14話 記憶の中
寒さも和らぎ、朔夜と心乃葉は山菜を採りに山へ来ていた。
すると――忘れられることの出来ない香りと共に、白い花をつけた木が目の前に立っていた。
「これ…は……。」
「あ、これはモクレンですよ。綺麗ですよねー…私の好きな花なんです。朔夜さんに言いませんでしたっけ?」
朔夜は目を見開く。
「いや、聞いた事なかった…。」
「そうですか…。なんだか朔夜さん、ずーっと前から居るみたいな感じがして。」
「そう、だな。」
始めて、今までの心乃葉との思い出に重なる事があり、朔夜は動揺していた。
そんな朔夜の様子に気づく事はなく、心乃葉は山菜採りを始めていた。
夕暮れに近づく頃。
「そろそろ行こうか。」
「そうですね。」
帰り道、ふと、心乃葉が足を止めた。
「どうした?」
「私、前にもあったんです。
朔夜さんが始めて家に来て、お茶を出した時…こんな事、前にもあったような気がして。」
朔夜の顔を見上げる。
「どこか懐かしいような……前世は兄妹?恋人?ふふふ、そうだったら素敵ですね!」
悪意のない言葉に、朔夜の頬に一筋の涙が零れた。
「え!?ごめんなさい。変な事言いましたね。」
「……いや、違う。すまない…心乃葉…俺はお前を大切にしたいだけなんだ…。」
顔を手で覆う朔夜。
心乃葉はその言葉の意味がわからず、首を傾げるだけだった。なのに何故か、目が離せないでいた。
無言のまま、下山すると、玄浪が心乃葉の家の前で佇んでいた。
「玄浪さん!どうしたの?」
「あー、その…会いに来たら、お袋さんが山へ行ったって言うから…迎えに行こうと思ってたところ。」
二人は顔を赤くしていた。
「心乃葉を一人で行かせるわけないだろ。」
朔夜は心乃葉の後ろから声をかけた。
「…玄浪も夕飯食っていくのか?」
声も視線も冷たいのに、悪意がない事に二人は気づいていた。
「じゃあ、ご馳走になります!お父さん!」
朔夜の肩に飛びつく玄浪。
ふふふ。と笑う心乃葉。
穏やか時間は過ぎていく……
だが、不穏な足音がヒシヒシと村に迫っていた事に、この時は朔夜でさえ、気づいていなかった。
季節は巡り、雪が空を舞う日だった。
仕掛けた罠から獲物を持ち帰る道中で、朔夜は目撃してしまう……口付けを交わす心乃葉と玄浪。
「っ!」
わかっていたことなのに、目の当たりにすると、全身を握り潰されているように軋んだ。
(俺の居る意味は、もう無いな。)
踵を返すと、二人から逃げるようにその場を後にした。
心乃葉が家に帰ると、父親の大きな声が外まで聞こえていた。
「どうしたの?おとうさん。外まで聞こえてるよ。」
「心乃葉からも言ってくれ!朔夜がこの村を出ていくって言うんだ!」
「え……どうして…。」
「お母さんも、玄浪も良くなった。村の人たちも元気だ。俺は必要ない。」
心乃葉の視界に自分が入る事はなくなると思うと、本心なのに、胸が苦しくなった。
「せめて、冬を越してからにしたらどう?」
見かねた母親が言う。
「そうよ!そうしましょう?」
「しかし……。」
「それからまた、考えれば良いだろ!」
父親と心乃葉も賛同すると、困惑しながらも、朔夜は同意してしまう。
「では、そうしよう。」
────
雪はシンシンと降り積もり、朔夜が訪ねて来て一年が経とうとしていた。
「ねぇ、なんか…声が聞こえない?」
心乃葉が言うと、皆が耳を澄ました。
「……。」
「そう言われれば…聞こえるな…。」
「だよね?」
鬼の朔夜の耳には、はっきりと聞こえた。
「おーい!」と誰かを呼ぶ声。
嫌な予感がすると、朔夜は家を飛び出した。
声のする方へかけて行く。
「――おーい!玄浪は居るかー?」
一人の男が村へ足を踏み入れた。
「誰だ!?」
低く唸るように言う朔夜。
「あっ!っと。驚いた!
村の人かね?俺は玄浪ってやつを探してて…戦場から死体も見つかってないんだ、何処かで生きてると信じて、色んな村で探してるんだ!」
警戒心を解くことなく、朔夜は答えた。
「同じ玄浪かわからんが、確かにここにいる。」
「そうか!会わせてくれないか?」
「構わない。ついてこい。」
「良かった!やっと会えたよ!」
ニコニコする侍を他所に、朔夜の顔は険しかった。
つづく。




