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悪役令嬢RTA(リアルタイムアタック)~断罪イベントまで残り10分ですが、最短ルートで国外追放されてみせますわ!~  作者: 高橋 淳


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3/5

第3話 説教イベントをスキップせよ

「……では、少しだけ揉めます?」


悪役令嬢らしく、美しく微笑んだエルーゼ。


会場全員が、

「そこ調整可能なんだ……」

という顔をした。


数秒の沈黙。

そして。


「こ、こほん!」


進行役の老教師が、強引に空気を立て直した。


「では改めて!エルーゼ・フォン・アルヴィア!貴女の数々の問題行動について、王太子殿下より正式な言葉があります!」


(来ましたわね)


エルーゼの脳内タイマーが点滅する。


《国外追放RTA 00:12:08》


本イベント最大級のロス区間。


—断罪説教パート。


王太子が悪役令嬢の傲慢さを語り、貴族としての在り方を説き、心の持ちようを諭し、最終的に断罪へ繋げる長編会話イベントである。


前世のプレイヤーたちからは、

『長い』

『飛ばせ』

『二周目以降つらい』

など散々な評価を受けていた。


(平均十四分三十二秒……)


エルーゼは記憶を掘り返す。

しかも途中で選択肢がない。


完全拘束。


RTA的には地獄だった。


「エルーゼ」


王太子レオニスが一歩前へ出る。

金髪碧眼。

絵画のように整った顔。

本来なら、ここで彼は冷たく言い放つ。


『君には失望した』


だが今日は違った。


なぜなら相手が、

「次の工程へどうぞ」

とか言い出す女だからである。


レオニスは微妙に警戒していた。


「君はこれまで、自らの立場を利用し、セシリアに対して数々の嫌がらせを――」


(始まりましたわね)


エルーゼは冷静に分析する。

まずい。

テンポが完全に通常進行へ戻っている。


このままでは長い。非常に長い。


(どこかで短縮を――)


その瞬間。

エルーゼの脳裏に、貴族礼法の知識が蘇った。


高位者が長く話し続ける際、聞き手は相手の体調を気遣うべし。


王族相手ならなおさら重視される作法。


つまり。

礼儀を盾にすれば、話を圧縮できる。


(仕様の穴ですわ!)


エルーゼは即座に行動した。


「殿下」


レオニスが止まる。


「……なんだ」


エルーゼは優雅に頭を下げた。


「長時間のお話、お疲れでしょう」


「は?」


「どうかご無理なさらず。要点を三行でお願いいたしますわ」


沈黙。

完全な沈黙。

空気が凍った。


教師が固まる。

攻略対象たちが息を呑む。


セシリアが「えぇ……」みたいな顔になる。


しかし。

誰も“無礼だ”とは言えなかった。


形式上、エルーゼは王太子を気遣っている。


礼法的にはギリギリ成立している。

いやギリギリすぎる。


レオニスはしばらく無言だった。


やがて額に手を当てる。


「……君は昔から、妙な方向に頭が回るな」


「効率化は大切ですもの」


「断罪で使う言葉じゃない」


呆れた声。

だが怒鳴るほどではない。


むしろ。


「……ふっ」


小さく、笑った。

エルーゼの動きが止まる。


会場も止まる。


レオニス本人すら、一瞬「今の誰が笑った?」みたいな顔をした。


「殿下?」


「いや……なんでもない」


だが口元には、わずかに笑みが残っている。


その瞬間。

エルーゼの脳内に、不穏なSEが鳴り響いた。


♪テレレンッ


《レオニス殿下の好感度が上昇しました》


「…………」


エルーゼの表情が死んだ。


(終わりましたわ)


RTA走者として理解してしまう。

これはまずい。非常にまずい。


恋愛ゲームにおいて、“意図しない好感度上昇”は事故である。


しかも相手はメイン攻略対象。

最悪クラス。


(なぜですの!?)


意味がわからない。

断罪を急かし。

証拠提出を省略し。

説教を三行に圧縮した。


どう考えても嫌われるムーブである。


なのに。


(バグですわ!!)


エルーゼは内心で絶叫した。


一方その頃。

レオニスはエルーゼを見ながら、少しだけ考えていた。


(……今日のエルーゼ、妙に面白いな)


完全にチャート崩壊の兆候だった。

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