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最近、街にプレイヤーという人が来ます。  作者: 月乃 そうま


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ウカタマ村

お待たせいたしました。

昨日は上げられず、申し訳ございませんでした。


 三年後。

 辺境と呼ばれる山岳の麓にある小さな村落。

 ウカタマ村はまだできたばかりで、その歴史は三十年にも満たない。

 最初はこの辺りを開発するべく、若者たちがどんどん送り込まれた村だが、特筆すべき産業も見つけられず、開発の資金は打ち切りとなり、どこにも行けなくなった者たちが細々と暮らす村になっていった。


 彼は、元は宿屋だった建物の一室で起きると、外に出て顔を洗い、ふらふらと歩き出す。


 村人たちの朝は早い。


 実りの少ない畑を耕し、冬に備えて薪を割る。

 未だ諦めきれない村人が数名、何か村が盛り返せる資源はないかと探索に出掛けるが、常に足を棒に振るだけで終わってしまう。


「おい、ルイン。

 こっちの薪割りを手伝ってくれ。

 朝飯くらいは用意してやる」


 ふらふらと歩く彼を捕まえ、仕事を与える男。


「朝飯か。分かった、やるよ」


 彼は黙々と薪割りを行う。

 ひと山ほど薪を割れば、雑穀スープを一杯、馳走になる。


「何をやるかは決めたのか?」


 男が聞く。


「ああ、いや、特には……」


「ダメだよ、父ちゃん。

 こいつ、川に連れてっても魚獲るのは下手だし、畑で使おうにもすぐ道具をダメにするから、やれることないって!」


 男の子供は十二になろうかという年頃で、生意気盛りに育ったようだ。


「こら、そういうことを言うな。

 ルインは薪割りは早いし、学もある。

 ただ、今はちょっと、やる気が出ないだけだ。

 優しくしてやれ」


 男は子供をたしなめる。

 それから、ルインに午後は狩りに同行するよう伝えて、ルインを帰した。


 素朴な暮らし。

 彼は全てを忘れてしまいたかった。

 魔王ブレイクの中にあった世界の流れは、これからの動乱を示唆するもので、魔王候補プレイヤーと今の世界を守ろうとするプレイヤーの衝突は避けられず、いくら『海人』であろうとも、有限の命でそこに首を突っ込む意味は無い。

 この世界のNPCにできることなどないのだ。


 だから、プレイヤーが未だ到達できない、この辺境まで逃げた。


 男の言う通りだった。

 やる気が出ないのだ。

 この世界において、NPCはプレイヤーの養分に過ぎない。


 ルインが強くなればなるほど、プレイヤーはそれを見て、技を解放するし、魔王として精霊の固まりにまでなったブレイクは、結果的にプレイヤーたちに精霊を分け与えて養分となった。


 いっそのこと母なる海に帰ろうかとも思う。

 プレイヤーの養分になるくらいなら、次代の『海人』のための養分になる方がマシかもしれないと、思わなくはない。


 だが、ルインの中の『九尾の狐』や『ルイン』がそれを認めない。

 後ろ向きな『ブレイク』はそれでも良さそうではあるが、そもそもの『海人』である自分も、それでも……と何かを探し続けている。


 午後になり、村の入口へとルインは向かった。

 村の入口には、藍色の髪をした人物を村人たちが取り囲んでいる。


「あんた、どこから来なすった?」


「珍しい髪だな。自毛かい?」


「冒険者にしちゃ、身なりが綺麗だが、貴族の方がこんな辺境に来る訳もないしな?」


 藍色の髪の人物は、困ったように辺りを見回し、村人を無視して村の中へと進もうとするのを防がれて、少しイラついているようにも見える。


 ルインはそれを見かけて、慌てて近寄った。


「やあ、旅人さん。

 ウカタマの村へようこそ!

 見たところプレイヤーさんかな?」


「お……あ……おう、分かる、のか?

 ずいぶんメタいな……」


 藍色の髪の人物はなんとかそう口に出した。

 どうも、ルインに応えたというより、独り言の延長のようだった。


「俺はルイン。この村は何にもない辺鄙な村だけど、どこかへ行く途中かな?」


「何にもない? いや、引っ掛けかも?

