第6話:もう一人の転移者
夜の闇の中、数時間に及ぶ歩みの果て――。
ようやく森を抜けた先に、巨大な都の輪郭が姿を現した。
ぼんやりとした月光に照らされたその姿は、まるで大地に横たわる巨大な石の怪物のようだった。
都を囲むのは、灰色にくすんだ高い城壁。
長い年月に侵食され、黒ずんだ苔が不気味に張り付いている。
すべてを見てきたかのような壁――
そして、その結末はどれも救いがない。
門に立つべき兵士たちは――
眠りこけているか、酒に溺れて笑い狂っているだけだった。
「……」
黒星ミナトは一瞥するだけで理解した。
――この世界は、腐っている。
彼は迷うことなく、都の中へ足を踏み入れた。
その瞬間――
霧が、ゆっくりと立ち込める。
冷たく、重い霧。
まるで獲物を探す亡霊のように、静かに忍び寄ってくる。
建物は高く、圧迫するように立ち並び、
細い窓の奥からは、弱々しい光が漏れていた。
石畳に響く足音だけが、静寂を切り裂く。
コツ……コツ……コツ……
「まるで……中世の街だな」
わずかに視線を巡らせ、低く呟く。
「……スラムか」
「的確な分析だ」
その瞬間――
ミナトの瞳が鋭く見開かれた。
反射的に剣を抜き放ち、背後へ振り向く。
キィィンッ!
刃は、ある少年の首元で止まっていた。
あと数ミリで命を断つ距離。
しかし少年は――微動だにしない。
黒髪に、灰色の瞳。
感情の欠片すら映さない、冷たい目。
「その剣、どけてくれないか?」
わずかに笑みを浮かべる。
「首が痛い」
ミナトは数秒、彼を見据えた。
そして静かに剣を収める。
「……誰だ」
少年は答える。
「火村シン」
一拍置き――
「高校二年」
そして、続けた。
「お前は――黒星ミナト。三年生だな」
空気が凍りつく。
ミナトの手に力が入る。
「……なぜ知っている」
シンはあっさりと言った。
「あの学校にいたからさ」
沈黙。
霧が二人の間を漂う。
「能力はあるのか?」
ミナトの問いに、シンは肩をすくめた。
「さあな」
そして――笑う。
「いずれ分かる」
一歩、近づく。
「だが――お前は使えそうだ」
短い沈黙。
「だから、簡単には死なせない」
ミナトは何も言わない。
ただ、睨む。
シンは背を向け、歩き出した。
だが――足を止める。
「ただし」
振り返らずに言う。
「足手まといになるなら――」
その声は、冷たく沈んでいた。
「その時は、俺が始末する」
霧が二人の間を遮る。
その距離は――
近いようで、決して交わらない。
まるで、この腐った世界そのものが、
二人の未来を見下ろしているかのように。
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