龍牙館・宝物庫
龍牙館には七人のプレイヤーが集まっていた。
キマイラキラーズとして有名になったカービン、ザビー、ハイロの三人。
魔女ノルナニアの弟子、アワツキ。
ルインと冒険を共にした豆腐メンタルとプッツンプリン
ルインにその腕を認められた男、カマ・ドウマン。
彼らはルインの招集に応えたプレイヤーたちだ。
また、このルナリードの街に拠点を置いて活動しているプレイヤーでもある。
ルインは他にも今までに見知ったプレイヤーでルナリードの街を拠点としているプレイヤーのほとんどに声を掛けたが、他のプレイヤーは今回のイベント『鎮めの森の邪龍』に参加するため出払ってしまっていた。
「有休を使ってしまった……」
豆腐メンタルが罪悪感と共に呟いた。
「豆腐って社会人なのか」
ザビーが聞いた。
「しかもね、相当ブラックなとこらしいよ」
説明するのはプッツンプリンだ。
「いいよな。学生は長期休暇だろ……」
「まあ、うちの学校はスポーツに力入れてるんで、ほぼ毎日、部活やってるやつばっかですけど」
キマイラキラーズは顔を見合わせて恥ずかしそうに笑い合う。
察するにドロップアウト組だろうか。
ルナリードの街を拠点にしているプレイヤーはほとんどが顔見知り同士だ。
ルインを中心にできた縁とも言える。
必然、NPCを人間的に扱うプレイヤーが多かった。
それゆえに、ルインの願いに応えて、有休も取るし、イレギュラーなログイン時間にもこうして集まってしまうような、このゲームに思い入れがある者が多かった。
ガチャリと扉が開く。
それは、いつもの掘っ建て小屋ではなかった。
ルインは龍牙館の名前の由来となった屋敷から、身体を引きずるように出てくる。
「これで全部かな?」
ルインが辺りを見回す。
「他の人たちは第二波防衛クエストに行ったみたいですね」
ドウマンが答えた。
「そうか。じゃあ、みんな、すまないがこっちに来てくれ」
言ってルインは龍牙館の中へと入っていく。
「え、いいのかな?」
ハイロが首を捻ると、プッツンプリンが嬉しそうに他のプレイヤーの背を押した。
「ルインがいいって言ってるから、いいんだよ、きっと!」
龍牙館に来た者は知っている。
ルインは、龍牙館には入らないし、誰も入れない。そもそも、龍牙館は別に持ち主がいるのだと説明されてきたからだ。
ただ、龍牙館の庭先に建てられた掘っ建て小屋で寝起きするルインは、使用人か管理人的立場にあるのだろうと皆は思っていたし、もしかしたらルインが代理で、実際にはこのメンバーを集めたのは龍牙館の主なのかもしれない。
そう考えて、全員は言われるままに中へと足を踏み入れた。
龍牙館の中は質実剛健な装いながらも、とんでもない宝の山だった。
装飾品のように置かれた鎧は、プレイヤーの誰も見たことがない神秘的な光沢を持っていて、壁に架けられた武具は課金アイテムよりも高位な武具、伝説級の品々だというのが見るだけで分かる。
何気なく机に置かれたゴブレットを見て、アワツキは小さく悲鳴を上げる。
「ひっ……」
「どうしたんだ、アワツキさん?」
「あ、いえ、まりょ……ああ、ええと……文献で見たことがあって……たぶん、星の杯……飲むと身体に雷を纏うことができるとか……」
アワツキが驚いたのは、実際、そのゴブレットに込められた魔力量についてなのだが、魔力の光が見えることは秘密だと師匠ノルナニアに言われているため、それとは違う話を持ち出したのだった。
ただ、星の杯の情報もノルナニアに読むよう言われた文献で、それもまた間違いではなかった。
「あまり良い物じゃない。その雷で傷つけるのは敵だけじゃないしな……」
ルインは包帯だらけの身体を引きずって、それを眺めて興味がなさそうに言った。
つまり、本物だということだった。
プレイヤーたちは何となく無口になってしまう。
そうして連れて行かれたのは、ひとつの部屋だ。
そこは、他人から見たら宝物庫で、ルインは武器庫と呼んだ。
「神兵は重さに関係なく魔術書に武器をしまえたよな?
俺が依頼したいのは、これから指定する武器を俺ごとアジ・ダハーカのところまで運んで欲しいんだ」
「は?」
「それって鎮めの森の封印の魔物だよな?」
「え? 個人的な依頼ってこと?」
キマイラキラーズの面々は驚いていた。
「ああ、個人的な依頼だ」
「なんで?」
プッツンプリンは空気を読まずに聞いた。
「因縁があるからだ。
仲間が殺された。この龍牙館は仲間たちと建てたものだ。
俺だけが残ってしまった。
もう二度とこの屋敷に足を踏み入れることはないと思っていたんだがな……封印が解けた以上、俺はヤツとケリをつけなくちゃいけない……」
「なるほど、前にやった護衛クエストみたいなもんか」
豆腐メンタルは頷いた。
「そうだ」
ルインは淡々と答えた。
だが、アワツキが慌てて言う。
「ま、待ってください!
アジ・ダハーカの絵を見ましたけど、邪龍というより麒麟ですよ」
「きりん? ゾウさん、キリンさんのキリン?」
「いえ、神獣の麒麟に近い姿です」
プッツンプリンのほんわかした問に、アワツキは冷静に答える。
「問題はどちらにしろ、四つ足の獣型ってことだろ!」
カービンが本質を突いた。
「それでもだ。俺に戦わないという選択肢はない」
「まさか死にに行くって話じゃないよな?
それなら、悪いが俺は付き合わないぞ」
ドウマンはイラついた顔をした。
「死ぬつもりはない。
俺のこの身体を見てくれ」
「ボロボロじゃん!」
ザビーがすかさずツッコミを入れた。
「今、鎮めの森に向かった超級冒険者たちに、ボコボコにされたからな」
「つまり、まともに歩けもしないで、仲間と共に逝きたいとか、そういう話か……」
さらにドウマンの機嫌が悪くなる。
だが、ルインは静かに首を振った。
「違う。身体を治す術はある。
特別な魔法薬だ。ただし、時間制限がある。
それと、俺にもあんたらプレイヤーに似た力がある」
ルインは薬を見せる。
それから、ゆっくりと身体の力を抜いて続けた。
「見たら覚える。
あんたらプレイヤーの特性と同じだ。
宝石器の冒険者たちは、俺の強さからアジ・ダハーカの強さを計り、勝てると踏んで、封印方法を聞かずに行ってしまった。
その過程で、俺は宝石器の冒険者たちの技をたんまり食らった。
つまり、封印方法を知り、宝石器の冒険者たちと同じ技を使えるのは俺だけだ」
「んん? 待てよ……その超級冒険者たちの他にプレイヤーたちもレイド戦のつもりで挑んでるが……もしかして、レイド戦用の魔物じゃないのか?」
豆腐メンタルは何かに気づいた。
「ギミック解かなきゃ倒せないタイプの魔物ってことなのかも……」
ハイロが追随する。
「報酬は、持っていった武器の中から好きなものを渡す。
それでどうだ?」
プレイヤーたちはお互いに顔を見合わせるのだった。




