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愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


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16話 正体

「お世話になりました。」


一礼する新道は、最後まで"良い人”の仮面を付けて村を去った。


「心乃葉、必ず…戻るよ。俺が生きてた事を報告しに行くだけだから。」


「……玄浪さん。」


心乃葉は頷き、名残り惜しそうに、玄浪の名前を呼んだ。

朔夜とは視線だけで会話をすると、頷き、玄浪も村を後にした。


こうして、季節は過ぎる。

モクレンの花が咲き、散る。


この年は村には珍しく、少し暑い夏だった。


「今年は暑いなー。」

「こんな北国には珍しいな!」


畑仕事をしている村民が話している。


(嫌な予感がする。)


朔夜は山へ入ると、鬼の姿になり、空から辺りを見回した。

玄浪たちが向かって行った方向の山の麓に、数名の侍を見つける。


(偵察か?)


息を潜めて侍の近くまで寄る。

すると――


(っ!何故…そんな格好で……玄浪!)


朔夜の顔が怒りで歪んでいく。

玄浪は甲冑姿で、今にも戦をする気配を出していた。


「こっちで合っているのか?」

「ああ。この森を抜ければ、あの地図にない村がある。…もう少しだ。」

「では、私は本隊と合流し、道案内をして来る。」

「任せました。」


朔夜の耳に、会話は流れ込んでくる。


(そういう事か…あの村を乗っ取るつもりなんだ…早く皆を逃がさないと!)


朔夜は人間の姿に戻ると、心乃葉の家に駆け込んだ。


「皆!ここを離れた方がいい!」


「どうした急に…?」


「山の上から、侍がこっちに来ているのが見えた。嫌な予感がするんだ。」

(頼む…信じてくれ!)


「……心乃葉が、玄浪さんの家の掃除に行ってて居ないのよ。」


母親が言うと、朔夜は目を見開いた。


「……お義母さん。信じてくれるのか…。」


「当たり前よ。朔夜さんから一度でも、嫌な感じはした事ないもの。」


ニコリとすると、父親が続けた。


「だが、何処に逃げればいい?皆にも伝えないといけないな。」


「…裏山はどうだろう?侍たちは正面の山の麓を歩いていた。」


「そうするか…母さんは荷物を。

俺は皆に伝えるから、裏山で落ち合おう。」


「俺は心乃葉を連れて行きます。待たずに登って下さい。」


「ああ、頼んだ!」


そうして、各々が己のやるべきことを果たすため、動き始めた。


「心乃葉!」


朔夜は玄浪の家の戸を勢いよく開けた。

だが、家の中はもぬけの殻。


「……どこへ行った?」


少し考えると、思い当たる場所があった。

心乃葉と玄浪は、いつも田んぼのあぜ道にある、お地蔵さんの横に座って逢瀬を重ねていたから。

そしてそれを朔夜は度々見つめていた。


(あそか…裏山とは逆方向だな…。)


一度家に戻ると、父親が村民を説得しているのが見えた。


「そんな急に言われても…。」

「本当なのか?」

「山へって…村を出た方がいいんじゃないか?」


朔夜は堪らず口を挟んだ。


「村を出ても、馬ならすぐに追いつかれてしまう。ここは相手からは敵地なんだ…逃がしてくれるわけない!皆殺されてしまう!」


年寄りたちは、朔夜の言葉に耳を傾け家へ戻ったが、若い者たちは容易に信じることはなかった。


「…お義父さん、心乃葉が居なくて…多分地蔵の所かと…。」


「裏山と真逆じゃないか!」


「大丈夫です。まだ間に合うかと…お義母さんは?」


話していると、母親が大きな荷物を背負って歩いて来た。


「お前、そんな大きな荷物で…山なんて登れないだろ!」


「だって…。」


「…お義母さん少しにして。俺が後で持って行くので、裏山の入り口に置いておいてください。」


母親を宥めていると、朔夜の耳にカチャ、カチャと規則正しい音が聞こえた。


(この音……玄浪か!?)

「お義父さん、お義母さん早く!

もう、すぐそこまで来ている!」


それだけ言い残すと、朔夜は走って田んぼへ向かった。


そこは絶望への入り口。そして引き返せない運命の道でもあった。


つづく。

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