源道秀3
アクセサリーと装飾雑貨の店舗に立ち寄った際、寮の食堂でひと悶着あったり、何かと遭遇する大姥先輩と出くわしてした。
しかも、競馬学校での生活と変わらないやり取りの末、いつも通りエンカウントした二人は揉めだしてしまう。
「ここは先輩のワタシに譲りなさいよ」
「嫌です! 私だって欲しいんですから譲りたくありません!」
未帆と先輩が顔を突き合わせて言い合っていた。
「先輩なら逆に譲ってくれませんか?」
「嫌、譲れないわ。他も回ってコレしか無いと思ったんだもの。先に目をつけてたんだから、大人しく引きなさいよ」
「そんなの理由になってません! 私の方が早く手を伸ばしてたんで! 早い者勝ち、です!」
「早くってねぇ、ほぼ同時だったじゃない。指だってぶつかったし!」
付き添っていた風越みるめからは、大姥先輩の主張通り同時に見えた。
「でも、先輩は横から手を伸ばして来たじゃないですか。私なんて目の前にあった物を真っ直ぐ取ろうとしてたんですから、どっちの手が優先度高いか分かりますよね?」
そう言って真っ直ぐ手を伸ばし、取り合っている蔓と葉と実を象ったパーツが付いたデザインのアクセサリーに手をかざす。
すると大姥先輩が払うように未帆の手を外し、反論を口にする。
「それはあなたがずっと退かないから仕方なく! 手の届く範囲ならセーフでしょ!」
「横入りはダメって知らないんですか? 先輩」
「それとコレは違うでしょ! ああ言えばこう言う、後輩のくせに生意気」
「ああ言えばこう言うのは、先輩の方じゃないですか。私は相手が先輩だからって、部活のレギュラー譲ったりしないです! ちゃんと連携プレー出来て実力で選ばれたレギュラーなんだから、いくら先輩でも先輩というだけで、先輩に譲る理由にはならないんですからね!」
「ちょっと! 何の話してるの!?」
「バスケ部の話です! つまり自分が後輩だからって、先輩に忖度するつもりはないってことです! 欲しい物を前にして諦める気はありません!」
譲らない同士睨み合う中、お互いの同伴者はなだめにかかる。
「未帆。もっと似合うの私が見つけてあげるから、先輩に譲って諦めよう」
「こんなところまで後輩に譲らないとか、先輩として器小さいでしょ。かわいい後輩にプレゼントすると思ってさ」
風越みるめに続いて、食堂の一件でも止めに入った女子先輩も相方の大姥先輩を説得していた。しかし。
「「嫌!」」
ハッキリとした拒否が、対立する二人から同時に発せられた。
「直感でピッキーッンときた物は欲しいの! 絶対私に似合うんだから!」
「でも、未帆は即決じゃなかったでしょ? なら、そこまで必要じゃないんじゃないの?」
こんなところで騒いではお店に迷惑だとも伝えるが、即決しなかった言い訳が返された。
「そんなこと、無い! ちょっとお財布と相談してたからだもん!」
だいぶ見つめて悩んでいたように見えたけれど、それは価格面での黙考だったらしい。
「ほら、後輩ちゃんが子供みたいに駄々こね出しちゃったじゃないか」
「知らないわよ。あなたは欲しい物が目の前にあって、すぐに諦められるの? 例えばーー」
そう制止に対して好きな物に例える言葉が続き、その大姥先輩の聞き返した論に相方が折れてしまう。
「それに関しては話は別。諦められないな。それに諦めるという文字は辞書に無いし、目の前にあるのに手に入らないなら、いっそ誰の物にもならないよう燃やす」
先輩たちから何だか不穏な単語が飛び出したが、風越みるめは未帆に耳打ちのため口を寄せて言葉を紡いだ。
「先輩にはアレしか似合わないから、譲ってあげるくらいに思ってさ。貸し一つ、恩を売ると思って」
今は頭に血が上っているのがいけないので、クールダウンさせようとするも、返ってきた返事に通じていないことを知る。
「お菓子一つで取引なんて諦められる訳ないじゃん! なめすぎだよ。そもそも何なのあの先輩! いちいち私につっかって来てイライラする!」
未帆は『貸し』と『菓子』を読み取れないくらい頭にきているようだった。
「落ち着こう。今はちょっと熱くなってらしくないよ。先輩とは気に障るほど別にそこまで接点はーー」
単に同じ商品を取り合って冷静じゃないから、普段の人懐っこい彼女ではないと鎮めようとした。
しかし、接点はないと口にするも改めて振り返ると思い至るエピソードが幾つか頭に浮かび、言葉を切らざるえなかった。
