Side マクシム・ド・ラ・マルク伯爵(おじいさん)からの視点
私はマクシム・ド・ラ・マルク伯爵という名前になって20年以上が経った。
その以前の爵位は男爵でしがない田舎貴族の1人に過ぎなかった。不正を嫌い、正しい行いを信条として商会を立ち上げたことで、客からの信頼が厚く瞬く間に大きな商会になっていった。
男爵位だった時は小さな屋敷しか持てなかったが、お金に余裕も出てきたため一人娘のセリアのために大きな屋敷を建てることにした。しかし、私がおさめる男爵領の隣には評判の悪い伯爵が住んでいたため、セリアを男爵領に置いておくのは躊躇われた。妻はセリアを産んですぐに亡くなってしまったので、なおさらセリアに何かあったらと思うと心配でしょうがなかった。私は仕事の関係で家を開けることも多かったから不安だった。そこで治安も良く気候も良いというジファール公爵領に屋敷を構えることにした。
「ねぇ、お父様。ジファール公爵領にお家を作るって本当?!」
「あぁ、そのつもりだよ。嫌かい?」
「そんな訳ないじゃない!!すっごく嬉しいわ!!だってジファール公爵家のヒューゴ様ってすっごくイケメンなんですって!!ぜひ、お会いしてみたいわ!!!」
「……やはりジファール公爵領はやめよう」
「えぇ?!なんで?!」
「ふふふっ、冗談だよ。でも、父様の前であまり他の男の話をしないでおくれ。セリがお嫁に行ってしまうと考えると…」
「も〜!!お父様何言ってるの!!私とヒューゴ様とじゃ釣り合わないわよ!!」
「そんなことない。セリアは世界一可愛い」
「はいはい、お父様ったらしょうがないんだから!!ふふ…でも引っ越すのが楽しみだわ!!」
「そうだな。庭にガゼボを作ってお前が読書をできるようにしよう」
「わぁ〜!素敵だわ!!」
「それとお前の銅像も作って飾ろう」
「えぇ?!ちょっとお父様、やめて〜恥ずかしくて死んじゃいそう!!」
「はははっ」
……幸せだった。
セリアは髪と瞳は私と同じ色だが、顔や性格は妻にそっくりだった。明るくていつも笑顔で、読書が大好きな私の自慢の娘だった。
しかし、幸せはそう長くは続かなかった…。隣の伯爵がうちの商会をよこせと脅してきたのだ。もちろんそんなことになったらこの商会はすぐに潰れるのは目に見えていたし、影で弱者を食い物にしていることも知っていた私は要求をキッパリと断り、伯爵の悪事をリュミエール王国騎士団に証拠とともに訴えた。悪事が露呈した伯爵は爵位を奪われ、私がその伯爵領も合わせておさめることになり伯爵の爵位を陛下から授けられた。
そして、それがいけなかった…。伯爵は自分が逃れられないことを知り、手下を使って娘を馬車で轢き殺したのだ。私への憂さ晴らしのつもりだったのだろう…そんなことのために私の娘は死んでしまった…。やっと屋敷が完成して、来週には引っ越すというタイミングを狙って…。
……不幸だった。
金や地位が手に入ってもなんの意味もない…全ては娘のために頑張ったのだ…。
私は何のために頑張ればいいのかしばらく意味を見出せなかった…でもしばらくして、この世にいる蛆虫どもを一掃してやるという思いが生まれた。
どんな手を使ってでも…
気がつくと、私は裏社会では知らないものはいない存在へとなっていた。そして、娘が死んでからというものあまり眠ることができなくなった…。食事も美味しいとは思えず、目の前にあるものを口に入れてやり過ごすだけ…。
そんな中、私は久しぶりにジファール公爵領に建てた屋敷を訪れていた。公爵から図書館という本を誰もが読める場所を設けたいので屋敷を譲ってほしいという打診があったのだが、私はもちろん即座に断った。セリアとは一緒に住めなかったがセリアと住むはずだった場所に他の誰かが入ってほしくなかったからだ。
屋敷の中を見た後庭に出てガゼボのところに足をすすめる。…ここで、セリアが本を読むはずだった…。そんなことを考えていると急に胸が苦しくなり、倒れてしまった、私ももうダメだと思った時、あの子がきたのだ。
そう、セリアだった。茶色の髪と瞳の私の宝物…
セリアに抱きしめられると虹色の暖かい光に包まれて胸が苦しく無くなった。そして、暖かさの中で意識を手放してしまった。
次に目を覚ますと、茶色の髪と瞳がうっすらと見えて娘の名前を読んでしまった。しかし、よく見るとみたことがないほどの美少女が私を心配そうに見ていた。…セリアじゃない…天使が迎えにきたのかと思わず思ってしまった。
少女は私を気にかけ、絵本を読んでくれてた。少女がいると心が温かく癒されていくような感じがした。
その後、少女が帰った後部下に少女のことを調べさせた。するとジファール公爵家の公女だと分かった。娘が憧れていた公爵のヒューゴの娘と言う訳か…。セリアが生きていたら、セリーヌのような孫がいたのかもしれないな…。
セリーヌは私の気持ちがわかるようで自分も同じ苦しみを味わったかのように悲しんでくれた。そして、街に遊びに来る度に私の元を訪れて気にかけてくれた。一緒におしゃべりをして紅茶を飲む時間は私にとってかけがえのない時間だった。セリーヌが笑ってくれるならどんなことでもしてあげたいと思うようになった。
そして、屋敷を訪れて決心した。ここを公爵家に譲ろうと…。そしてその判断は間違いではなかった。今日、図書館がオープンしここには…そう『セリア図書館』は笑顔が溢れる場所となった。以前の寒々しさが無くなり、ようやく雪解けを迎えた春のような暖かさが溢れていた…。
「セリア…見ているかい?ここは幸せが溢れる場所になったよ…」
『嬉しい…お父様ありがとう!』
「っ!!セリア?!」
振り返るとそこには誰もいなかったが、なぜかセリアがいたような気がしてならなかった。
「セリア…ありがとう」
そんな私のつづやきはそよかぜと共に天に登っていくのだった。




