7歳になりました 12(領地でのびのび)
私は週に2回ほど街に行くようになりました。街を見回って改善できるところを検討したり、街のみんなと楽器を演奏して遊んだりしています。
そして私の街でのルーティーンにおじいさんのところに顔を出すことが増えました。
おじいさんは大きな商会を持っていて、昼間はそこで働いているそうです。イネスのおうちは外国を相手にした貿易を得意としていて、船を使った大掛かりな取引をしているのに対して、おじいさんは主に陸路での貿易に力を入れていて全部の道を把握しているそうです。
「ナタンさん、こんにちは。おじいさんいますか?」
「これはこれは、お嬢様。よくいらっしゃいました。主人は執務室におりますのでご案内します」
「ありがとうございます!」
私はおじいさんが持っているジファール公爵領にある支店に来ています。あれから何度か通ううちに執事兼部下でもあるナタンさんとはすっかり顔馴染みになりました。あ、おじいさんの名前はマクシム・ド・ラ・マルク伯爵って言うんだよ。
ナタンさんはおじいさんの執務室まで案内してくれ、いつものようにおじいさんに私の来訪を伝えます。
「ご主人様、お嬢様がいらっしゃいました」
「あぁ…」
「おじいさん、失礼します!お邪魔しても大丈夫ですか?」
「あぁ、仕事は片付いたところだ」
私は勧められた来客用のソファー席に座ると、向かい側におじいさんも座る。そのタイミングで、ナタンさんが紅茶とお菓子を出してくれる。
「お仕事の邪魔をしてごめんなさい」
「構わんよ、ちょうど休もうとしていたところだ…」
私がちょくちょく、ここに顔を出しているのはおじいさんの体調が心配だから。いまだにずっと仕事をしているみたいで、疲れの色が浮かんでいる。多分、何かしていないと気が紛れなくて落ち着かないんだと思うけど、このままだと体に悪いので街にきた時はおじいさんのところに来てお茶をして、その後子守唄を歌っておじいさんには眠ってもらっている。ジェット様の闇の魔法の力を借りて、安らぎの中で眠れるようにしているの。
「おじいさん、今日は街の人たちと一緒に楽器を演奏してきました!みんなでセッションして盛り上がったんですよ!!」
「ほぉ、それはよかった。何を演奏したんだい?」
「私はピアノで、い〜っぱい曲を弾いてきました!すっごく喜んでくれてよかったです!」
「はははっ、それはなによりだ…。あぁ、そうだ。お嬢ちゃん、今日は時間あるかい?前に来てくれた屋敷に一緒に行かないか?見せたいものがあるんだ…」
「え?何だろう?!」
「ふふっ…行ってからのお楽しみだよ…」
私達はこの前行った屋敷に向かいます。あれ以来行ってなかったけど、何かあるのかな?
お屋敷に着くと、おじいさんが庭園に案内してくれました。この間おじいさんが倒れていたガゼボのところです。
「さぁ、セリアこっちだよ」
「?…あっ!はい!」
「…っ、すまない。つい娘の名前を読んでしまった…。お嬢ちゃんこっちだよ」
おじいさんの娘さんはセリアって言うんだ…。
「おじいさん、そのお嬢ちゃんって言うのやめてください!私にはちゃんとした名前があるんですから!セリって呼んでください」
「…っ、しかし…」
「セリです!!はい、呼んで見てください!!」
「…セリ」
「はい!!」
おじいさんは、私が返事をすると顔を大きな手で覆って泣き出してしまった。そんなおじいさんのそばに行き、おじいさんに抱きつく。すると、おじいさんは膝をついて私を抱きしめて「セリ」って名前を呼び続けた。その度に私は返事をして、おじいさんが泣き止むのを待った。
しばらくすると、おじいさんは顔をあげて私に微笑みかけた。
「セリ…君に見せたいものがあるんだ」
おじいさんは、そういうと私の手を引いて庭を歩き、ガゼボの中に連れていってくれた。そこには1人の少女の銅像があり、私と同じ年頃ののようだった。長い髪の目がクリッとした可愛いらしい少女だった。
「私の娘だ…。もう、20年ほど前に亡くなったがね…。娘を思い出すと辛くて今まで娘の姿をしたものは私の近くには置かなかったんだ。肖像画も全部倉庫にしまっていたが、最近になって元の場所に戻したんだ…。この銅像は肖像画をもとに以前作らせていたものなんだが、やっと庭に飾ることができたよ…」
「素敵ですね…セリアちゃん、とっても可愛いね」
「ふふふっ、そうかい?私もそう思うよ…」
私達はガゼボの中に座って、娘さんの銅像を眺めた。おじいさんは懐かしみ、慈しむ姿が見られ以前よりも悲壮感が和らいだ感じがした。
「あっ…」
「どうしたんだ?」
私はある絵本のことを思い出していた。前世に先生をしていた時に読み聞かせをしていた絵本。ある動物が死んだことで友達の動物たちは深い悲しみに包まれながら冬を過ごすんだけど、徐々にその死んだ動物との思い出がその悲しみを癒していくお話…。
私は、アイテムボックから絵本を取り出しておじいさんに見せた。
「この本の動物たちとおじいさんが重なって見えて…」
私はおじいさんに絵本を手渡すと、おじいさんは静かにページを捲り出した。
そして、ページを捲りながら静かにおじいさんは泣いていた…。
私は、どうかおじいさんの悲しみがお嬢さんとの幸せな思い出で癒されていきますようにと祈りながら涙を流すのだった。




