南大通り
はわわ、出したつもりで出てなかった〈汗〉
お待たせしましたm(_ _)m
少しずつ金器の冒険者としての矜恃を取り戻してきたルインだったが、もちろん案内人としての仕事も続けている。
ヒフキヒクイの脳をギルドに納品してから、ある程度以上の金を手にして、久しぶりに案内人の仕事に就いた。
本来ならばギルドに登録していない豆腐メンタルやプッツンプリンにも追加として、山分けで金は渡してある。
プレイヤーからすれば、ルインの技を見るだけで自分の技として解放され、その上、当初の予定よりも多くの報酬を手に入れられて、ホクホク顔で次のクエストを探しに行ける。
ルインは優良NPCとして、徐々に有名になりつつあった。
金器の冒険者ともなれば、その依頼は引く手数多だが、ルインは必要以上に仕事をしようとは思わなかった。
未だ四足の獣は苦手であるし、それなりのフォロー人員がいなければ、やはり街の外に出るのは自殺行為だからだ。
角ネズミ一匹でも、まともに動けなくなり、逃げるしかなくなる。
苦手の克服は当面の課題だが、ルインはそれが何とかなるとは思えなかった。
まるで、本能に刻まれてしまったような感覚だった。
だからこそ、案内人を続けている。
案内人としてのルインは、有名ではないが、天職なのではないかと言うほど優秀だ。
それこそ、つましく生きるだけなら、案内した先で渡されるチップだけで生活できるほどだ。
しかし、プレイヤーたちが訪れるようになって、案内人たちは今まで以上の更なる注意を払わなくてはならなくなった。
NPCキラーのプレイヤーを見分ける力が必要になってきたのだ。
大抵のプレイヤーたちは『ハジュマーリュの街』から『ルナリードの街』まで来て詰まる。
『ルナリードの街』に来るまでの適正レベルは十から十五であるのに対し、『ルナリードの街』から次の街『首都クラウドオーバーシャイン』に行こうとすると、現行のレベルキャップ五十あっても足りないというのがプレイヤーたちの目算だ。
本来ならば、『ハジュマーリュ』から『ルナリード』、『ルナリード』から『ハジュマーリュ』に戻り、『タジュカラ』へと進むのが正規ルートなのだ。
だが、何故か大抵のプレイヤーたちは、『ハジュマーリュ』に戻ることを良しとしない。
これはルインたちNPCの預かり知らぬことではあるが、プレイヤーたちの習性のようなものだ。
プレイヤーたちは『ルナリード』から次の街へと続くルートがあるはずだと盲目的に信じていた。
だが、『ルナリード』から次の街へと向かうにはレベルが絶対的に足りない。
そこで一部のプレイヤーたちは気づいてしまうのだ。
NPCキルが普通に魔物を狩るより、遥かに効率良く経験値が稼げるということに。
それは野盗を仕留めた時かもしれない。
または知的好奇心を満たすべく、それが可能かどうか、無辜の民を襲った時かもしれない。
自由度の高さは悲劇を孕んでいる。
こうして、一部にNPCキラーと呼ばれるプレイヤーが誕生したのである。
このゲームは頭に名前が出るような、ゲームライクな仕様の殆どが排除されている。
それは、リアリティの追求なのかもしれないが、NPCキラーにとって有利な材料に他ならない。
誰にも見られていなければ、NPCを殺しても罪に問われることはほぼ無いと言っていい。
もちろん、証拠は残るし、捜査されることもある。
だが、それに味を占めてしまったプレイヤーは、より狡猾に、残忍になっていく。
『ハジュマーリュの街』では、NPCキルができない魔法の結界に包まれていて、それは不可能だ。
また、NPCは無力な存在ではなく、攻撃されれば、逃げたり、反撃を選ぶ者もいる。
そこで、一部のNPCキラープレイヤーの中で流行っているのが、リスボン地点を『ハジュマーリュ』に置いたまま、『ルナリードの街』で大量キルを狙うという動きだった。
これを流行らせたのは、モルガというプレイヤーだ。
それは何度か行われた。
それ以降、案内人はそういった危険なプレイヤーと最初に会う職業として、より細心の観察眼が必要になったのだった。
門番の兵士?
そういったプレイヤーと対魔騎士の戦いを密かに期待する領主がいる中で、指名手配のプレイヤーならともかく、ただ怪しいという理由だけでプレイヤーの入街を拒むことは、彼らにはできなかった。
兵士や対魔騎士が動くのは、街に被害が出てからのことである。
NPCキルを狙うプレイヤーには、ある程度特徴がある。
初顔でやけにレベルが高く、NPCに対して非常にフレンドリーであり、人が多く居る場所を好む。
また、彼らはNPCを経験値として常に値踏みしているので、笑顔でいながら探るような目付きをしていることが多い。
何度もプレイヤーと相対していく内に、ルインの中ではもうひとつ指標ができた。
殺気の有無である。
それは、巧妙に隠していても、隠しきれないNPCキラーの性だった。
こちらが油断している風に見せると、漏れ出てくる殺気に晒される。
そんな時、ルインはそれとなく対魔騎士たちの巡回ルートの近くの場所を選ぶ。
対魔騎士たちは、普段はいけ好かない態度で街中でもあまり評判は良くないが、こと戦闘ではたしかに頼りになる。
対魔騎士はその為に居るのだ、使わない手はない。
また、案内人同士の符丁というのも、最近になってできてきた。
そのプレイヤーの危険度を、自分の顔に触れる高さで教え合うのだ。
顎や頬は危険度、低。鼻ならば、中。額や髪に触れて見せると、高という具合だ。
ルインの場合、プレイヤーの案内を積極的にやっていたこともあって、プレイヤーと面識があることも多い。
他の案内人が、ルインを見かけて鼻を触る。
案内されているのはルインが知っているプレイヤーだ。
「やあ、ヴァニラさん!
久しぶりじゃないか」
「ルインか……」
鋭い目でルインを一瞥して、興味なさげに視線を逸らす。
ルインはヴァニラを案内している男を見て、顎に軽く触れて言う。
「悪いね。前に案内したプレイヤーさんだったんで、つい声を掛けちまった」
「いや、そうなのか……」
冒険者の余暇を利用して行われる案内人の仕事だ。
案内人同士も顔見知りが多い。
「じゃあ、ヴァニラさん、また!」
ルインは軽く手を挙げて、その場を離れた。
これで、あの案内人にはヴァニラは危険度が低く、かつプレイヤーだと伝わっただろう。
心做しか案内人もホッとした表情をしている。
ヴァニラはぶっきらぼうを装う演技が好きらしく、相手に誤解されやすい上、たまにしかログインしないため、街中であまり見かけないプレイヤーだ。
案内人もあまり慣れた様子はなく、鉄器を提げていたから、最近になって始めた新人の案内人だろう。
冒険者としての面識はなくても、それぐらいは分かる。
ルインはいつものように、ふらふらと門の近くを歩き回るのだった。




