短編・エンドコンテンツ
お待たせしました!
短編という名の後日談です。
「やあ、旅人さん。
ウカタマ村へようこそ!
見たところ、プレイヤーさんかな?
この村は辺境で何もないところだ。
金を落としてくれるなら歓迎だが、そうでないなら南に三日も行けば、街に出られるよ」
そのNPCは、山賊一歩手前くらいの格好で、そんなことを言う。
無精髭を剃りもせず、ふらふらとした足取り、短剣一本、腰に手挟んだだけの、なんとも頼りない風貌に思える。
案内用NPCというやつにしては、清潔感に欠けるが、ここの村人はだいたい皆、同じような感じだ。
辺境の何もない村、という言葉が全てかもしれない。
特産品もなく、皆が生きるだけで精一杯なのは、見ていれば分かる。
だが、プレイヤーである男。ダダンダ・だんは、一人頷く。
「あんた、ルインだろ?」
ルインと呼ばれた案内用NPCは、深くため息を吐く。
「……だとしたら?
プレイヤーさん、技が欲しいならレベルと得物を教えてくれ。
悪いがもう、タダで教えるのはやめたんだ。
お代はそれなりにもらうが、レベルに見合う技は見せてやるよ」
この村にプレイヤーが来る理由はふたつある。
ひとつは技が欲しいプレイヤーだ。
金は掛かるが、そのレベル帯で最高ランクの技を教えてもらえる。
ダダンダ・だんは言う。
「俺はダダンダ・だん。
先の神魔代表決戦イベントの覇者。
レベルはキャップの二百。
それでも技が買えるのか?」
「ああ、金はあるんだろうな?」
「金はあるが、俺の狙いはそれじゃない。
ビビらねえのは立派だが、もう敵がいなくなっちまってな……」
ダダンダ・だんはそこでひと息置いて、聞いていたキーワードをぶち込む。
「ここのイベントがやりたい!」
「……そうか。勝てば俺が死ぬ。負ければ、お前は全てを失う。それでも、それが望みか?」
「全て、か。いいねえ!
エンドコンテンツっぽいじゃねえか!」
「ダダンダ・だん。たしかにお前はプレイヤーなんだろうな……。
今晩、東の森を抜けて来い。
開けた草原がある。そこでやろう。
休むなら、村で金を落としてくれ。
その方が気持ち良くやれるからな」
「あんたはどこに行く?」
「準備をしに帰るよ。死ぬ気はないが、身の回りくらいは綺麗にしておかないとな……」
「……ふん。なんとも辛気臭いな」
「なら、やめるか?
こっちはお前と違って、命懸けだからな」
「いいや。どうせ引退するからな。
最後は華々しく、このゲームの伝説になってやるぜ!」
「ちっ……好きにしろ……」
ルインは去っていった。
ダダンダ・だんは考える。
エンドコンテンツにしては、腑抜けた雰囲気だ。
だが、未だエンドコンテンツ攻略の話は聞かない。
つまり、前人未踏の領域だ。
クリアできれば、たしかに伝説になれるだろう。
正直、このゲームはやり尽くしたと彼は考えていた。
一度きりの出会いと別れ、そんな文言に踊らされて始めたこのゲームだが、結局のところ、PvPが売りのゲームだ。
永遠にできるが、それは自身との戦いに尽きる。
反応速度、リソース管理、ゲーム技術、それらが衰えれば、彼の中でそのゲームは終わりだ。
そろそろゲームから卒業する時が近づいて来ている。
若い世代の反応速度についていけなくなるのは、もうすぐそこだ。
しがみついて、老害扱いされたくない。
技術で補うのもギリギリ。
だからだ。最後にエンドコンテンツをクリアして、最低でも数年、皆に語り継がれる伝説を打ち立ててやろうと思った。
彼は夜を待つ。
ルインに言われたことを守らず、ほんの数十分、ログアウトしたら夜だ。
ダダンダ・だんは伝説になるため、村を出る。
村の出入口にはNPCの若者がひとり。
若者はダダンダ・だんに冷たい視線を送るのみで、無言で道を開けた。
「あんたは何も言わないのか?」
ダダンダ・だんは不満がありそうなNPCの若者に聞く。
「村の客じゃないやつとは、話さない。
『神兵』も『魔王候補者』もそんなやつばっかりだ。
早く出ていってくれ」
なるほど、村に金を落とせというのは何かあったのかもしれない。フラグの見落としだったか、とダダンダ・だんは後悔しそうになったが、要は勝てばいいのだと、気を持ち直した。
そうして、東の森を抜け、月夜に照らされた草原に出たのだった。
小高い丘がある。
そこに、まるで武器の墓場かと思うような、種々さまざまな武器が突き立てられていた。
一人の男が床几のようなもの座っていた。
道案内用のNPCだったはずの彼、ルインは髭を剃り、真っ白な鎧に身を包み、待っていた。
「は、はは……死装束かよ……」
ダダンダ・だんは気丈に笑ってみせたが、その喉は張りつき、緊張感は隠せなかった。
「さあ、どうだろうな……」
ルインが億劫そうに立ち上がる。
