金器
ルインは自身の冒険者としての証、金の意匠が施された短剣を抜いた。
いかなルインといえど、短剣一本で繰り出せる全体攻撃技というのはほとんどない。
結果的に【駆け斬り】【バックスタブ】など、対単体用の技を連続で繰り出して、魔物たち集団の中を引っ掻き回すような戦いをするしかない。
それでも、トラウマという軛から解放されたルインの動きは軽く、『海人』としての【空間爆破】、『九尾の狐』としての【狐火】などを駆使しての戦いは、魔物の数を減らすのに充分な働きだった。
「ルインに続け! 一体でも多く魔物を減らすんだ!」
豆腐メンタルが叫びながら斬り込んでいく。
ドウマンが、プッツンプリンが後に続く。
「アワツキちゃん、自爆魔法は温存だよ!」
「はい! 【袈裟斬り】!」
アワツキも細身の剣を抜いて、魔物へと向かっていく。
プレイヤーと魔王候補プレイヤーたちは次第に拮抗していく。
魔王候補プレイヤーたちの新しい能力は、未だ完全開花にはほど遠く、初見の時こそ優勢だったが、ある程度すると見切れるプレイヤーたちが現れてきた。
レベル差はそれほどないのだ。
タネが割れれば、人数的には普通のプレイヤーの方が多い。
問題は魔王ブレイクだ。
紅玉と青玉は逃げてしまった。
ルインはその穴を埋めるべく魔物の処理に回った。
魔王ブレイクはアジ・ダハーカの血肉を全て出来損ないの魔物に変換した上、集めた精霊・那乃の大部分を使って、プレイヤー五十名を魔王候補にしたことで、人間より少し大きい程度まで力を減じたものの、止める者がいなくなった。
今では、プレイヤー相手に一人ずつを嬲るように殺して回る享楽に浸っている。
魔王ブレイクの怨みは、ルインとプレイヤーに向かっている。
それは、精霊・那乃が脳に回っても忘れられない、魔王としての原動力になっていた。
「腕を潰してやる。どうだ? 武器を握れなくなった無力感は?
神兵にもそういう感覚はあるのか?」
右腕を掴まれたプレイヤーは、持ち上げられながらも藻掻く。
「くそっ、離せ! 離せよ!」
メキメキと骨が軋む音がして、魔王ブレイクの拳がちょうどプレイヤーの腕一本分ほど小さくなる。
「なんだよ、コレ!
狙い打ちとか、卑怯だぞ!」
「卑怯? 騙し討ちをするお前らは卑怯じゃないとでも?」
魔王ブレイクは関係ないプレイヤーでもお構いなしだった。
その怨みは、ブレイクの右腕を斬ったプレイヤーではなく、全ての神兵へと向かっている。
そして、その怨みのまま、魔王ブレイクはプレイヤーを床に叩きつける。
握った右腕を離さずに、二度、三度と床に叩きつける。
それは、プレイヤーが粒子化して消えるまで続けられる。
まるで、おもちゃを雑に扱う子供の癇癪のようだ。
そうして、一人、また一人と続けていき、ある時、視線がルインと合う。
「こそこそと逃げ回ってるんじゃねえよ、ルイン!」
右腕を掴んだプレイヤーを振り回して、魔王ブレイクが言った。
「逃げる? こんなところまで逃げたのは、お前だ、ブレイク!」
ルインの挑発にもならないような挑発。
しかし、効果はバツグンだった。
魔王ブレイクが振り回していたプレイヤーが手裏剣代わりに飛んだ。
ルインは受け止められないと身を伏せる。
プレイヤーはリスポーンのために消えていった。
魔王ブレイクは新たな得物を求めた。
適当にプレイヤーを掴むと、ソレを武器にルインへと向かう。
魔物たちが、海が割れるかのように道を開けた。
魔王ブレイクはルインに向けて駆け出すのだった。
待ち受けるルインは、ブレイクとの距離を測る。
捕まったプレイヤーにルインができることはない。
口の中で小さく「すまん……」と呟いて、ギリギリの間合いで跳んだ。
魔王ブレイクの剣技【唐竹割り】が地を穿つ。
だが、ルインはすでに跳んだ後だ。
魔王ブレイクの背後を取ったルインは【バックスタブ】を放つ。
背後から内臓を狙った突き刺しだが、全身を精霊で鎧った魔王ブレイクに効果はない。
虚しく弾かれた金属音が響いた。
魔王ブレイクが背後へと横薙ぎにプレイヤーを振るう。
しかし、ルインはステップを使って逃げた後だ。
プレイヤーが威力に耐え切れず粒子化していく。
魔王ブレイクは、近場の魔物を掴んだ。
プレイヤーだろうが、魔物だろうが、等しく武器代わりに使うつもりのようだった。
「まずいな……さすがに届かないか……」
ルインは独りごちた。
ただでさえ、短剣では間合いが短いところに、魔王ブレイクの武器代わりになったプレイヤーや魔物では、さらに間合いが拡がってしまう上、下手に短剣で受けることもできない。
ルインは攻めあぐねてしまう。
「今こそ魔法の使い時です!」
アワツキが短杖を取り出した。
「おい、【命・鬼火】は範囲が……」
豆腐メンタルが慌てて止めようとするが、アワツキはすでに集中していた。
「バフ魔法、【命・星震剣】!
ルインさん、勝ってくださいっ!」
アワツキがその命をオーロラの光に変えて、ルインの短剣に宿った。
「バフ魔法? そんなのも持ってたののね、アワツキちゃん」
アワツキの魔法は、命を代償にしたバフ魔法だった。
これはアワツキに何の得もない魔法だった。
経験値にならず、師匠からは教わったものの、魂を削るからやめておけと止められている魔法だった。
星の並びを整え、指定した物品に星々の力を与える魔法。
ルインの金器に宿ったのは、そういう類いの魔法なのだった。




