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最近、街にプレイヤーという人が来ます。  作者: 月乃 そうま


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研究棟5


 魔物たちは生まれるよりも多く倒されていく。

 アジ・ダハーカの魔物を生み出す力に衰えが見えてきた。

 封印が効いてきたのかもしれない。


 だが、魔物が死ねば死ぬほど、ソレは金の粒子になり、魔王はその力を吸収していくのだ。

 触手は太く強くなり、魔王ブレイクは少しずつその身を大きくしていく。

 まるで神話に語られる『百腕巨人(ヘカトンケイル)』か『多頭龍(ヒュドラ)』のようにも見えてくる。


「ぬう……いかんな……血が足りなくなってきたわ……」


 全身血塗れの黄水晶シトリンのオシテマイルの動きが精彩をかいたものになり、縞瑪瑙オニキスのサンジョウは毒に冒されていた。


「おい、そんなものか?

 そんな程度で俺の邪魔をしようとしていたのか。

 【瘴気毒龍の牙(ヒュドラ・トゥース)】」


 肩の触手の先端が割れて、毒蛇に見える。

 割れた部分には巨大な二本の牙が光っている。

 触手が雨のように上から降ってくる。


 黄水晶は触手の数本を打ち落としはするものの、手が足りなくなって逃げ出した。

 ほんの一瞬の隙をついて、血止めのポーションを頭から被るが、それは自身の隙を晒すことにも繋がってしまう。


「休んでいる暇があると思ってんのか……」


 避けたはずの触手が地を抉る衝撃に止まることなく、黄水晶を追う。

 触手の先端が割れて、牙が光る。


「ぬうっ、まずい!」


「じじいっ!」


 万事休すの黄水晶を救ったのは、縞瑪瑙だった。

 しかし、それは自らを犠牲にしての救出劇だった。

 縞瑪瑙の胴体に深深と毒の牙が埋まっていた。


 縞瑪瑙の身体が触手に持ち上げられるのを黄水晶が見送る。


「すまんな。仇は取る」


「毒で長くなかったしな……頼むわ……」


 黄水晶は悲しむ様子もなく、縞瑪瑙の瞳から失われていく光を見ながら、ドーピング系のポーションを飲み、新しい大剣を取り出す。


「まずは一人だな」


 ブレイクが腕の【龍砲ドラグカノン】を黄水晶に向けて言う。


「ふん、まさかこの剣を抜かされるとはな……魔導剣『ホノミカヅチ』。

 少々、熱いぞ」


 黄水晶が取り出したのは魔導剣である。

 プレイヤーの課金武器である魔導剣は、課金武器の中でも当たりのものだ。


「仲間が死んだ割にはクールじゃないか。

 いらん奴だったか?」


 ブレイクは挑発するが、黄水晶はそれには乗らなかった。

 黄水晶の目の前には、死んで呪いが解けたのか、縞瑪瑙の所持アイテムがパラパラと落ちてきていた。


「仲間? まあ、臨時パーティーだしな。

 縞瑪瑙は毒を食らっていた。

 多少の傷があるわしと毒で衰弱していく縞瑪瑙ならば、縞瑪瑙がわしを庇う方が勝率が高い。

 さらに縞瑪瑙がわしを庇って作った時間で回復と新たに武装ができた。

 つまり、必然じゃな」


「ああ、そこらに転がる魔物と同じか。

 ふっ……俺なんぞより、お前の方がよっぽどケダモノじゃないか」


 ブレイクは自身の過去を思って、その甘さに笑った。

 守るつもりのルインに助けられ、情けをかけられ、自暴自棄の末、ようやく鬼道を受け入れた自分。

 今となっては、鬼道を受け入れたことに後悔どころか、なぜ、もっと早く鬼道に入らなかったのかと思うほどだが、昔の自分はヒロイックに酔っていた。

 その過去の残滓が、黄水晶をケダモノと呼んだのだ。


「ああ、ケダモノでよい。

 伊達や酔狂で宝石器の冒険者など、やってられんからな。歌え、【ホノミカヅチ】!」


 黄水晶の手にある【ホノミカヅチ】から青い炎が噴き出す。


「ははっ……最低だなニンゲン。

 これだからニンゲンというやつは……」


 ブレイクの【龍砲ドラグカノン】と触手が同時に放たれる。


「ふんっ、精霊は気狂いを起こすと聞いたぞ。

 意思なくケダモノに成り下がる方が辛いじゃろう!」


 自らの意思で成るケダモノと操られて成るケダモノ。

 どちらがマシかは分からないものの、黄水晶の剣はケダモノを狩れるだけの力はあるようだった。

 ブレイクの大きく太い蛇頭のような触手が、斬ると同時に焼かれ、精霊・那乃なのが散っていく。

 ブレイク自体が巨大化しているため、触手一本など全体の総量からしたら微々たるものに過ぎないが、それは確実にブレイクまで届き得る攻撃だ。


「さあ、我が命を吸って、高らかに歌うがいい。【ホノミカヅチ】よ!」


 代償は安くなさそうだった。

 しかし、威力は相応しいものだ。


 一進一退の戦いは、長期戦を予感させるものであった。




 一方、ルインはと言えば、少しずつだが、魔物を減らすことに成功しつつあった。

 手を替え品を替え、常に対多数用の技を連続で使えるのがルインの強みであり、それはかつてNPCキラープレイヤーのハシリであるモルガが見つけたコンボと呼ばれるものだ。

 ルインからすれば、当たり前だが、未だプレイヤーたちには浸透していない概念。

 特定の技と技を繋ぐ技術。

 そして、封印によりアジ・ダハーカの生む魔物が減少しているのも大きい。


 しかし、魔物を殺せば殺すほど、金の粒子はブレイクへと集まって行く。

 それでも、誰かがやらなければならない仕事なのだ。


 紅玉と青玉がアジ・ダハーカを傷つけ、魔物が生まれる。

 それら全ては魔王ブレイクへと帰結していく。

 だが、それでもやらなければならない。

 宝石器も金器も関係なく、それぞれがそれぞれの仕事を果たさぬ以上、勝利は無いのだ。


 戦いは長く、長く続いていくのだった。



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