白の全身鎧は重装備のように見えるが、その滑らかな機構ゆえか、物音ひとつ立たない。
それが普通の鎧でないことは明白だった。
「準備はいいか?」
ルインは適当に、近くにある剣の一本を握った。
ダダンダ・だんも慌てて装備を整える。
長剣に重装鎧。典型的なパワー型だが、レベルキャップまで伸ばした数値は裏切らない。
さらに戦闘が始まらないのをいい事に、ダダンダ・だんは複数のポーションを飲み、剣に呪文を唱える。
身体中から虹色の光を発し、剣身は黒く染まり、全てのバフを山盛りにしたダダンダ・だんは、そこでようやく、「行くぞ!」と声を発した。
ルインが近づく。
「【大牙斬・極】!」
ダダンダ・だんの振った黒剣により、空中に巨大な牙がいくつも現れる。
それが暴風の竜巻のように渦巻きながら、ルインを飲み込まんとした。
ルインは竜巻の中を紙一重で、巨大な牙を避けながら直進した。
「なぜ効かない!?」
「効いてるよ。当たらないように避けているだけだ……」
「くそ、そんな技があるなんて……」
「技じゃない。歩法でも体術でもない。雨の中、濡れないように、肌の感覚で学ぶんだ……空気の流れ、温度、体の運び方をな……」
「ふざけんな! チートじゃねえか!」
「お前らプレイヤーは、二言目にはチートという。
だが、違う。これは鍛錬だ。
弛まぬ努力と研鑽が生み出した、人が歩くのと同じ類いのものだ」
「くそが! ならばイベント報酬、世界でただ俺だけが持つ技で殺してやる!
【神魔滅界剛相斬】!」
ダダンダ・だんが放つ、横薙ぎの一閃。
そこを中心に次元が圧縮されていく。世界が震える。
この技は防御不可。圧縮された次元が元に戻る力を使って、相手を上下から引き裂く技だ。
だが、ルインは既にそこにはいない。
「初めて観る技だ。世界の一部を壊すのに巻き込む技か……いよいよ神々もなりふり構わなくなってきたか……」
「なっ……居ない……」
「後ろだ……」
ダダンダ・だんが振り向くと目の前にルインが立っていた。
「空気の震えは抑えられないな。先程の技の方が、世界を傷つけないだけマシだ」
「くっ……」
黒剣が技もなにもなく振るわれる。
しかし、ルインの方が速かった。
ルインの振るった剣の柄が、ダダンダ・だんのコメカミを強打する。
ダダンダ・だんの視界が揺れる。脳震とうを起こしている。
「なっ……」
「なぜ斬らないか、聞きたいのか?
ここから俺がチートを使うからだ。
俺は『海人』と呼ばれている。
そして、その力でお前を食うからだ。
お前の全てを貰う。金も経験値もアイテムも記憶も、全てだ。
お前が子供の頃、何が好きで何が嫌いだったのか、お前の本当の姿、トラウマ、恋人との思い出……ありとあらゆる全てを貰う。
まだこの世界にしがみつきたいなら、レベル一からやり直せ。
ただし、次に俺と出会うことがあったら、気をつけることだな。
俺はお前のリアルを吹聴して回る。
プレイヤーはそれが嫌なんだろ?
住所も預金額も本名も、お前が嫌がることを全てやる。
そういう力が俺にはあるんだ。
エンドコンテンツ?
イベント?
違うな。お前らにとってのゲームは、俺たちにとってのリアルだ。
だから、お前らもリアルに生きてくれ。
この世界で生きるのならな……」
ルインの大きな手のひらが、ダダンダ・だんの顔を掴む。
そうして、ダダンダ・だんは変形する手のひらに食われた。
プレイヤーたちに攻略不可能なエンドコンテンツと呼ばれたクエストがある。
『ウカタマの殺生石』と呼ばれるソレは、レベル上限が二百まで解放された今でも、クリア者ゼロと言われている。
挑戦者はウカタマの村の案内人にこう言えばいい。
「ここでイベントができるって聞いたんだが、知ってるか?」
案内人はイベント位置を告げる。
後はそこに行くだけだ。
ただし、このイベント後、ゲームを引退する者が多発している。
引退しなかった者は、一様に口を噤む。
一説には、この世界の真実を知ってしまうからだとも言われるが……。
我こそは、と思うのならば深淵を覗きに行くのもいいかもしれない。
2022年4月3日、新たなる物語が始まる!
『妄想︎ ✩想士
〜学園異能バトルに巻き込まれた俺には力が目覚めないんだが〜』
という事で近未来を舞台にした学園異能バトルものを書いております。〈現在、書き溜め十二話〉
明日から順次、掲載予定です。何卒、よろしくお願いしますm(_ _)m
軽めのあらすじ。
日生満月は高校入学から一週間ほどの頃、異能力バトルに巻き込まれてしまう。
獣憑き、悪魔憑きと呼ばれた存在は、現代では『再構築者』と呼ばれる異世界からの転生者だった。
そんな異世界転生者の魂を見つけ出し封印する者たち、公安部外事第六課TS班、DD〈デリュージョン・デザイアー〉たちの愛と戦いの日々。
そんな感じの物語です。




