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最近、街にプレイヤーという人が来ます。  作者: 月乃 そうま


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研究棟6


 アジ・ダハーカと戦う紅玉ライリンと青玉コーリンは順調だった。

 麒麟のシルエットを持つものの、それの表面は醜悪な様々な生物的要素がごちゃ混ぜになった邪龍であるアジ・ダハーカ相手に、たったの二人で良く戦っていると言えた。


 本来ならば、宝石器の冒険者四人で戦うべき相手である。


 元々、紅玉と青玉は異国の戦闘奴隷である。

 戦争孤児として生まれ、物心つく頃から戦乱に明け暮れる異国で戦っていた。


 彼女たちは双子であり、お互い助け合って生き延びて来たのだ。


 彼女たちの主人は、ひたすら戦うことだけを彼女たちに求めた。

 戦いに次ぐ戦いの中で、彼女たちの主人が亡くなり、それでも彼女たちには戦いしか残されていなかった。

 主人が亡くなったことで、戦争から逃げ出した彼女たちだったが、生きていく術は戦うことしか知らなかった。


 素性を隠して、冒険者を始めたのは自分たちのスキルが生きるからだった。

 本来、冒険者になれるのは成人でなければならなかったが、彼女たちの戦闘力は群を抜いていたため、冒険者ギルドは素知らぬふりで、彼女たちを冒険者だと認めた。

 異国では、当たり前に行われていることだった。


 逃亡奴隷だと見抜いていても、使えるのならば使う。

 戦乱の異国では、普通のことだ。

 そして、彼女たちは、またたく間に金器まで登り詰めた。


 異国の冒険者ギルドは、戦乱の渦中にある国に対して戦費を出資することで、多数の治安維持に当たる冒険者たちを守っていた。

 戦乱があろうと、魔物が減る訳ではないのだ。

 男手は戦に取られた小さな村などは、魔物が出れば冒険者に頼るしかない。


 冒険者ギルドは元来、魔物に対処するために作られた組織だ。

 その本道を守るためには横の繋がりである他国の冒険者ギルドから借金を重ねるしかなかった。

 そして、その借金を返すアテがない異国の冒険者ギルドは、他国に借金を返す代わりに派遣できるだけの特級戦力の保持が急務だった。


 そんな中、双子はその力量を買われ、宝石器の冒険者になることになった。

 双子は戦乱の異国を抜け出せると喜んだ。

 宝石器の冒険者は、ギルドの繋がりを使って、各国にフリーパスで移動できたり、莫大な報酬が約束され、扱いも極上のものになる。

 ただし、特級戦力が挑むのは、やはり特級の相手になるのだ。

 これに拒否権はない。


 それでも、双子にとっては喜ばしいことと言えた。

 戦場でまともな装備もなく、使い捨ての駒として使い潰される戦闘奴隷よりは何倍もマシと言えた。

 戦闘奴隷という位階も宝石器の冒険者になる時に自動的に消去される。

 法的に守られるようになるのだ。


 だから、双子はこの場に立っていた。

 個人所有の焼き印も呪いもなくなったが、結果として冒険者ギルドという組織の所有物になった。


 双子には戦うことしか術がない。

 だからこそ、成人前だというのに、特例に特例を重ねて、宝石器の冒険者まで上り詰めたのだ。


 双子にはお互い以外に守るものがない。

 戦うこととお互いを守ること。

 それが全てだ。


「コーリン、目だ!」


 紅玉の短い指示に、青玉が反応して跳ぶ。

 アジ・ダハーカの頭まで跳ぶと、巨大な双眸が青玉に向けられる。


 【穂狩ほがり】、デスサイズを用いた横一閃は気を纏い、見た目よりも遥かに広範囲を切りつける。


 アジ・ダハーカの視界が一瞬だが塞がれる。

 斬られた目玉とそれを繋ぐ眉間から血を吹いて、アジ・ダハーカは両目を落とした。

 血と目玉の残骸が合わさって、新しい魔物になるのだろう。

 さらには、アジ・ダハーカの権能、魔物を生む力によって、ほんの少しの間に目玉すら回復するのは、これまでの戦闘で紅玉も理解している。


 だが、紅玉はその一瞬の隙を欲した。


 紅玉が取り出したのは柄頭に紋様が刻まれた鉄針だ。

 見る者が見れば分かるが、ソレは炎の魔法が閉じ込められた魔導具だ。

 紅玉の魔力を吸うことで、打ち込まれた内部から炎の爆発を起こす、爆裂針と呼ばれるものだ。


「生半可な攻撃は敵の利になるだけ……それなら、身体の芯から燃やしてやる!」


 アジ・ダハーカが一般的な生物だとしたら、心臓のある辺り、そこを狙って紅玉が跳んだ。

 アジ・ダハーカのふたつの目は潰れている。

 充分に隙はあるはずだった。


 だが、アジ・ダハーカの目が潰れると同時に、身体中に小さな目が一斉に生まれた。

 それは大きさからして、人の目に似て、やけに嫌悪感を掻き立てる。

 そして、その目はギョロギョロと動いて、紅玉を見つけると、その瞳から電撃を放った。


「がっ、あああぁぁぁあああっ……!!」


