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悪役令嬢RTA(リアルタイムアタック)~断罪イベントまで残り10分ですが、最短ルートで国外追放されてみせますわ!~  作者: 高橋 淳


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第5話 城門突破チャート

「遅すぎますわ!!!!」


悪役令嬢の怒声が、王宮大広間へ響き渡った。

文官たちが一斉に肩を震わせる。


「通常、国外追放には通行証明、財産申告、身分抹消記録、国境通知書など多数の手続きが必要でして……」


「簡略化を」


「できません!」


「なぜですの!」


「制度だからです!!」


制度は強かった。

エルーゼは険しい顔で腕を組む。


RTAにおいて、行政処理は最大級の敵である。

だが、ここで暴れても進まない。


必要なのは最適化。


(……でしたら)


エルーゼは即座に思考を切り替えた。


「必要書類の記載項目を先に提示してくださいまし」


「え?」


「わたくし側で埋められる部分は埋めますわ」


文官たちがざわつく。

本来、追放される令嬢がやる態度ではない。


だがエルーゼは真剣だった。

待機時間を減らすためなら、事務作業も最適化する。


それがRTA走者。


「こちらです!」


半ば押し付けるように書類束が渡される。


次の瞬間。

エルーゼのペンが消えた。


「!?」


いや、速すぎて見えないだけだった。


氏名。家名。魔力署名。資産申告。国外移送同意。


超高速で埋まっていく。


「速っ……」


「筆記魔法を使ってるのか……?」


「いいえ、手書きですわ」


なおさら怖かった。

数分後。


大量の書類が机へ叩き返される。


「完了ですわ」


「は、はいぃっ!」


文官たちが涙目で最終確認へ走る。

その時だった。


「……エルーゼ」


静かな声が広間へ落ちた。


場の空気が変わる。


豪奢な深紅のドレスを纏った女性—王妃マリアンヌが姿を現す。


レオニスの母であり、この国の社交界頂点に立つ存在。


エルーゼは即座に一礼した。


「王妃殿下」


「少し、話をしましょう」


(感情イベントですわね)


エルーゼは冷静に分析する。


本来ここは、幼い頃からエルーゼを知る王妃が、別れを語る重要シーン。


だが同時に、長い。かなり長い。


しかし。


(ここは無理に切れませんわね)


さすがに王妃の会話を遮るのは、貴族社会的に致命的。

国外追放どころか、不敬罪チャートに入りかねない。


エルーゼは大人しく姿勢を正した。


王妃はゆっくり近づいてくる。


「貴女は幼い頃、とても泣き虫でした」


「…………」


「レオニスが庭で転んだだけで、自分のことのように泣いていたのを覚えています」


会場が静まり返る。

レオニスが少し目を逸らした。

エルーゼは内心で困惑していた。


(知りませんわね……)


前世の記憶しかないので。


だが王妃は続ける。


「だから私は、いつか貴女が良き王妃になると思っていました」


静かな声だった。

責めるでもない。

怒るでもない。


ただ、少し寂しそうな声。


エルーゼは数秒黙り込み――やがて静かに頭を下げた。


「……期待に応えられず、申し訳ございません」


広間が少しざわめく。


今日初めてだった。


エルーゼが、ちゃんと令嬢らしい顔を見せたのは。


王妃は微かに微笑む。


「ええ。だからせめて、最後くらいは無事に行きなさい」


「……はい」


そこで初めて。


エルーゼは会話を終えた。


無理に切らない。だが引き延ばしもしない。


最低限の礼節で収める。


RTA走者としての妥協点だった。


その直後。


「しょ、書類確認完了しました!!」


文官が駆け込んでくる。


「国外追放手続き、正式受理です!!」


(通りましたわ!)


エルーゼの脳内でファンファーレが鳴る。

続けて、外から馬のいななきが聞こえた。


「移送用馬車の準備も整っております!」


王宮正門前。


黒塗りの大型馬車が待機していた。

本来なら三日後に使われるはずだったものを、王宮側が半泣きで超特急手配した結果である。


エルーゼは満足げに頷いた。


(チャート、大幅更新ですわね)


そして彼女はドレスの裾を軽く持ち上げると、優雅な早足で歩き出した。


……歩くスピードがちょっと速い。


かなり速い。

もはや競歩に近い。


「エルーゼ様、速っ……」


「急ぎたいけど淑女らしさは捨てないつもりなんだ……」


妙な感心が広がる。


やがて王城正門。

月明かりに照らされるその先へ、エルーゼは迷いなく進む。


城門兵たちが門を開いた。

その姿を見送りながら、一人の兵士が呟く。


「……なんて鮮やかな追放なんだ……」


隣の兵士も静かに頷いた。

誰もが思っていた。


こんなにも“手際のいい国外追放”は、王国史上初であると。

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