表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭命  作者: 狂咲狂三
4/5

第三話.真実

ターン2。

カードが配られる。

須藤の指は、さっきよりも明らかに震えていた。

(落ち着け……今のはただの言葉遊びだ)

だが頭の奥では、別の声が響く。

“ここからが本番です”

「質問は?」

須藤は一瞬だけ迷い、すぐに口を開いた。

「……俺のカード、強いか」

ディーラーは、今度は間を置かなかった。

「弱いですね」

即答。あまりにもあっさりと。

(……まただ)

須藤の眉がひそむ。

(こいつは、わざと分かりやすくしてる)

「どのくらいだ」

「下の上」

微妙な表現。だが今度は、引っかからない。

(“公開カード”の話だろ)

須藤は冷静に整理する。

(つまり俺の見えないカードは別問題……)

「マークは?」

「一致しています」

須藤の心臓が跳ねた。

(マーク一致……中役)

悪くない。むしろ、攻められる。

ディーラーが静かに言う。

「ベットを」

須藤は、チップを3枚出した。

「……レイズだ」

強気。さっきの勝利が、背中を押していた。

ディーラーは、それを見てほんの少しだけ首を傾げる。

「ほう」

そして、ゆっくりと2枚追加した。

「コール。さらにレイズ1枚」

合計4枚。

(来た……)

須藤の喉が鳴る。

(こいつが乗ってくるってことは――)

強い?それとも、ブラフ?

(さっきと同じだ)

(“信じさせて”から、落とす)

須藤は歯を食いしばる。

「……コール」

これで2コール。あと一回で勝負。

ディーラーが、じっと須藤を見る。

「……降りても構いませんよ」

その一言。須藤の神経を、逆撫でした。

「……は?」

「合理的判断です。あなたのチップは有限ですから」

(煽ってる……!)

須藤の中で、何かが切れる。

(ここで降りたら、“読まれてる”って認めることになる)

「……コールだ」

三回目。勝負成立。

「オープンを」

須藤はカードを開く。

「……9」

悪くない数字。

そして公開カードが降ろされる。

「……3」

合計12。マーク一致。

(勝てる……!)

須藤の視線がディーラーに突き刺さる。

「今度はどうだ」

ディーラーは、ゆっくりとカードをめくった。

「4と、5」

バラバラ。

合計9。

須藤の勝ち。

「……っしゃあ!」

思わず拳を握る。連勝。流れが来ている。

チップが須藤の前に積まれていく。

だがディーラーは、何も変わらない。

「おめでとうございます」

その声は、あまりにも平坦だった。

須藤は笑いながら言う。

「どうした、“破滅のディーラー”。今日は調子悪いんじゃないか?」

ディーラーは、静かにカードを整える。

そして、ふと口を開いた。

「いえ」

その目は、変わらず冷たい。

「予定通りです」

須藤の笑いが、止まる。

「……は?」

ディーラーは、チップの山を軽く見た。

「あなたは現在、増えています」

「だが?」

「申告額に対して、リスクを取り始めている」

須藤の表情が、わずかに曇る。

「それが何だ」

ディーラーは一歩も引かない。

「人は、勝つほどに“自分の判断を信じる”ようになる」

カードを切る音が響く。

「そして――」

一瞬だけ、視線が鋭くなる。

「負ける準備が整う」

空気が、変わった。須藤の背中に、冷たい汗が流れる。

(……こいつ)

(わざと、勝たせてるのか?)

