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第7話:信じるな、この世界を

ミナトはシンの後ろを、物音ひとつ立てずに歩いていた。

やがて二人は、狭い路地裏の奥にある小さなアパートへと辿り着く。

そこは酷く簡素な造りだったが――奇妙なほどに清潔に保たれていた。

部屋に入るや否や、ミナトは室内を鋭く一瞥し、冷徹な声で問いかける。

「その金……どこで手に入れた?」

シンは振り返ることもなく、上着を脱ぎながら静かに答えた。

「お前と同じさ。……お前こそ、どうやって手に入れた?」

短い沈黙。

シンは部屋の奥へ進み、木製のテーブルに腰を下ろす。

視線を向けないまま、手だけで促した。

「座れよ」

ミナトはシンから目を逸らさないまま、ゆっくりと腰を下ろす。

シンは二つのカップを並べ、静かに珈琲を注いだ。

「どうぞ」

ミナトはカップを手に取るが――口には運ばない。

「……他の生徒や教師に会ったか?

俺たち以外に、生き残りはいるのか?」

シンは一口だけ啜り、無関心に答える。

「ああ、会ったよ。

一年の二人組と一緒にいた」

ミナトの瞳がわずかに細まる。

「そいつらは今、どこだ?」

シンは一瞬だけ動きを止め――

歪んだ笑みを浮かべた。

「どこ、ね……」

そして、ゆっくりとミナトを見据える。

「随分と優しい言い方だな」

身体をわずかに前へ傾ける。

「どうして……『死んだ』と言わない?」

空気が重く沈む。

ミナトの拳が、無意識に強く握られる。

「……どうやって死んだ?」

シンは短く笑った。

「能力? そんなもんじゃない。

ただの……状況を理解できない馬鹿だった」

カップを静かに置く。

「街の連中に聞き回ってたんだよ。

ここはどこだ、俺たちは何者だってな」

「……そして?」

「騎士団に捕まった」

シンの視線が鋭くなる。

「『異世界から来たのか?』って聞かれて――

あいつらは正直に答えた」

短い間。

「その場で首を刎ねられた」

静寂。

ミナトの瞳がわずかに揺れる。

「……お前は?」

「ああ、聞かれたさ」

シンは淡々と続ける。

「知らないって言った。それだけだ」

そして、何事もなかったかのように珈琲を啜る。

「――だから俺は生きてる」

沈黙。

重い空気が二人を包む。

やがてミナトが低く呟いた。

「……なぜ殺す?」

シンはゆっくりとカップを置き、深い視線を向ける。

「恐れてるからだよ」

「この世界は、異邦人を“危険”と見なす」

一拍。

「だから密告される。狩られる」

そして冷たく言い放つ。

「――“呪われし存在”としてな」

シンは一歩近づいた。

「生きたければ――正体を隠せ」

さらに低く。

「そして、誰も信じるな」

ミナトは沈黙したまま俯く。

だが次の瞬間――

「……なら、死ぬのは馬鹿だけだ」

低く、冷たい声。

ゆっくりと顔を上げる。

その瞳には、深い闇が揺れていた。

「この世界は思い知ることになる」

「……狙う相手を間違えたってな」

シンは静かに立ち上がる。

部屋の奥の扉を指差した。

「奥の部屋、使え」

窓辺へ歩き、霧に覆われた都を見下ろす。

「今夜は休め」

短い沈黙。

「明日の朝――」

振り返らずに言う。

「これから何をすべきか、教えてやる」

再び静寂が訪れる。

それはまるで――

明日、何かが始まることを知っているかのように。

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