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生徒会だってふざけたい!!〜自由と自主性を謳う名門魔法学校で、僕らは毎日楽しく過ごしてます〜  作者: 山下愁
4月:ドキッ! 異世界『誘拐』編

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Days 1-3:「殺して詫び入れさせます」

【前回までのあらすじ】


ユフィーリア「お前は自分が爆死したところを見たことはあるか?」

「生徒会長、新入生たちの緊張《きんちょう》を解《ほぐ》そうという気持ちは分かりますけどあまりふざけないでください!!」


「悪かった」


「笑える。指差して笑っていい?」


「学院長も笑ってないでください!!」



 案の定、裏口の扉を陰《かげ》にして隠れていたユフィーリアとハルアの存在は、あっさりと学院長と司会進行の教職員に見つかった。今は舞台袖《ぶたいそで》で仲良くお説教である。

 半泣きの状態で怒る司会役の教職員の隣で、グローリアが正座するユフィーリアとハルアを指差して軽い調子で笑い飛ばす。その指を折ってやれないかと頭の片隅《かたすみ》で考えたが、今もなおキャンキャンと喚《わめ》き立《た》てる教職員の説教が長引きそうだったので止めた。


 その時、



「すいません通報を受けてきました殺して詫《わ》び入れさせますぅ!!」


「ぎゃん!?」



 唐突に聞き覚えのある男の声が耳を突き刺したと思ったら、後頭部を鷲掴《わしづか》みにされて舞台袖の床に顔面を叩きつけられた。顔面を痛みと衝撃《しょうげき》が突き抜けていった。



「本当にもうこの生徒会長は愉快《ゆかい》なことしか考えないんだからぁ!! ごめんなさいすいませんでした折檻《せっかん》してでも聞かせますのでどうかこの馬鹿会長の命で勘弁《かんべん》してくださぁい!!」


「あ、あの、副会長、それぐらいで……」


「凄いね、人体から聞こえちゃいけない音が聞こえたよ。面白いね」



 頭上から困惑《こんわく》するような教職員の声と、相変わらず軽い調子で笑い飛ばしてくるグローリアの声が降ってきた。いい加減に助けてほしい。



「おい……ふざけんなエド……顔面が潰《つぶ》れる……!!」


「ユーリが悪いんじゃんねぇ、よりによって入学式で馬鹿なことをするからぁ!!」



 ようやく後頭部を押さえつけていた何かの感覚が離れていき、ユフィーリアは顔を上げることが出来た。床に叩きつけられた際、鼻が折れ曲がっていないことをちゃんと確認する。大丈夫、鼻の骨は無事である。


 今までユフィーリアの頭を押さえつけていたのは、灰色の髪を持つ筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)とした男子生徒だった。肩まで届く灰色の髪をハーフアップにまとめているが、側頭部を剃《そ》り込んでいるので野性味溢(あふ)れる印象を見る相手に植え付ける。狼を想起させる鋭い銀灰色《ぎんかいしょく》の双眸《そうぼう》と彫りの深い顔立ちも相まって、ワイルドな雰囲気が漂う。

 見上げるほど身長は高く、首元まで覆う黒い機能性肌着の上から浮き彫りになる立派な筋肉は彫像の如き美しさがある。男性も女性も視線を惹《ひ》きつける、圧倒的な体格だった。羽織《はお》っているローブだけが彼の学生らしさを残している。


 生徒会副会長のエドワード・ヴォルスラムである。生徒会長のユフィーリアの右腕だが、扱いがまあまあ酷《ひど》い。



「もう、本当に俺ちゃんが見とかないと余計なことしかしないんだからぁ。今日の挨拶《あいさつ》だってアホみたいにくだらない台本を用意してぇ、ハルちゃんまで巻き込んで何か変なことになったしぃ」


「くだらない台本って言ったぞ、こいつ。アタシ渾身《こんしん》のコメディに何てこと言いやがる」


「くっだらないじゃんねぇ。新入生から失笑《しっしょう》を買うのがオチだよぉ」



 不満げなユフィーリアに対して容赦《ようしゃ》のない正論を並べて黙らせるエドワードだったが、



「ユーリのお願い通りに人形っぽく見えるようにわざと不細工《ブサイク》に作ったらめちゃくちゃ怒ったくせにね。本当はマネキンみたいなの使う予定だったのに、わざわざ購買部で粘土《ねんど》まで買ってきてめちゃくちゃケチつけてきたのにね」


「ハルちゃん」



 ユフィーリアの隣で同じく正座でお説教《せっきょう》を受けていたハルアが、ジト目で何事かを語り始めたのをエドワードが慌《あわ》てた様子で彼の口を塞《ふさ》ぐ。



「違うでしょぉ、どんなことにも妥協《だきょう》を許すなってのがうちの魔女様の教育方針ってのはハルちゃんも知ってるじゃんねぇ。だから妥協をしない為にも」


「髪の細さとお目目の色とお肌の白さとお胸の丸さにめちゃくちゃケチつけたよね」


「ちょっとハルちゃん黙ろっかぁ?」



 触れてはならない領域《りょういき》にズカズカと土足《どそく》で踏み荒らすハルアに、エドワードは「本当にお願いだから静かにしててぇ」と頼み込んだ。ハルアの方はしれっと明後日の方向に視線をやっていたが。


 あの等身大ユフィーリア人形を作るぐらいにハルアの手先が器用なのは知っていたが、まさか彼自身がうんざりするぐらいにケチがつけられているとはユフィーリア本人も想定外である。これはどんな反応をしていいのか分からない。