 俺はマップの端、穴埋めチャレンジャー、ドウガマン!

 魔物から逃げに逃げて、マップの端を確かめに来た、しがない動画職人さ!

 ……とか言っても、伝わらんだろうけど……」


 ドウガマンは誰もいない虚空に向かって決めポーズを取った。


「なるほど、ドウガマンさんだね。

 もし、村の案内をして欲しければ、請負うけどどうかな?」


 ルインは内心で焦りながらも、このプレイヤーとの会話を続ける。


「ああ、でかい街とかにいる案内人みたいな役割のNPCか。

 どうするかな……ようやく着いた村だし、リスポン地点の更新だけでもしとくかな……もし、死んだら、ルナリードまで戻って、ここまでは来れなさそうだし……。

 ああ、そうだな。神殿とかある?」


 ドウガマンはブツブツと一人、呟いてからルインに言った。


 ルナリードから来たらしい。

 ここからルナリードまでは険しい山を三つは越えないと来られない。

 魔物から逃げに逃げた結果、迷い込んで来てしまったようだった。


「この村にはないよ。一番近い神殿でも、ここから南に三日は行かないとないね」


「おわ、マジか!

 OK、三日か。じゃあ、そこまで行くわ。

 ……かくして、ドウガマンはさらに先へと進むのだ!

 なんとか神殿まで行けたら、今日の動画はおしまい。

 俺のマップ埋めの旅はまだまだ続くぜ!」


 そう言って、ドウガマンは村を出て行った。


「なあ、ルイン……あの人はなんだったんだ?」


 村人が聞く。


「さあ? 神殿を探しているらしいですけど……」


「うちの祠じゃダメなんかね?

 祈りに場所も時も関係ないだろうに……」


「神官様に相談でもあるんじゃないですかね?」


 ルインは嘘をついた。


「ああ、でも大丈夫かな?

 あの説明で分かっただろうか……あの、ちょっと彼のこと、せめて道のあるところまで送って来ていいですか?」


「ああ、たしかにその方がいいかもな。

 街道に出るまでは迷いやすいしな」


 ルインを狩りに誘った男が言って、ルインは大きく頷くと、足早に先程の不思議な男を追った。


 ドウガマンはすぐに見つかる。


「いやあ、村でひと休みなんかしませんよ、このドウガマンはね!

 さすがにあんなしょぼい村じゃ、見てる皆も納得できないでしょ。

 せめて、デカい街のひとつは見つけないと!

