心乃葉に気があるのを知ってて、私…引き止めてしまった…。」
朔夜の瞳から涙が溢れた。
誰にも言った事はなかったけど、隠してるわけでもなかった想い。
誰かに…母親だけにでも知ってもらえて、嬉しかったのかもしれない。
「う…すみません…うぅ…心乃葉を守れなくて…。」
溢れる涙が心乃葉を濡らす。
「…なんだか知らないが、絶対戻って来い!心乃葉と一緒に。」
「はい。必ずお返しします。」
「違う。お前も!」
父親に視線が集まる。
「朔夜はもう、息子みたいなもんだ!鬼、だから俺の方が若いだろうけど…村の復興を手伝え!」
「何言ってんだ!鬼だぞ!」
「心乃葉を殺したんだぞ!?」
村民の言葉に父親が続けた。
「そうだが……心乃葉と朔夜が同時に居なくなるなんて、俺は……。それに鬼と人間は共存しているんだ。何が悪い。」
「しかし!」
「俺はこえーよ。」
納得しない若者たちの中から、一人、声をあげた。
「儂は、朔夜が居てくれた方が助かるよ。腰が悪くなったら、また薬をお願いしたい。」
最初に薬を渡した老人だった。
ニコリとすると、まだ微かに暖かい心乃葉を撫でて涙を流した。
「さあ、行きな。」
そして、父親が朔夜を送り出した。
――鬼の里
(三度目か…柚鞠に怒られるな…)
朔夜は柚鞠の家の戸を叩く…前に後ろから声を掛けられた。
「朔夜?」
知っている声。
恐る恐る振り向くと…紅蘭だった。
そして同時に、朔夜の腕の中の心乃葉にも気づく。
「お前…その娘って…。」
険しい顔をして朔夜に詰め寄る。
「どういう事だ?俺が前に…なんでここに居るんだよ!」
「……。」
黙る朔夜に、紅蘭が掴みかかろうとした時、家の戸がガラリと開いた。
「なんだい!?うるさいねー。」
柚鞠は二人を見た後、朔夜の腕の中の心乃葉を見て、驚いていた。そして、またか。と諦めの混じったため息をついた。
「朔夜…もう――」
「わかってる!今度は関わらない!探しもしない!心乃葉が生きていればいい!」
「……柚鞠、どういう事だ?」
今まで見た事ない必死な朔夜を見て、紅蘭は訳も分からず、柚鞠に尋ねる。
「後で、説明する。」
「頼む!柚鞠…儀式をしてくれ。」
「……わかった。」
三度目の儀式が始まり、割れた翠魂から同じ色の光が放たれた。
「成功した。……と思う。」
「すまない…礼を言う。」
儀式を終えると、朔夜は約束通り心乃葉を連れて、村へ戻った。
父親は安心した様子で、母親は泣いてばかりだった。玄浪と新道の行方はわからず、村民と侍の遺体は、同じ場所に埋められていた。
そして心乃葉は、大好きなモクレンの木の下に埋めた。
「こんな事するのは……初めてだな。」
輪廻をするのか確信が持てないのもあり、朔夜は村に残り、戦に巻き込まれないよう守る事にした。
いくつかの季節を迎える。
「朔夜は?」
「心乃葉の所よ。」
心乃葉の両親は、自分たちが死ぬまで朔夜の傍に居た。心乃葉の代わりだったかもしれない…だが朔夜にはそれだけで十分で、生きていた中で一番穏やかに過ごしていた。
二百七十年後――そして、最後の輪廻が始まった。
つづく。




