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第5話:追われる者

長く、重苦しい時間が過ぎ去っていった――。


黒星ミナト(くろせ・みなと)は、漆黒の闇に包まれた荒涼とした道を、ただ黙々と歩き続けていた。

街へと続く道は、底知れぬ夜の帳に飲み込まれている。


彼の姿は、もはや以前とは別人だった。

かつて身にまとっていた学生服の面影は、微塵も残っていない。


今の彼が身に着けているのは、夜の闇に溶け込むような漆黒のズボンと、冷たい風に揺れるロングコート。

背には蒼いオーラを纏う謎の剣が静かに収まり、胸元にはあの不気味な黒いペンダントが鈍く脈打っていた。


昨日までの、あの無力で弱々しかった少年の姿は、もうどこにもない。


ただ――

凍てつくように冷たい、死んだ瞳だけがそこにあった。


その手には、酒場で奪い取った重い革製の財布が握られている。


「……」


彼は一度も振り返らなかった。

まるで、自分の内側に巣食う何かから逃げるように。



(酒場――惨劇の跡地)


鼻を突く血の臭いが、今なお空気に濃く残っていた。

人間の屠殺場と化したその空間を支配するのは、圧倒的な静寂――。


ギィ……。

重い扉が、ゆっくりと開かれる。


規律正しい軍靴の音が、静まり返った酒場に響いた。


現れたのは、漆黒のロングコートを纏った屈強な兵士たち。

その背には、真紅の円の中に黒き竜がとぐろを巻く紋章――。


彼らは『黒の軍勢』。ノクシア王国直属の特殊部隊である。


「ただちに調査を開始せよ」


低く、威圧的な声が響く。


兵士たちは即座に動き出し、周囲の村人への聞き取りを開始した。


「若い男だった……」

「目が……異様に蒼かった……」

「光る剣を持っていた……」

「あれは人間じゃない……悪魔だ……!」


酒場の隅では、一人の兵士が人相書きを描いていた。


乱れた黒髪。

感情を失った蒼い瞳。

見る者を射抜くような視線。


「これで間違いないか?」


村人たちは震えながら頷いた。


「そいつだ……!」

「全部あいつがやった……!」


その時――


コツ、コツ、コツ……


静かな足音が響いた。


空気が一変する。


現れたのは、一人の女。


長い黒髪、冷たい紫の瞳。

その視線は、刃のように鋭い。


彼女の名は、シズカ。

ノクシア王国特殊部隊の総隊長。


「……何が分かった?」


兵士が敬礼し、報告する。


「犯人は十七歳前後の若者と思われます」


人相書きが差し出される。


シズカはそれを受け取り、じっと見つめた。


「生存者は?」


「給仕の少女が一人……しかし、強いショックで話せません」


沈黙。


そして――


「……放置はできないわね」


彼女は静かに言い放った。


「この顔を全土に手配しなさい」


一瞬の間。


そして冷酷に告げる。


「――生死問わず、拘束」


「はっ!」


「さらに賞金をかけなさい」



(酒場の外)


シズカは外へと出た。


夜風が彼女の髪を揺らす。


その紫の瞳は、遠くへと続く道を見据えていた。


「……向かう先は決まっているわね」


三日月を見上げる。


「逃がさないわよ――」

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