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5『怪物vs怪物』

 放課後、残業を終えたカレンは保健室の鍵を閉めて職員室へ向かう。外は夜の帳に包まれており、カレンは薄暗い廊下を歩き始めた──直後、カレンは素早くナイフを抜くと、転身して飛来する刃を叩き落とした。

「ふぅん、やるじゃない。落ちこぼれにしては、だけど」

 そう言って、月明かりの下に姿を現したのは、カレンの姉のメイア・クラフトマンだった。

「何の用?」

「決まっているでしょ。アンタを殺す為よ」

 クラフトマン家は要職者の護衛や暗殺を生業とする一族である。カレンは三姉妹の末妹で、メイアは次女だ。己の才能を過信する癖があるが、それを裏付けるだけの実力を保持している。

「一族──評議会から離反すれば、こうなる事は分かっていた筈よ。一体どういうつもり?」

 有人に命を預けると決心した日に、カレンはクラフトマン家と絶縁した。無論、現在のような状況に陥る事は予想していたが、有人の許しを得ずに死ぬつもりは無かった。カレンは構えを固めた。

「あはは! 落ちこぼれのアンタが私と勝負するつもり? 面白い。遊んであげる!」

 メイアは一足でカレンに接近し、ナイフを振るった。それをカレンもナイフで受け、次々に放たれる斬撃の悉くを捌いた。

 メイアはもう一方の手にナイフを握ると、鋭い刺突を繰り出した。二刀流だ。この二刀流こそメイアが最も得意とする型だった。

「!」

 カレンの頬を刃が擦過する。咄嗟にメイアと距離を取った。

「少し本気になっちゃった。驚いたわ。落ちこぼれなりに努力したのかしら?」

 メイアは余裕の笑みを浮かべる。その時、階段を下りる靴音が響いた。巡見に向かう有人、亮、冬子の三人だった。

 来るな、とカレンが叫ぶ間も無く、有人達はメイアと邂逅する。次の瞬間、メイアはナイフを有人に向けて放った。そのナイフの柄を亮が軽々と掴み取る。

「物騒な姉ちゃんだな」

 瞬く間に亮は姿を変える。人狼(ウェアウルフ)。半人半獣の亜人種だ。

「返すぜ」

 そう言って、亮がナイフを投げる。弾丸のような速度で空を裂くナイフが、メイアの肩に突き刺さった。

「ッ!」

 メイアはナイフを引き抜いて、反撃に転じようとするも、足が動かなかった。雪女の冬子が、床を介してメイアの片足を瞬時に凍らせたのだ。そして、カレンが背後からナイフで心臓を貫いた。

「落ちこぼれの……分際で……!」

 メイアは怨嗟の声を漏らしながら絶命した。

「殺したんですか?」

 人間の姿に戻った亮がカレンに訊ねた。

「うん。でも君達が罪悪感を感じる事は無いよ。殺さなければ殺されていたからね」

 カレンは亮と冬子に事情を話す。評議会の事。自分が元殺し屋である事。全てを聞き終えて、亮と冬子は事情を飲み込んだ。

「今日の巡見は止めて帰った方が良い。私は死体を処理するから。有坊、手伝ってくれる?」

「ああ」

 そうして、この日は解散する事になった。



 世界秩序評議会本部──。十人の要職者が馬蹄形のテーブルに腰掛けて、各々の進捗状況を報告していた。全員が黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っている。更にマイクで音声も変えていた。

 一通り報告が終わり、簡潔に議論を交わす。最後に最上座に腰を下ろし、唯一緑色のローブを着た者が口を開いた。

「星の巡りは待ってはくれぬ。儀式の準備を急がせよ」


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