5歳になりました 12
今日はブロア公爵家に母と護衛騎士の2人と共にやってきました。お茶会にやってきたっていう設定で自然な流れで訪問しています。一緒に来ていた私が暇になりフィリベールと遊ぼうと部屋にやってきたって設定で会おうと思います。
マノン公爵夫人と一緒にお茶をして今後の流れを確認する。夫人は不安そうな表情をしており、落ち着かない様子で、忙しなく視線を彷徨わせたりお茶を飲んだりしている。
「マノン公爵夫人、落ち着いてくださ。私はただ遊びにきて様子を見せてもらうだけですから。もっと気軽にしていてください」
お母さんが不安に思っているとその不安が子どもにも伝わって不安定になることがあるからね。まずはマノン公爵夫人には落ち着いてもらわないと。私が笑顔で声をかけると少し落ち着いたようなので、息子さんの部屋に案内してもらうことにした。
コンコンコン
「…フィリベール、入るわね。…ジファール公爵家のセリーヌ様が遊びにきてくれたわよ」
「フィリベール様、初めましてセリーヌ・ド・ラ・ジファールです」
「………」
フィリベール様はマノン様によく似た儚い感じの美少年だった。紫の髪と瞳で、胸の位置まである長い髪を無造作に下ろしている。綺麗な顔はメガネと長い前髪で隠れていて勿体無いなぁって思ってしまう。フィリベール様は窓辺でスケッチブックを抱えて座っていた。どうやら窓辺で絵を描いていたみたい。
「マノン公爵夫人、私はフィリベール様と一緒に遊んでいますから、お母様とお話ししていていいですよ!」
「えぇ…ではまた後で来ますね。フィリベール、セリーヌ様と仲良くね」
マノン公爵夫人が出て行くのを見送り、フィリベール様の方を見るともうこっちを見ずにスケッチブックに向かってペンを走らせていた。
「あの、私も絵を描きたいので紙と画材を借りられますか?」
「………」
フィリベール様は無言で紙と画材を取り出して机に置くとまた元の位置に戻ってしまった。
「ありがとうございます。お借りしますね」
私は借りた紙と画材で絵を描くことにした。前世オタクだった私は薄い本とかグッツとか作って祭典に出たりしてたから結構、得意なんだよね〜!よく子ども達からもアニメのキャラを描いて欲しいって言われて一緒にお絵描きして遊んだな〜!
それから私は夢中になってお絵描きを楽しんだ。まず始めに油絵で描いてみる。実は私、前世の中学時代は美術部でいろんな技法の絵を模写して描いていたんだよね〜!フィリベール様は絵が好きみたいだから知らない画法に興味を持ってくれるかもしれない!
案の定、私が描いている絵に興味を持ったみたいで凝視してくる。今私が描いたのはゴッホのひまわりを思い出しながら描いた絵です。この世界は実物をそのまま描くのが主流だからこのタッチは驚くと思ったんだよね〜!
「フィリベール様、良かったら作品を交換して見せ合いっこしませんか?私、フィリベール様の絵を見てみたいです!」
「…っ、……」
絵を抱えて少し悩んでいたが、私の絵を余程みて見たかったようで無言で描いて絵を手渡してくれた。
「ありがとうございます!お借りしますね!」
受け取った絵に視線を移して、驚いた。紙に描いた絵のはずなのに実際の物がここにあるのではないかと思ってしまう程緻密に描き込まれ、見るものを圧倒してしまうオーラがあった。描かれていたのは花瓶に生けられた美しい花々だったが、匂い立つような美しさだった。
「…っ!!素晴らしい!!本当に素敵です!!まるで本物の花がここにあるようです!!あ〜私にもっと語彙力があればこの美しさをもっと表現できるのに!!!」
「…!」
フィリベール様は私のあまりの興奮した様子に驚いている様子だった。でも、こんなにも素晴らしいものを見せられて冷静でいられる訳がない!!
「フィリベール様、厚かましいお願いですが他の絵も見て見たいのです!!見せていただけますか?!」
「……」
フィリベールは無言で部屋の一角で布がかけられた所にいき、布を取り払った。そこには庭の風景画や静物画などがたくさん置いてあり、あまりの量に驚いた。
「すご〜い!!!これ全部フィリベール様が描いたんですか?!素晴らしいですね!!」
「………」
フィリベール様は終始無言だったけど、私が感動して喜んでいることは伝わったみたいで、無表情だった顔が和らぎ、ほんの少し笑みが見られた。その後、私が主に一方的に絵の感想を述べていると、マノン公爵夫人とお母様がやってきた。いつの間にか帰る時間になっていたみたい。私はフィリベール様に絵を見せてもらった感謝とまた遊びにきますと声をかけて部屋を出た。少し、廊下を歩ってからマノン公爵夫人は私に声をかけてきた。
「セリーヌ様、フィリベールはどうでしたか?…あの子は普通じゃないのでしょうか?…私の育て方が悪かったのでしょうか?」
公爵夫人は今にも泣き出しそうな様子だったので、私は笑顔で声をかけた。
「マノン公爵夫人、フィリベール様は普通ですよ」
「えっ?そんなはずはっ!!はっきりおっしゃってください!!」
「別に気を遣って言っているんじゃありませんよ。そもそもフィリベール様は私の言葉を理解していましたし、以前は普通にお話ししていたのでしょう?誰だって、初めて会った人といきなり喋るのは緊張するものですよ」
「でも!あの子は絵ばかり描いていて…」
「マノン公爵夫人、子どもが熱中できるものに出会えたことは喜ばしいことです。フィリベール様の絵をご覧になりましたか?私は本当に素晴らしくて感動しました!!こんなにも素晴らしい才能を持っているなんて羨ましいくらいです!!フィリベール様が画家になるのか公爵家を継ぐのかは分かりませんが、子どもは親の言いなりになる所有物ではありません。自由に生きる権利があるんですよ…」
「…っ!私はこれからどうあの子と関わればいいのでしょう…私は母親失格です…」
「マノン公爵夫人、フィリベール様は何歳ですか?」
「え?5歳ですが…」
「では、マノン公爵夫人もお母さんになって5歳ということですね。5歳なんてまだ子どもでわからないことの方が多いですよ!ゆっくりでいいんです。マノン公爵夫人がこんなにも心配していることこそ、フィリベール様を気にかけて愛している証拠ですよ。自信を持ってください、あなたは素敵なお母さんですよ」
「…うぅ!!」
マノン公爵夫人は泣き出してしまい廊下でうずくまってしまった。お母様が公爵夫人に寄り添っていると、私の背後から静かに啜り泣く声が聞こえ振り向くとフィリベール様が私の絵を持って泣いていた。私の描いた絵を持ってくるのを忘れていたから届けにきてくれたようだった。私はそっとフィリベール様を抱きしめて伝えた。
「フィリベール様、あなたは素敵です。そしてお母様もあなたを愛し、心配しているんですよ。だから一緒にご飯を食べたりお話ししたりしてあげてくださいね」
私が声をかけるとフィリベール様は私に縋り付いて大声で泣き出した。そしてその声に気づいたマノン公爵がフィリベール様の元に行くと2人で抱き合って泣いていた。互いにごめんなさいと謝っている。2人の思いが行き違っていたけれど、もう大丈夫そうで良かった。
私達は2人が落ち着くのを待ってから、挨拶をしてブロア公爵家を後にしたのでした。




