1/53
第一杯目 着丼!デブラメンジャー①
三年前のあの夜のことを、正確に語れる者はいない。
覚えているのは、隣の街にいた者たちだけである。空が明るくなったのだと、ある者は言う。夜だったのに雲の底が赤く照らされて、その赤が見る間に広がっていった。音が先だったと言う者もいる。遠くで何かが裂けるような低い音が長く響き、それから足もとが揺れた。どちらが先だったのかは、いまだに決まっていない。
彼らが見たのは、遠くの空だけだった。街の中で何が起きたのかを語れる者は、一人も残らなかった。だから、ここから先は誰の記憶でもない。
朝が来た。屋根が抜け、壁が傾き、道のあった場所は、崩れた壁に塞がれていた。積み上がった瓦礫のあいだから、折れた電柱が斜めに突き出している。風はなく、舞い上がった土埃が、いつまでも落ち続けていた。」
その瓦礫のどこかで、声がしていた。掠れた喉から、細く漏れてくる。
「死にた……く……」
そこで声が途切れた。続きは、もう出てこなかった。
同じ瓦礫の隙間から、一本の手が伸びていた。指が何かを探すように宙をかいている。掴めるものは何もない。それでも手は上へ、光のある方へ、そこに誰かがいるかもしれない方へ伸びていく。
死にたくないと言えない口と、生きようとしてやまない手が、一つの体についていた。




