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愛し方を間違えた鬼は、何度でも君を失う  作者: 白 月虹


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11話 雪国の村

そこは雪深い北国だった。


心乃葉は父親と夜に張った罠の確認へ行く。

何ヶ所か周って行くと……。


「あ!お父さん、居たよ!」


「…やっとだな。」


足を取られる程の雪の中、父親は小さな獲物を拾い上げた。


「早く帰ろう。お母さんが待ってる。」


「うん…。」


そこは、それ程大きくはない村。

それぞれの家が自給自足で成り立っている。


「ただいまー。」


「…おかえ、ゴホッゴホッ!」


酷く咳き込む母親。体が弱く、寝込む日も度々だった。


「今日は寝ていろ。小さいが、獲物が取れたから、すぐに暖かい物を作ってやる。」


父親はそう言うと、調理を始めた。


「ごめんなさいね…。」


「私、薪を持ってくるね。」


「ああ。」


そんな会話を、朔夜は木の上から聞いていた。


「病気か……。」


呟くと、その場から消えた。


数日後、また雪が深くなると、薬箱を背負った朔夜が村へ足を踏み入れた。


心乃葉の家に着くまでに、何軒か訪ねる。

薬売りを装って、怪しまれないようにしていた。


そして、心乃葉の家の前…深呼吸をして、戸を叩いた。


「はい。」


ゆっくり、ガラガラガラと、目の前の戸が開けられる。

心乃葉の母親だった。


「…あ、あの、薬を売っていて…。」


「こんな田舎で…貴方みたいな身なりの薬を買うお金は、ありませんよ。」


母親は優しく微笑んだ。


「大丈夫だ!…ぁ、です。薬と言うか、薬草で…お金は、いらない…旅をしているので、何か食べ物か…寝床を…。」


朔夜は、断られた事に焦りを感じると、早口で弁解をした。


「…もうすぐ、主人が戻るので、相談してください。ゴホッゴホッ!」


母親がよろけたのを、朔夜は素早く受け止める。


「すみません…。」


「いえ、こちらこそ…無理させました。」


朔夜は上がりまちに、母親を座らせると、土間に薬箱を下ろした。


中から、薬の包みを出すと、母親に渡した。


「これは、咳や喉の痛みに効くから、飲んでみて欲しい。」


「…勝手には、頂けません…。」


母親の呼吸の中には、ひゅーひゅーと音がする。


(なんの病だ?)

「……なんの病気ですか?」


「さあ…こんな田舎に、ちゃんとした医者は居ないので…ゴホッゴホッ…。」


手のひらに、赤いものが滲んだ。


「っ!」


驚く朔夜。


「夫と子供には内緒にしてください!」


「しかし、ただ事では…。」


「心配かけたくないのです…。」


母親は目を伏せた。


「では、この薬も秘密で。ご主人が戻られたら、話しをさせてもらいます。」


「…ありがとうございます。」


そう言うと、母親は居間で薬を飲んだ。


「私は外で待たせてもらう。家の中に男が居たら、驚くでしょう。」


朔夜なりの気遣いだった。


「わかりました。私は横になります。」


母親は力なくニコリとすると、布団の中へ横たわった。

朔夜は見届けると、玄関の戸を静かに開けて、雪が降る外で待ち続けた。


「ああ、今度は雪か……。」


いつかの日の思い出と重なった。


しばらくすると、父親が帰宅する。

軒下に居る朔夜に、警戒心を顕にした。


「あんた誰?そこは俺の家だ。」


「あ、すみません。私は――」


母親にした説明を、父親にもした。

視線も言葉も父親に向けていたが、全神経は、その後ろにいる心乃葉へ向けられていた。

鼻の頭を赤くし、寒そうにしていた。


(心乃葉…。)


十六にしては、少し幼く見える。


(食べる物が少ないのだろうか…。)


「――と言う訳で、自分たちの分で精一杯だよ。」


父親の拒絶の言葉で、朔夜は我に返った。

すると、畑を挟んだ三軒隣のおばあさんが、朔夜を訪ねて、こっちへ来る。


「薬屋さーん!」


(あの人は、さっきの…。)

「はい。ここです。」


「さっきはどうも!おじいさんが貰った、腰痛に効く薬、もっと分けて欲しいの。」


「良いですよ。」


「ありがとう!おじいさんが、飲んで、ちょっとしたら治った!て言うの。…そんなすぐ良くなるわけないのにねー。」


そう言うおばあさんの顔は明るかった。

その会話を、父親は黙って見ていた。


「ごめんね。またお団子で…。」


「良いです。美味かったから…。」


「ありがとう!」


そうしておばあさんは、朔夜から薬を受け取ると、帰って行った。


「……うちの、妻が……妻の咳に効く薬はあるか?」


朔夜の目が見開らかれた。

心乃葉も少し驚いている様子だった。


「あります。」


父親の後に続いて、朔夜と心乃葉は家に入って行く。


「良かったね。」


朔夜にしか聞こえない声で、心乃葉が言うと、朔夜は手を伸ばしかけて、引っ込めた。


家の中に入ると、いつもは布団の中に居る母親が、囲炉裏の前で、お茶を啜っていた。


「…お前……具合は、いいのか…。」


「あなた!……ええ。今は…。」


父親の後ろに居る朔夜が視界に入る。


「お客さん?……お茶を…。」


立ち上がろうとする母親を、心乃葉が制した。


「おかあさん!私がやるからいいよ!」


(心乃葉が淹れたお茶か…久しぶりだな!)


朔夜は心内のそわそわを知られないよう、冷静を装った。


父親に促され、囲炉裏の前に座ると、母親と視線を交わした。


(……ありがとうございます)


母親の目に浮かんだ感謝に、朔夜は小さく頷いた。


(薬が効いて良かった)



つづく。

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