 とりあえず、ユフィーリアは静かにエドワードから物理的に距離を取ることにした。髪の細さとか目の色とか肌の白さまで把握されているのは100歩譲って許したとして、胸の大きさまで把握《はあく》されているとちょっと引く。いやかなり引く。


 すると、



「ユーリ♪ ワタシを置いて入学式に参列するなんて酷いワ♪」


「おぶ」



 横合いから伸びてきた細腕《ほそうで》がユフィーリアの頭を抱き込み、何か柔らかいものに埋め込んでくる。視界があっという間に肌色に埋め尽くされた。


 その正体は人間の胸である。柔らかくしっとりとしており、上質な枕よりも弾力があるそれはユフィーリアが呼吸をすることを許さない。ぎゅうぎゅうとユフィーリアの顔面を癒《いや》すかの如く豊かな胸に押し付けてくるので、鼻孔《びこう》が甘やかな香りで支配されつつあった。

 ようやく巨乳の拘束からもがき出たユフィーリアの目の前に、舞踏会で見かける華美《かび》な仮面を装着した女の顔が飛び込んできた。明るい新緑色《しんりょくいろ》の長い髪を太い三つ編みに結い、頭で王冠《おうかん》の如く輝くヘッドドレスが清楚《せいそ》なメイドの印象を与える。長いスカートが特徴的なメイド服を着用しているが、足を隠す代わりに豊満な胸元を開放しているので胸の谷間がバッチリ強調されていた。清楚さと扇情《せんじょう》さが同居している。


 まだ自身の巨乳で窒息《ちっそく》させようと画策《かくさく》するメイドに抗《あらが》いながら、ユフィーリアは彼女の名を呼ぶ。



「アイゼ、止めろ。息が出来なくなるだろ」


「いやン♪ ワタシはユーリを癒そうと思ったのヨ♪」



 メイドの女――アイゼルネはむぎゅりとなおもユフィーリアを抱きしめてくる。彼女はユフィーリアの従者として付き従うメイドだ。もちろん、ヴァラール魔法学院にいる以上は生徒として取り扱われるし、生徒会所属である。



「あラ♪ お鼻が真っ赤になっちゃっているワ♪ おでこも赤くなっちゃっテ♪」


「あー、それはだな」


「大丈夫ヨ♪ なでなでしてあげましょうネ♪」



 床と正面衝突を果たした影響で赤くなってしまった鼻の頭と額をアイゼルネが癒《いや》すようにと撫《な》でてくる。やっていることが母親が子供に対して慰めるかのようだった。


 むぎゅむぎゅとアイゼルネの胸に顔を押し付けられて窒息《ちっそく》しかけるユフィーリアだが、突如《とつじょ》として背後から物凄い力で引っ張られてふかふかした何かに受け止められる。甘やかな香水の匂いから石鹸《せっけん》のような香りに変わった。

 見れば、エドワードがユフィーリアを抱き寄せていた。ふかふかした何かの正体は、彼の豊かな胸筋《きょうきん》である。筋肉って柔らかいのかと実感した。



「ユーリにその駄肉《だにく》を押し付けるんじゃないよぉ、この痴女《ちじょ》」


「ちょっと野蛮人《やばんじん》♪ ユーリの綺麗なお顔が潰れたらどう責任を取るつもりなのヨ♪」


「はあ? ユーリを窒息《ちっそく》させかけといて何言ってんのぉ?」


「ユーリのお鼻とおでこが赤いのはどうせアナタのせいでショ♪」



 頭上で飛び交う激しい火花。互いの主張を譲らぬ一触即発《いっしょくそくはつ》の雰囲気に、ユフィーリアは首を傾げるしかなかった。

 たびたびこの2人、こうやって喧嘩《けんか》をする訳である。ユフィーリアの書いた台本をくだらないと言うならば、この2人の喧嘩こそくだらないものではないだろうか。


 どうしたらこの喧嘩が収まるかと考えを巡らせていると、ハルアが「ユーリ!!」とユフィーリアのローブの袖《そで》を引っ張る。



「舞台のお掃除終わったよ!!」


「お、本当だな」



 等身大ユフィーリア人形が爆発したことによって張り付いた粘土《ねんど》の掃除が終わったようである。掃除道具を手にした教職員が慌ただしく舞台上から撤収《てっしゅう》していった。

 掃除が終わったことで入学式は間もなく再開される。今度はふざけることは許されない。ニコニコ笑う学院長から折檻《せっかん》を受ける羽目になるだろう。


 ユフィーリアは「よし」と頷《うなず》き、



「うるせえ静かにしろ」


「ぐへあッ」



 エドワードの顎《あご》に拳を叩き込んで拘束《こうそく》から脱出し、舞台袖に積まれていた木箱を椅子の代わりに座る。



「アイゼ、髪と化粧《けしょう》を頼む。軽くでいい、時間をかけるな」


「承知いたしましたワ♪」



 ユフィーリアに命じられたことで、アイゼルネは素早くユフィーリアの背後に回る。背中を流れる銀髪を魔法で手元に転送させてきた櫛《くし》を使って丁寧に梳《くしけず》り、化粧筆でパタパタとユフィーリアの頬《ほお》を軽く撫でた。最低限の身支度だけで完成である。



「ふざけないんだ?」


「前座《ぜんざ》が失敗したし、これ以上に面白いことをしても新入生から本当に失笑を買いかねないからな」


「ふーん、行ってらっしゃい」


「おう」



 グローリアと生徒会の面々に送り出され、ユフィーリアは舞台袖《ぶたいそで》から足を踏み出した。

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