神兵《しんへい》
「アレはブレイクだった」
ルインが言った。
「やっぱりか……」
カービンは階段から出ないようにして、魔王を見つめた。
「先生、本当にもう大丈夫なのか?」
「ああ。不安にさせてすまない。
これが終わったら、ちゃんと話すよ。
俺は人間じゃなかったが、人でありたいと思っているからな」
ルインは全てがすっきりした訳ではない。
ルインから奪ってしまった生も、仲間を殺してしまったことも、取り返しがつかず、永遠に背負うしかないことだと認めただけだ。
何も終わっていず、むしろ、ようやく始まったところなのだ。
罪を罰することができれば、気は楽になっただろう。
だが、罰を与えられる者は全員、この世にいない。
自分で背負うしかないのだと気付いた時、背中に重い枷が乗せられただけだ。
ルインの『想い』。
それを全うすることが、第一歩だと考えた。
「師匠、新しい武器はどうしますか?」
「ブレイクが得意とした武器、大剣は残っているか?」
「持ってきてますよ!」
ハイロはインベントリから大剣を出した。
それを受け取ったルインは握りを確かめる。
「それで、作戦とかあるか?」
カービンが聞く。
「いや、ないな。
今、持てる力の全てでぶつかる。それだけだ」
その確固たる決意に、プレイヤーたちは息を飲んだ。
まるでルインが若返ってしまったように感じた。
「よ、よし、俺たちは全力でサポートだ!」
「すまないが、頼む……」
その言葉を皮切りに、ルインは階段を出ると、全力で駆け出した。
ルインは雑魚魔物の頭や体を踏み台に、飛ぶように魔王ブレイクへと迫る。
「ブレイク、お前の技だ!
【斬馬】!」
下から上へ、身体の捻りを充分に乗せた斬撃はアジ・ダハーカの後ろ脚の一本を刈り取る。
魔王ブレイクがバランスを崩した。
「るぅぅぅいぃぃぃんんんっ!」
魔王ブレイクから【龍砲】の返礼が飛ぶ。
ルインは大剣を盾代わりに、流れに乗ってそれを逸らした。
【風見鶏】という体術の応用だ。
「おお、今だ、一撃入れろ!」「【袈裟斬り】!」「【薪割り】!」
魔王ブレイクのバランスが崩れ、主砲が後ろを向いた瞬間、それまで蹂躙されるばかりだったプレイヤーたちが、攻勢に転じた。
一撃、一撃は小さく傷付けるだけでも、まとまれば大きな一撃になる。
たまらず魔王ブレイクは退いた。
これによりプレイヤーたちは活気づく。
「ちぃっ! 魔物を疎かにするな!」
プレイヤーたちが魔王に向かってしまったため、紅玉と青玉は魔物の処理に回らざるを得なくなった。
紅玉は悪態をつくが、青玉は心なしか嬉しそうだった。
魔王ブレイクが蛇頭の触手を四方八方にばら蒔いた。
触手自体はそれほど硬い訳ではないが、黄水晶がやっていたように、表面を焼かない限り、精霊・那乃が集まり復活してしまう。
ルインは【閃光斬】でそれを焼き切る。
すると、魔王ブレイクは蛇頭の牙に【瘴気毒】を滲ませた。
掠るだけでも継続的な毒の侵食に肉体が焼かれることになる。
プレイヤーたちは、阿鼻叫喚の地獄だった。
「おい、あの切られた脚の代わりに身体を支えてる触手があるはずだ!」
カービンが叫んだ。
途端、ソレは特定されて、プレイヤーが群がるようになった。
一進一退ながらも、次第に形勢はプレイヤー側、人間側に傾き、このまま勝利を迎えるかに思われた。
だが、魔王と呼ばれる者がそれほど甘い訳もなかったのである。
魔王ブレイクの巨体が、一瞬、膨らんだかに見えると、直後、弾け飛んだ。
血の雨が降る。
「やったか!」
プレイヤーの誰かがソレを見て呟いた。
直後、プレイヤーたちの頭の中に声が響く。
───ワールドオーダープログラム、︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎マキア︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎キドウシマスカ?───
───キドウシマスカ?───
その場に残っていたのは、百五十名ほどのプレイヤー。
彼らの目の前に『魔術書』が浮かび、新たなページが追加される。
『魔王候補プレイの誘い』
新たなプレイソースとして、魔王候補プレイの道が開かれました。
先着五十名。
赤い、紅い血の雨が烟るように降っていた。
プレイヤーたちに示されたのは、新たな道。
精霊武装、モンスターテイム、人外プレイの可能性。
それらがプレイヤーの目にどう映るのかは、火を見るより明らかだった。