 この辺の魔物はかなりヤバいからね。

 皆は真似しちゃダメだぞ! わはははは……」


 ドウガマンはやはり虚空に向かって語りかけていた。

 たしか……とルインは記憶を漁る。


 他のプレイヤーと情報を共有できる機能が『魔術書グリモワール』にあったはずだ、と思い出す。

 あまりモタモタしていると、ここが何処なのかバレてしまうかもしれない、ルインは焦る。


 ルインはドウガマンに声を掛けることなく、そっと隠れた。

 ドウガマンは『魔術書グリモワール』を出して、何やら弄りながら歩いて行く。


「ここと、ここはカット……生理現象ブザーのくだりはウケるはず。

 村は、街に行ったらカット案件かな……緊張感なくなりそうだし……」


 ドウガマンが立ち止まる。


「おっと、技が切れたか。

 【魔物センサー】

 ……これで安心。撮れ高的には魔物に会いたいくらいだけどな、まあ、逃げるけど……」


 薄く、ドウガマンから魔力の波が広がるのが分かる。

 ルインはすぐに正体を見破る。

 これは、達人級の冒険者がたまに持っている、特定の波動を感知する気配読みの技だ。

 科学文明の産物である魔物は、魔力を持たず、魔力が扱えない。

 自身の魔力で薄い波を起こしてやると、魔物が居た場合、そこだけ空白になる。

 そうやって魔物を察知する技だ。


 なるほど、これを使えば魔物と接敵するのを限界まで抑えて、更に険しい山を三つも越えて、ここまで来られたのも分かる。

 ただし、余程の幸運に恵まれたのだろう。

 でなければ、説明がつかない。


 ルインは弓に矢を番えた。


「恨みはないが、こんなところまで来ないでくれ……」


 ルインはプレイヤーが嫌いなのではない。

 ただ、プレイヤーは戦乱を呼ぶ。

 そのためにこの世界に来ているのだ。

 当事者ではなく、理由も分からぬまま、この世界の行く末を決めるために来た『神兵しんへい』たち。

 それがプレイヤーなのだ。

 それを知ってしまっているだけに、弓を引く。

 せめて、一撃で。

 それは、ルインの想いを込めた一撃だ。

 技でもなんでもなく、ただ気を込めた一撃。


 放たれた矢は、ドウガマンの頭骨を貫いた。


 ドウガマンは、一瞬の出来事に何が起きたか理解できないだろう。

 動画を確認しても、動画外から矢が飛んで来たこと以外、分からない。

 ここまで来られたのは偶然に過ぎない。

 リスポーン地点が遠く離れたルナリードにあると口走ったのはドウガマンだ。


 だから、ルインはドウガマンを殺すことにした。

 いや、この場合、殺すという表現は正しくない。

 ドウガマンに帰ってもらったのだ。


 だが、ルインは今の一撃で気付いたことがある。

 技ではない単純な研鑽ならば、プレイヤーの養分にならずに済むのではないか、ということだ。


 NPCが持ち得る、プレイヤーへの唯一の対抗手段。

 そのヒントを得たのだった。




 それから数年。

 プレイヤーたちに攻略不可能なエンドコンテンツと呼ばれたクエストがある。

 『ウカタマの殺生石』と呼ばれるソレは、レベル上限が百二十まで解放された今でも、クリア者ゼロと言われている。

 挑戦者はウカタマの村の案内人にこう言えばいい。


「ここでイベントができるって聞いたんだが、知ってるか?」


 案内人はイベント位置を告げる。

 後はそこに行くだけだ。

 ただし、このイベント後、ゲームを引退する者が多発している。

 引退しなかった者は、一様に口を噤む。

 一説には、この世界の真実を知ってしまうからだとも言われるが……。


 我こそは、と思うのならば深淵を覗きに行くのもいいかもしれない。


───了───


と、いう訳で完結でございます!

ルインの結末パターンは幾つか考えておりました。

前話でブレイクの人格に乗っ取られて、魔王化ラスボスルートとか、ルインが途中で考えていたように母なる海に帰ることを決断するデアボロルート、この場合、九尾の狐状態でプレイヤーを【模倣】しまくるレイドボスになるパターンです。

最終的には、やはり愛すべき人々〈NPC〉のために、それ以外を殺しまくるエンドコンテンツルートに進みました。

皆さん的に、納得できるエンディングかは賛否あるかもしれませんが、もしよろしければ、あなたの選ぶエンディングとか聞かせていただけると幸いです!

ご愛読ありがとうございました!


次作は書き溜めをある程度作ってからの発表になるので、ひと月くらいお待たせするかもしれません。

予定では、現代ファンタジーのつもりですが……。

どうなることやら……。

こちらで一本、短編投稿と共に宣伝させていただきますね!

お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませて頂きました! 他の作品ではプレイヤーの視点で物語が進んでいくので、スルーしていたようなプレイヤーの不自然さが浮き彫りになって、何だかゾワッとしました。 現代もどんどんVR技術…
[良い点] 完結おめでとうございます。 どうやってプレイヤーが世界の真実を知るのか分かりませんが、知れば大概の人は責任持てなくて辞めるでしょうね。ぜひ魔王側のプレイヤーにも知っていただきたい。 ラ…
[一言] 完結おめでとうございます、お疲れ様でした! 実は強い案内人で、隠された素性が……っていうのはロマンですね! NPCの立場からプレイヤーを理解しようとするっていうアイデアがすごいです! 結局プ…
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