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悪役令嬢RTA(リアルタイムアタック)~断罪イベントまで残り10分ですが、最短ルートで国外追放されてみせますわ!~  作者: 高橋 淳


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9/10

第9話 真のラスボスは運営

部屋の空気は、重かった。


《これ以上、RTAを続行しないでください》


視界へ浮かぶ無機質な文字。

それは数秒後、ゆっくり消滅した。


静寂。


窓の外では吟遊詩人の歌声が響いている。


だがエルーゼは、机の前で完全に固まっていた。


「…………」


長い沈黙の末。

彼女はゆっくり椅子へ座り直した。


そして。


「なるほどですわね……」


静かに呟く。


前世で幾度となく見た。


ゲーム内部エラー。イベント補正。フラグ強制回収。


RTA走者としての経験が、今の現象を一つの答えへ導いていた。


(これ、バグではありませんわ)


紙へペンを走らせる。


エルーゼの目は、完全に解析モードへ入っていた。


「まず、わたくしは本来あり得ない速度で断罪イベントを突破しましたわ」


さらさらと図を書き込む。


「にもかかわらず、王太子の好感度は上昇」


さらに線を引く。


「国外追放成立寸前で書類不備発生」


「隠し攻略対象との異常接触」


「追放撤回イベント前倒し」


並べられる異常挙動。

どれも共通点があった。


—エルーゼをシナリオへ引き戻している。


エルーゼはゆっくり顔を上げた。


「つまり」


脳内で、何かが繋がる。


「この世界には、“物語を成立させる力”がありますのね」


乙女ゲーム。恋愛シナリオ。攻略対象。感情イベント。


本来なら、悪役令嬢エルーゼは。


断罪され。

退場し。

主人公セシリアの恋愛を盛り上げる舞台装置として終わる存在だった。


だが。

エルーゼはRTAを始めてしまった。


シナリオを高速突破し。

感情イベントを飛ばし。

恋愛構造を崩壊させ始めた。


だから。


「世界そのものが、補正をかけていますの」


それはバグ修正だった。


運営側の強制力。

どれだけ逃げても。どれだけ国外へ出ても。


シナリオがエルーゼを王都へ戻そうとしてくる。


なぜなら。


悪役令嬢が不在だと物語が成立しないから。


エルーゼは静かに息を吐く。


「真のラスボス、運営ですのね……」


普通の人間なら絶望していた。


だが。エルーゼはRTA走者だった。


理不尽な仕様。

強制イベント。

隠し補正。


そんなものには慣れている。


むしろ。燃える。


「面白いですわ」


机へ広げられたメモを見つめる。


ここまでの補正パターン。

イベント発生条件。


強制介入のタイミング。

すべて共通している。


—シナリオ進行可能状態を維持している。


つまり逆に言えば。


「ロード先そのものを壊せばいい」


ぽつり、と。

エルーゼは呟いた。


その瞬間。


部屋の温度が下がった気がした。


《警告》


再び文字が浮かぶ。


《危険な発想を検知》


エルーゼは笑う。


「やはり反応しますのね」


確信した。今の仮説は正しい。


乙女ゲーム世界は、決められたシナリオへ収束しようとしている。


ならば。


その収束先を壊せばいい。


前世のRTA界隈には、そういう技が存在した。


イベントメモリ破壊。ロード破損。シナリオ飛ばし。


本来読み込むべきデータそのものを壊す禁断技。


当然リスクは高い。

最悪、ゲーム自体がクラッシュする。


だが。


「シナリオロード破壊チャート……」


エルーゼの目が、獰猛に細くなる。


「組めなくはありませんわね」


《最終警告》


《それ以上の解析を禁止します》


文字列が赤く染まる。

だがエルーゼは止まらない。

むしろ楽しそうですらあった。


「ふふ」


静かな笑い声。


「運営側が止めに来るということは」


彼女はペンを置いた。


そして。


「通るチャート、存在しますわね?」

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