第四話.最終ギャンブル
この作品は主人公がディーラー側です。
最後のカードが配られる。
須藤の手は、もう震えていなかった。
覚悟が決まった人間の、それだった。
(負ければ終わり)
(でも――勝てばいい)
それだけだ。
「質問は?」
ディーラーの声。
須藤は、ゆっくりと笑った。
「……いらない」
ディーラーの眉が、ほんのわずかに動く。
「ほう」
「どうせ、お前は嘘はつかない」
須藤の目は鋭い。
「でも、真実を“都合よく歪める”」
「だったら同じだ」
須藤はチップに手をかける。
「聞く意味がねえ」
そして持っているチップ、全て。
さらに。
「足りねえ分も、乗せる」
空の手で、テーブルを叩く。
借金ベット。限界を超えた賭け。
「全部だ」
空気が、凍りつく。
ディーラーは、その様子を静かに見つめる。
(……来たか)
わずかな沈黙のあと。
チップを置く。
「コール」
同額。逃げ場は、消えた。
「……これで終わりだな」
須藤の声は、不思議と穏やかだった。
ディーラーは答えない。ただ一言。
「オープンを」
須藤はカードを見る。
一瞬。
そして――笑った。
「……悪くねえ」
公開カードを下ろす。
「8」
そして手元。
「8」
数字一致。最強役。須藤の目が光る。
「これで――」
勝ちだ、と言いかけて。
止まる。ディーラーが、まだカードを開いていない。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
指先でカードをめくる。
その動きは、あまりにも自然で。
誰も、気づかない。
ほんの一瞬。
カードの端が、“滑った”。
最初に見えた数字と。今、見えている数字が。
微かに、違う。それに気づける者は、いない。
「……7と、8」
数字一致。同じ役。
須藤の表情が、凍る。
(……は?)
さっきまで、違ったはずだ。
証明できない。ディーラーは、静かに続ける。
「合計値での比較になります」
8+8=16
7+8=15
ほんの、1の差。
「……あなたの勝ち、ではありません」
その言葉は、あまりにも淡々としていた。
「本ゲームの勝者は――」
一拍。
「私です」
須藤の視界が、歪む。
「……待て」
声が、かすれる。
「今……お前……」
言葉にならない。
証拠がない。
確信だけが、ある。
(こいつ……やった)
(今、やりやがった)
だが。遅い。すべてが、遅い。
ディーラーは、チップを回収する。
須藤の“全て”を。
「……あ」
須藤の口から、意味のない音が漏れる。
ディーラーは、静かに立ち上がる。
「ゲーム終了です」
その声には、何もない。感情も、躊躇も。
ただの事実。
「――敗者は、清算されます」
須藤の膝が崩れる。
最後に見たのは。ディーラーの、変わらない微笑みだった。
「これだからギャンブルは面白い。」
「さぁ、つれて行きなさい。」
そう言うとドアが開き黒い服を着た男が須藤の肩を持つ。
もう全てを諦めたのか何も言わない。
「とても面白かったですよ。」
黒服はそのままドアに行きお辞儀をして須藤と一緒に消えていった。
「では、次の挑戦者を待ちましょう。」
果たして次のギャンブルに勝てるものはいるのか...




