第1話 記憶復帰RTA開始ですわ!
10話完結、全て予約投稿済みです‼️
毎日投稿になりますので、ブックマーク登録していただけると続きから読みやすいかと思います
初日の今日のみ、夜7:30頃に2話目を予約投稿しています
王城大広間は、むせ返るほど華やかだった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリア。
磨き抜かれた大理石の床。
楽団が奏でる優雅なワルツ。
そして、色とりどりのドレスに身を包んだ貴族たち。
—乙女ゲーム『聖ラフィリア学園恋愛譚』終盤—
卒業記念パーティー。
ここで全ルート共通の一大イベントが発生する。
すなわち。
「エルーゼ・フォン・アルヴィア」
王太子レオニスの低い声が、広間に響いた。
その瞬間だった。
公爵令嬢エルーゼの脳内で、何かが弾け飛んだ。
視界がノイズ混じりに歪む。
知らないはずの景色。
見覚えのあるUI。
走馬灯のように流れ込んでくる記憶。
(……あっ)
そして彼女は、すべてを思い出した。
(わたくし、転生しておりますわ!!!!)
前世。日本。二十三歳。
職業—RTA走者。
ゲームを最速でクリアすることに人生を捧げ、睡眠時間を削り、バグと乱数とフレーム単位の最適化に魂を売った女。
その彼女が今いるのは、かつて一度はやろうと決めたものの後回しにしていた乙女ゲームの世界だった。
『聖ラフィリア学園恋愛譚』
通称・ラフィ恋。
攻略対象との恋愛を楽しむ王道乙女ゲームである。
そして自分は。
主人公に嫉妬し嫌がらせを繰り返した挙げ句、最後に断罪される悪役令嬢。
エルーゼ・フォン・アルヴィア。
(最悪ですわね)
しかもタイミングが悪い。
悪すぎる。
なぜなら現在。
断罪イベント直前だからだ。
脳内で、無機質なタイマー音が鳴った。
《断罪イベント開始まで 残り10:00》
「…………」
エルーゼは扇子で口元を隠した。
冷静に状況を整理する。
このゲームにおける悪役令嬢ルートは、大きく分けて三つ。
一つ。
処刑エンド。
論外。
二つ。
投獄エンド。長い、暗い、自由がない。
しかもイベントスキップ不可。
精神的拘束時間が長すぎる。
(クソチャートですわ)
三つ。
国外追放エンド。国外へ送還されるが、命は助かる。
さらに一部設定資料集によると、追放先は気候温暖・海産物豊富・税率低め。
(これですわね)
エルーゼの瞳が鋭くなる。
RTA走者としての本能が告げていた。最適解。
最速。最短。
目指すべきは—国外追放。
問題は条件だ。
国外追放ルートには、「反省の意思なし」「貴族としての品位欠如」「社交界での大規模失態」など、複数のフラグが必要になる。
通常プレイでは意外と難しい。中途半端に泣いたり謝ったりすると、投獄送りになる。
つまり重要なのは。短時間で最大効率のヘイトを稼ぐこと。
(チャート構築開始ですわ)
エルーゼは高速で思考する。
現在位置、人物配置、イベント進行。
主人公セシリアは王太子の隣。
攻略対象たちも勢揃い。
完璧な断罪布陣。
残り時間—8分43秒。
「エルーゼ。君の行いについて、話がある」
王太子レオニスが厳かに口を開く。
来た。
断罪イベント開始。
本来ならここで、悪役令嬢は見苦しい言い訳を並べ立てる。
しかし。
エルーゼは違った。
(前置き、長いですわね)
RTA走者にとって、長尺イベントは敵である。
ムービーは飛ばしたい。
会話も最適化したい。
彼女は一歩前へ出た。
ドレスの裾が翻る。
広間中の視線が集まる。
そして。
「前置きが長いですわ」
「…………は?」
王太子が固まった。
貴族たちもざわめく。
だがエルーゼは止まらない。
「断罪パートへ進行してくださいまし。こちらも予定がありますの」
静寂。
楽団の演奏すら止まった。
空気が凍る。
主人公セシリアが「えっ」と小さく声を漏らした。
攻略対象の騎士団長子息はワインを吹きかけている。
王太子レオニスは理解不能なものを見る顔になった。
「……エルーゼ。君は、自分が何を言っているのか理解しているのか?」
「もちろんですわ」
エルーゼは優雅に一礼した。
そして、にっこり微笑む。
「わたくし、本日をもちまして悪役令嬢を引退いたしますの」
脳内タイマー。
《国外追放RTA 開始》




