魔王
人は限定という言葉に弱い。
先着五十名というのは、言い換えれば、やはり限定ということになるだろう。
この世界はゲームである。
少なくともプレイヤーと呼ばれる者たちにとっては、遊戯のひとつに過ぎない。
それ故に、例えばキマイラキラーズと呼ばれる有名プレイヤーたちが、どれだけ警句を発したところで、全ての選択はプレイヤー各個人に委ねるしかないのだ。
数字が目の前で減っていく。
五十……四十九……四十八……。
他のプレイヤーにない、特殊な装備、特殊な技能。
しかも、その有用性は目の前で充分に見せられた。
「みんな、騙されるな! このレイドが失敗するぞ!」
カービンの声は虚しく響く。
前知識を持つ者は少なく、見た物が全てだ。
紅い驟雨の中、視界は一歩分程しかない。
その数字が零を示すまで、それほど多大な時間は必要がなかった。
雨上がり、天井にこびりついたアジ・ダハーカの血は、ぽた、ぽたと最後の名残りを見せる。
その一滴が落ちた先には、金の手、金の足、と呼ばれる五十一名の魔王候補たちが立っていた。
「お前ら……なんでだよ……」
ザビーが呟く。
「いや、だって乗るしかないだろ、このビッグウェーブ!」
一人のプレイヤーが笑った。
「まさか、魔物側プレイがシステム的に保証されるなんて、誰かが検証せんとね」
また、別のプレイヤーが言った。
「おお、新システム!
やっべ、これ強えぞ!」
『魔術書』の内容を確認しながら、無邪気に喜ぶプレイヤーがいる。
「は、ははは、ははははははっ!
さあ、新しき文明の担い手たちよ!
ここからが本番だ!」
魔王ブレイクは、全身が金の粒子に侵されながら、しかし、その身体は元のブレイクと同じ大きさに戻っていた。
おそらく、株分けのようなことをしたのだろうというのが分かる。
「うるせえな……俺が魔王になるからお前はいらん!」
魔王候補プレイヤーの一人がブレイクに襲い掛かる。
だが、魔王ブレイクはプレイヤーの繰り出す剣を楽しそうに避けた。
「ああ、活きがいいな。
我が子よ!
しかし、剣を向ける相手を間違えてはいかん。その精霊たちは、いまだ我が管理下にあるのだから……」
ブレイクへと剣を向けたプレイヤーの動きが止まる。
「は……? ちょ……どうなって……」
「精霊管理レベルを上げることだ。
それまで魔王の座は渡せんな。
さあ、そのためにも、まずはここの掃除からだ!」
魔王ブレイクが両手を上げる。
「え……どうする?」「やるっきゃなくない?」「あ〜、すまんな。プレイ方針の相違ってことで……」
魔王ブレイクの子株により魔王候補と化したプレイヤーは、ある者は渋々ながら、また、ある者は嬉々として、近場のプレイヤーを襲い始めた。
「おい、やめろよ! プレイヤー同士だろ!」
ハイロが叫ぶも、魔王候補プレイヤーたちは止まらない。
「悪いね。でも、これゲームだしさ!」
魔王候補プレイヤーたちが精霊武装を起動する。
プレイヤー同士の戦いが始まった。
ルインは紅い雨が降る中、じっとブレイクの位置を探っていた。
そして、紅い雨が止み、魔王候補プレイヤーたちが生まれた中、静かにブレイクの背後へと回っていた。
魔王候補プレイヤーたちが一斉に世に放たれ、現場に混乱が生まれた時、ルインは動いた。
【瞬光】。ブレイクの背後から放たれた光の五連突きが、ブレイクを守るように配置された魔物の壁を突き破る。
魔王ブレイクがその圧力に反応し、魔王ブレイクに反抗しようとして動きを止められたプレイヤーが最後の壁として立ちはだかった。
「ちょ……また身体が勝手に!」
ルインは容赦せず、そのプレイヤーを両断した。
「ぶげっ……!」
だが、その一手の間に魔王ブレイクはルインへと向き直る。
「ははは、一手、足りなかったな!」
魔王ブレイクの触手、今は身体のサイズに合わせて大分、細くなったソレを怒涛の勢いで突き出した。
細くなった分、速く、しかし、威力は巨体の時のままの触手は、一撃でも当たればルインの紙装甲ごと身体を貫ける。
ルインは元来備わっている『海人』の空間認識能力で、それを観ていた。
そして、座標を指定、そこを捻った。
『海人』の使う【空間爆破】という力だ。
指定座標の空間を歪ませ、空間が戻ろうとする力を爆発力に変える力。
みょいん……。
奇妙な音と共に、ブレイクの触手が弾け飛んだ。
「空間爆破っ……」
ブレイクの中の精霊たちが、ブレイクへと知識を与えていた。
ブレイクが【龍爪】を振るう。
ルインの【陽炎】という輝光流奥義技と相打ちになった。
爪と刃が、ギャリギャリと火花を散らした。
結果は、どちらも砕け散った。
しかし、ブレイクの再生できる爪と違って、ルインの大剣はもう使えない。
ルインは弾かれたように後退を余儀なくされてしまうのだった。




