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ガイコツ様とエンドロールまで  作者: 猫塚ルイ


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第2話

「……ちょ、ちょっと、待って!逃亡劇って何? そもそも貴方、さっきから私のクローゼットに住み着く前提で話を進めてない?」


公爵家の自室。


バルコニーから夜風と共に不法侵入してきた「骸骨」ことヴィクターを前に、私はこめかみを押さえていた。


つい数十分前まで、私はこの窓から命がけで飛び降り、自由を求めて国外へ逃亡しようとしていたのだ。


しかし、着地した先には漆黒の夜会服を着たガイコツが待ち構えており


そのままお姫様抱っこでこの部屋まで強制送還された。


しかも、私の困惑を余所に


目の前のガイコツは公爵家の執事ですら見惚れるような洗練された手際で


勝手に私の茶器セットを使って紅茶を淹れている。


「執事の真似事なんて、君のプロットにはなかったかな? でも安心してほしい、僕は『管理者』として、この世界の致命的なバグ───つまり君の生死を修正するために現れたんだ」


「バグって……。設定した私が言うのもなんだけど、クラリスが死ぬのはこの世界の『仕様』なのよ。バグじゃなくてメインシナリオなの」


カチャカチャ、と陶器と骨が触れ合う小気味よい音を立てて


ヴィクターが完璧な温度のティーカップを差し出してきた。


「飲まないのかい?君が一番好きなアールグレイだよ」


と、空っぽの眼窩で優しく促される。


……怖いけど、香りは最高にいい。


「ありがとう……って、貴方も飲むの?」


ヴィクターが自分の分を淹れ、優雅な仕草でカップを口元へ運ぶ。


だが、彼がそれを一口含もうとした瞬間。


「あ」


注がれた黄金色の紅茶は、遮るもののない顎の骨を虚しく通り抜け


純白のフリルタイを茶色く染め上げ、そのまま私の最高級カーペットの上へと零れ落ちた。


そりゃそうだ。喉も食道も胃袋もないのだから。


「……様にならないわね、ヴィクター」


「おや、失礼。まだこの身体の構造に慣れていなくてね。物理的な質量を持つというのは、案外不便なものだ」


彼は全く動じず、ハンカチで顎の骨を丁寧に拭くと、不意にその場に立ち上がった。


次の瞬間、窓から差し込む青白い月明かりが彼を包み込み、パキパキという奇妙な音が部屋に響く。


骨に肉がつき、柔らかな皮が張り、漆黒の髪がさらりと肩へ流れる。


光が収まった後に現れたのは


夜の闇よりも深い黒髪と、獲物を見つめる猛獣のような金色の瞳を持つ


この世のものとは思えない美男子だった。


あまりの顔面の暴力、そして溢れ出す色気という名の重圧に、私は思わず数歩後ずさった。


「人間の姿の方が、君は好みだったかな?」


ヴィクターは甘く低い声で囁き、迷いなく私の前に膝をついた。


大きな手が私の冷えた指先を熱心に絡め取り


吸い込まれそうな黄金の瞳が、射抜くように私を見つめる。


「初めまして、僕の愛しい創造主…いや、澪。僕は君が設定資料の裏に捨てた残骸であり、君を永遠にするために戻ってきた影だ」


「な、なるほど……?わけがわからない状況だけど、大体は分かったわ」


「……フフッ、愛しているよ、これまでの孤独が嘘のように。君を傷つけようとするルートなんて、僕がすべて叩き壊してあげる」


「な、ななな……何を……っ」


先ほどまでガイコツだったはずなのに、握られた手のひらからは驚くほど高い体温が伝わってくる。


初対面で、しかも相手はガイコツだというのに


この熱量。溺愛の気配が濃すぎて窒息しそうだ。


すると彼は、私の混乱などどこ吹く風で


バルコニーの先───静まり返った夜の街並みへと指を向けた。


「例えば、あそこにある『断罪の鐘』。あれが鳴り響くとき、君は最初の破滅フラグである『聖女への嫌がらせ』を強要される設定だったね?」


彼が細長い指先をパチンと鳴らした、その刹那。


ドォォォォォン!!


夜の静寂を切り裂く、凄まじい爆発音。


遠くに見える教会の時計塔が、あろうことか根元からオレンジ色の火柱を上げて物理的に粉砕された。


「……消しておいたよ。物理的に。これで、明日の予兆イベントは発生しようがない」


「いや、やりすぎ!! 解決策が物理すぎでしょ!」


管理者の権限という名の、あまりにも強硬な暴挙。


私の「悪役令嬢として静かに逃げる」というささやかな計画は


この甘すぎて物騒なガイコツの登場によって、文字通り音を立てて崩れ去ったのである。


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