だが、その考えをすぐに打ち消す。

(ありえない)

(そんな都合よくコントロールできるわけがない)

「……次だ」

須藤は低く言った。ディーラーは、微笑む。

「ええ」

カードが配られる。

ターン3。

空気は、もはや重く沈んでいた。

須藤の前には、積み上がったチップ。

最初の倍以上。呼吸は荒いが――目は笑っている。

「……はは」

乾いた笑い。

「見えてきたな」

ディーラーは何も言わない。ただカードを切る。

(あと一回勝てばいい)

須藤の頭の中は、それだけだった。

(3ターン中、勝ち越せばいいんだ)

(今は――勝ってる)

実際、須藤はこの時点でリードしていた。

あと一勝。それだけで、生きて帰れる。

「質問は?」

「……俺のカード」

須藤は余裕を持って言う。

「強いか?」

ディーラーは、一瞬だけ須藤を見た。

「強い」

短く、断言。

須藤の口元が歪む。

(来た)

「マークは?」

「一致しています」

中役以上確定。

(勝ちに行ける)

須藤は迷わない。

チップを5枚、叩きつけた。

「レイズ。最大だ」

場が一瞬で張り詰める。ディーラーは、そのチップを見てわずかに、息を吐いた。

「……随分と大胆ですね」

「終わらせるだけだ」

須藤の声は、確信に満ちている。

「あと一回だ。分かってるだろ?」

ディーラーの指が、カードの端をなぞる。

(……そうだ)

(あと一回)

その“あと一回”が、どちらにとってのものか。

その認識に、わずかなズレがあった。

ディーラーは、ゆっくりとチップを出す。

「コール」

同額。

さらに1枚追加。

「レイズ」

合計6枚分。須藤の眉がわずかに動く。

(乗ってきた……?)

だが、引く理由はない。

(ここで勝てば終わりだ)

「……コール」

二回目。

静寂。

ディーラーが、静かに言う。

「……確認します」

須藤を見る。

「あなたは、“あと一勝で勝ち”だと思っている」

須藤は笑う。

「思ってる、じゃない。事実だ」

ディーラーは、ほんの少しだけ目を細めた。

「なるほど」

間。

「では――コール」

三回目。

勝負成立。

「オープンを」

須藤は迷いなくカードを開く。

「……10」

高い。そして、公開カードが降ろされる。

「……10」

数字一致。最強役。

「――っしゃあ!!」

須藤が立ち上がる。勝利を確信した叫び。

「終わりだ!!」

その声が、部屋に響く。ディーラーは、動かない。

ゆっくりと、自分のカードをめくる。

「9と、9」

数字一致。同じ役。

須藤の笑いが、一瞬止まる。

(……同じ?)

ディーラーが静かに言う。

「合計値での比較になります」

10+10=20

9+9=18

「……あなたの勝ちです」

須藤は、大きく息を吐く。

「は……はは……!」

完全勝利。そう思った。その瞬間。

ディーラーが、静かに口を開く。

「では」

カードを整えながら言う。

「最終ターンに移ります」

須藤の思考が、止まる。

「……は?」

ディーラーは顔を上げる。

その目は、どこまでも冷静だった。

「現在、あなたは“3勝”です」

「でも、終わってませんよ?」

須藤の顔から、血の気が引く。

「……何、言って――」

「このゲームの勝利条件は、“3勝”ではありません」

一拍。

「“合計金額での勝利”です」

空気が、凍りつく。

須藤の視線が、ゆっくりとチップへ落ちる。

積み上がった、大量のチップ。

だが――

(……俺の申告額は、5億)

(つまり1枚、5000万)

そして。さっきのターンで賭けたチップは

「あなたは先ほどのターンで」

ディーラーが淡々と告げる。

「合計6枚を賭けました」

6枚 × 5000万 = 3億

須藤の呼吸が、止まる。

「一方で私は――」

ディーラーのチップは、少ない。

だが。

「申告額は、あなたより高い」

その意味を、須藤は理解する。

(……価値が、違う)

ディーラーのチップは――

1枚の重みが違う。

「つまり現在」

静かな宣告。

「あなたは、“次の一敗で逆転不能”です」

須藤の足が、震える。

(……嘘だ)

(俺は今、勝ってるはずだ)

勝っているのは、“回数”だけ。

このゲームは最初から。

「金額」でしか、見ていない。

ディーラーがカードを差し出す。

「最終ターンです」

その微笑みは、変わらない。

「――どうぞ、運命を賭けてください」

須藤は、理解する。

自分が。どこで。何を間違えたのかを。

そしてもう、引き返せないことも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