 一撃はそれほど強いものではない。だが、紅玉を見つめられる位置の瞳、その全てから放たれた電撃は束になり、威力を増し、紅玉の全身を駆け抜けた。


 紅玉の全身が震え、煙が上がる。


 紅玉は爆裂針を持ったまま、地に落ちる。


「!?」


 青玉は慌てて紅玉の元に走った。

 アジ・ダハーカはその巨大な蹄で紅玉を踏み潰さんと脚を上げた。


 【大蛇薙おろちなぎ】デスサイズを大蛇の尻尾に見立てた、相手の足元への薙ぎ攻撃。

 衝撃波を伴い繰り出される技は相手の足を折り取らんとする力が込められている。


 青玉の一撃がアジ・ダハーカの脚を弾いた。

 それから、青玉は紅玉をひっ掴むと、大きく飛び退く。

 その時、紅玉は僅かながら、まだ意識があった。

 青玉に運ばれながら、紅玉は爆裂針を投げた。

 だが、同時にアジ・ダハーカの百目から電撃も放たれる。


 爆裂針はアジ・ダハーカの腹に刺さり、内部から爆発を引き起こした。

 青玉と紅玉は電撃を食らい、地を舐めるように転がる。


 しかし、この軍配はアジ・ダハーカに上がることとなる。

 腹からぶちまけた臓物は魔物に変化し、腹は肉が盛り上がり、その傷を癒していく。

 封印は効き始めたものの、未だ魔物生みの権能は残っている。

 一方、紅玉と青玉は電撃を浴びて、大ダメージだった。

 いや、ダメージよりも機動力が落ちたことが問題だった。


 アジ・ダハーカは今度こそと、二人を踏み潰すべく脚を上げた。


「コーリン、お前だけでも行け!」


 紅玉は青玉に指示を出す。

 紅玉自体は限界を悟ってしまっていた。

 無理にポーションで取り付けた足は、もう騙しようがなく動かなくなっていて、二度の電撃を浴びたことで這いずり逃げるのも厳しい。


「……ぃゃ……!」


 青玉も電撃を浴びた直後で身体は麻痺を起こし、感覚がないままにどうにか紅玉を引きずろうと奮闘するが、どう考えても間に合っていなかった。


 アジ・ダハーカの蹄が迫る。


「逃げて……コーリンっ……」


「……ぃいやぁぁぁっ!」


 青玉の絞り出すような声が響いた。

 だが、奮闘虚しく、二人を蹄の影が覆う。


「【命・鬼火(ファイアショット)】!」


 それはプレイヤーの使う魔法だ。

 一番基礎的な炎の玉を真っ直ぐ放つだけのもの。

 使ったのはアワツキだ。

 入口付近に現れたプレイヤーの一団がある。

 それはヌマクを運んだプレイヤーたちだ。

 おそらくはヌマクの保護を達成して、とんぼ返りで戻って来たのだろう。


 アジ・ダハーカを有り得ないほど巨大な炎の玉が襲い、その衝撃でよろめかせた。


 本来ならば、有り得ない飛距離と威力だ。

 右手で短杖を掲げるアワツキだったが、異変は左腕に起こる。

 小さな竜巻がアワツキの左腕を包んだかと思うと、雑巾絞りのように血が噴き出し、骨を砕く音がして、アワツキの左肩から先が粒子化して消えた。


 アワツキの周りのプレイヤーたちは、意味がわからず、間抜けに口を開いていた。


 それは魔法だった。

 魔法使いプレイヤーは希少だ。基礎的な魔法を二つか三つ使えるものの威力は剣で切りつけるのと同じくらい。

 しかも、レベルアップで魔法が増えたり、威力が高まることはない。

 師匠となる魔法使いを見つけない限り、魔法はどうしようもなく弱い、それ故にプレイヤーたちから大不評を買い、なり手がいなかった。

 しかし、アワツキが使った魔法は異常と呼べるほどの高火力を発揮した。


 タネは簡単だ。正しく代償を払える知識と方法。それを知れば魔法はどこまでも強くなる。

 プレイヤーはMPを代償に魔法を使う。

 それは、正しいが間違っていた。

 MPは入口に過ぎない。魔法には贄が必要なのだ。

 正しいやり方で贄を払えれば、魔法は強くなる。


 アワツキは自身の左腕を贄に魔法を放った。

 本来ならば壮絶な痛みと左腕の喪失は、かなり大きな代償と言える。

 一生、不具になることを受け入れることだからだ。

 しかし、プレイヤーは痛みなく、一時的な、そう死ぬまでの不利程度の代償で大魔法が使えてしまう。

 ロールプレイ的に魔法使いが高難度に設定されているのは、ここにある。


 育てられれば最強。

 それが魔法使いというキャラクターだった。


「……なんだ、そりゃ?」


「えーと……秘密です。まだ、教える立場にないもので……」


 ザビーの質問に、アワツキは悪戯めかして答えた。

 そう言うしかなかった。

 アワツキが不遇な魔法使いを選んだことは知っていても、師匠を得たことは秘密だった。


「あまり多用はできないんですけど、死ぬ気になれば強いんですよ、魔法使い」


 そう言ってアワツキは笑った。

 プレイヤーたちはなんとも複雑な表情を浮かべるより他はなかったのだった。



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[一言] ひゅー、やるじゃん魔法使い!
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