第二話.ギャンブル
この作品は主人公がディーラー側です。
ターン1
テーブルの上には、すでにいくつかのチップが積まれている。挑戦者は、額の汗を拭った。
(落ち着け……まだ一回目だ)
彼の申告額は5億。チップ1枚、5000万円。
軽くはないが、致命的でもない。
中庸を選んだつもりだった。
「では、配ります」
ディーラーがカードを滑らせる。
1枚目――手元。
2枚目――頭上へ。
挑戦者は、自分の“公開カード”が見えない。
だが。対面のディーラーには、はっきり見えている。
「……質問は?」
静かな声。挑戦者は息を整えた。
「俺のカード……高いか?」
一拍ディーラーは、ほんの少しだけ考える仕草を見せる。
「中の下、といったところでしょう」
曖昧な答え。
(信用するな)
挑戦者は内心で切り捨てる。
(こいつは“破滅のディーラー”だ。正直に答える理由がない)
「じゃあマークは?」
「バラバラです」
即答だった。
(早すぎる……)
挑戦者の指先が、わずかに震える。
(本当か?それとも……)
ディーラーの指が、トン、とテーブルを叩く。
「ベットを」
挑戦者はチップを2枚出した。
「コール」
ディーラーは迷わない。
同額を置く。
(強い……?いや、読めない)
挑戦者はは歯を食いしばる。
「……レイズ、1枚」
合計3枚。ディーラーは、わずかに目を細めた。
「理由を聞いても?」
「……あんたが、嘘をついてる気がした」
沈黙。数秒。ディーラーが、ふっと笑う。
「なるほど」
チップを1枚追加。
「コールします」
これで合計3枚。場の空気が、少し重くなる。
(引けるか……?)
挑戦者の脳裏に、“死”がよぎる。だが
(まだ三回目だ。ここで降りるのは……弱い)
「……コール」
三回目のコール。勝負成立。
ディーラーが静かに言う。
「オープンを」
挑戦者は、自分のカードを見る。
「……7」
悪くない。
そして、頭上のカードが下ろされる。
「……7?」
数字一致。
最強役。
挑戦者の目が見開かれる。
(勝った……!)
勢いよくディーラーを見る。
「お前は――」
ディーラーは、自分のカードをゆっくりと開いた。
「5と、7」
マーク一致。一段階、下。勝敗は明らかだった。
「……あなたの勝ちです」
チップが挑戦者の元へ寄せられる。
合計6枚分。挑戦者は、荒く息を吐いた。
「は……はは……!」
生きている。まだ、生きている。。
ディーラーは、淡々とカードを回収しながら言った。
「今のは、良い判断でした」
挑戦者は笑いながら答える。
「ああ、あんたの嘘を見抜いた」
その瞬間。ディーラーの手が、止まる。ほんの一瞬。
「……そう思いますか?」
静かな声。須藤の笑いが、止まる。
「え?」
ディーラーは、ゆっくりと視線を上げた。
「私は、嘘はついていません」
空気が、凍る。
「あなたのカードは“中の下”」
「そして“バラバラ”」
須藤の背筋に、冷たいものが走る。
「……いや、でも俺は――」
ディーラーは微笑む。
「あなたの“公開カード”が、です」
沈黙。数秒後。挑戦者の顔から、血の気が引いた。
(……そうか)
(俺は、自分の“見えないカード”と混同していた……!)
つまりディーラーは一切嘘をついていない。
だが、誤解するように誘導した。
「……っ」
挑戦者の呼吸が乱れる。
ディーラーは、次のカードを切りながら言った。
「次のターンに参りましょう」
その声には、感情がなかった。
「――ここからが、本番です」




