第2話 証拠提出は最速で
初日なので2話投稿しています
明日からは1話ずつ投稿になります
よろしくお願いします
卒業パーティー会場。
静まり返った広間の中央で、エルーゼ・フォン・アルヴィアは優雅に立っていた。
脳内タイマーは、淡々と時を刻んでいる。
《国外追放RTA 00:07:01》
(まずまずのペースですわね)
本来、この断罪イベントは非常に長い。
王太子による糾弾。
攻略対象たちの怒り。
主人公の涙。
悪役令嬢の見苦しい弁明。
そして最後に判決。
フルスキップ不能イベントとして、前世では多くのプレイヤーに嫌われていた。
だが今のエルーゼは違う。
彼女はプレイヤーではない。
走者だ。
「……エルーゼ」
王太子レオニスが、ようやく再起動したように口を開いた。
「君はセシリアに対し、数々の嫌がらせを行ったな」
「はい」
「授業ノートを隠し――」
「やりましたわ」
「階段で転ばせようとし――」
「わたくしですわね」
「茶会でドレスに紅茶を――」
「見事にかかりましたわ」
テンポが良すぎた。
会場がざわつく。
貴族たちがひそひそ声で囁き始めた。
「認めた……?」
「早くない?」
「潔いとかそういう次元ではなくてよ……?」
レオニスも困惑していた。
台本と違う。
完全に違う。
本来ここで悪役令嬢は、
『わたくしではありません!』
『平民風情の嘘ですわ!』
『証拠があるのですか!?』
などと抵抗する。
そして証人が呼ばれ、追加証拠が提示され、イベントが進行するのだ。
しかし今。
証拠提出前に全部認めている。
しかも食い気味に。
(テンポが悪いですわね……)
エルーゼは若干いら立っていた。
断罪イベントは長い。
だが大半が確認作業で構成されている。
つまり。
短縮可能。
RTA的には、ここをいかに高速突破するかが重要なのだ。
「……ゴホン」
進行役の老教師が咳払いした。
彼は学園で風紀を司る教師であり、この断罪イベントの実質的な司会者である。
「では、証拠を提出—」
「不要ではなくて?」
「…………え?」
「すでに認めましたもの。工程を省略できますわ」
教師の口が半開きになる。
広間に再び沈黙。
エルーゼは続けた。
「証拠確認、証人召喚、感情的対立。この辺りは演出としては理解できますけれど、進行効率は最悪ですわよ?」
「し、進行効率……?」
「はい。既に犯人確定済みですもの。次フェーズへ移行すべきですわ」
教師が止まった。
完全に止まった。
長年学園に勤めてきた彼ですら、このタイプの悪役令嬢は見たことがない。
隣では王太子も混乱していた。
「……エルーゼ。君は、本当に反省しているのか?」
「しておりますわ」
「ならばなぜそんな態度なんだ!?」
「だって反省と進行速度は別問題ですもの」
正論みたいな顔で言うな。
空気がそう語っていた。
攻略対象たちもざわついている。
「なんなんだこいつ……」
「急に怖くなってきたな……」
「断罪され慣れているのか……?」
もちろん慣れてはいない。
ただRTA走者なだけである。
エルーゼは扇子を閉じた。
「それで?次は判決ですの?」
「い、いや……その前に、被害者であるセシリア嬢の発言を――」
「あっ、そこ飛ばせませんの?」
「飛ばせません」
「強制イベントでしたのね……」
エルーゼは小さく舌打ちした。
その瞬間。
「え、えっと……」
今まで空気になっていたヒロイン、セシリアが恐る恐る手を挙げた。
会場の視線が集まる。
セシリアは困った顔をしていた。
「あの……エルーゼ様?」
「なんですの?」
「もう少し……揉めませんか……?」
「…………」
「その……なんというか、わたしがすごく悪いことしてる空気になってて……」
確かにそうだった。
泣きながら糾弾されるはずの被害者が、今や進行に置いていかれている。
周囲の貴族たちも妙な顔になっていた。
「むしろエルーゼ嬢のほうが主導権を握ってませんこと?」
「断罪会場を仕切っている……」
「王太子殿下より進行に詳しいぞ……」
異様だった。
完全に異様だった。
だがエルーゼは冷静に考える。
(しまったですわね)
チャートを急ぎすぎた。
イベントには最低限の“盛り上がり”が必要だ。
強引に飛ばしすぎると、進行役が混乱しフリーズする。
これはロスになる。エルーゼは深く息を吐いた。
そして。
「……では、少しだけ揉めます?」
悪役令嬢らしく、美しく微笑んだ。
会場全員が、
「そこ調整可能なんだ……」
という顔をした。