前に先輩の方も、いちいち未帆がつっかかって来ているみたいなことを言っていたので、お互いに相手を同じように思っているようだった。
それに競馬学校は女子が少ない上に、多い男子の数ですら一学年一桁なので、狭い世界でもめ事を起こすのは百害あって一利無し。
仲良くしろとは言わないが、出来るだけ摩擦は少ない方が良いに決まっている。
「辛抱しなよ。9月になったら厩舎実習で居なくなるんだからさ。先輩とケンカせず、問題起こさない方が良いって」
母親が小さい子にするように、手を握られた未帆は上目づかいで相手を見つめる。
「みるめ……人は理屈とか損得とか賢いとか賢くないとか、合理的だとか、そういうことだけで何でも決められるわけじゃないの! 時には危なくても闘うの!」
一瞬、説得に成功したかと思ったけれど失敗する。
キリッとした表情で言い返された。
「……それは今じゃないと思うな。私。もっと未帆に似合うの選んであげるから」
「嫌! 似合わなくても欲しい!」
「似合わないなんて言ってないんだけど……」
「自分に似合わないって思っても、デザインが良かったら欲しいじゃん! みるめだって似合わないけど、欲しいデザインのトップスとかワンピだったりあるでしょ!」
風越みるめはどんなに欲しい物でも、一旦考えて時間を置いてから決める。
しかも使わない物は必要ない物、そういうマインドなので全然共感出来なかった。
一応理屈的には理解は出来るため、粘る彼女の説得をやんわりと継続する。
面と向かって正論をぶつけても、反論かへそを曲げる反応しか返ってこない。
すると大姥先輩の方から、提案が持ちかけられた。
「このままワタシが買ったら、また何されるか分からないわね。仕方ない、ここは後腐れないように、勝負をして負けたら相手にコレを譲るってのでどう?」
「納得は出来ないですけど、いつまでも言い合っていても仕方ないので、その勝負買います! 受けてたちます!」
お互いに闘志を燃やす中、大姥先輩の付き添いをしていた女子先輩が、やれやれと首を振って呆れを零す。
「勝手に店の物を景品にするなよ」
そしてショップを一度離れ、対決の場に移動した。
日曜のため子供と付き添いの大人の組み合わせが多く、筐体から流れるやかましい音が混ざり合うゲームコーナー。
入り口手前のクレーンゲームの間を抜け、どんどん奥へ進む大姥先輩の背に続く。
途中、歩を緩めて見やった太鼓のゲームは、休日ということもあって大人から小学生まで順番待ちが出来ていた。
「……」
本来はこれの対決を考えていたのか、横顔から諦めたような空気が伝わり、切り換えるように歩調が戻った。
そして何度か小学生グループの集まるカートゲームや孫とおじいちゃんが座るメダルゲームを横目に、もにょもにょ何事か零しながら、大姥先輩は六台横並びのゲーム機の前で足を止めて振り返る。
「ねぇ、確認だけどこのゲームやった経験あるかしら?」
「当然無い! でも何となく知ってる。ロボットアニメでしょ? 名前くらいしか知らない。ゲームセンターなんて、クレーンゲームかプリくらいにしか来ないし」
先輩の質問に未帆は胸を張って答える。
風越みるめも名前くらいは知ってる有名ロボットアニメのタイトルが、筐体のモニターに映し出されており、ロボット同士がビームやミサイルで攻撃し合っている映像が流れ出す。
「ちょうど良かったわ。ワタシもお兄ちーー兄がいたからアニメは知ってるけど、触ったことは無いわ。このゲームならお互いにやったこと無い同士フェアでしょ? もちろん、友達にアドバイスしてもらって協力してもらうのは有り。それでどう?」
こうして勝負を受けた未帆と風越みるめは、ゲームのプレイ手順を一度目を通し、スマホ片手に一台の前に並んで座る。
並ぶ筐体に先輩たちとは離れて座り、ゲームから流れる曲や周囲の雑音によって、お互いの会話は聞き取れるまではいかない。
何か話していると分かる程度。
ちらりと先輩たちを見やると、勝負を持ちかけた大姥先輩は椅子に座り、アドバイス役の先輩は脇に立って横から覗き込む形で控えていた。
「未帆、やれそう?」
「みるめ、サポートお願い」
「未帆も頑張って」
軽く問いかけたら、他力本願なお願いがされたので、自分も頑張ってと返した。
ゲームの勝利条件は相手の陣地奥の拠点を落とすか、タイムアップ時点の残り戦力ゲージの多い方が勝利らしい。
戦力ゲージは拠点や戦艦にダメージを与えることによって減少。
攻撃手段は五機のロボットと、自陣から出発して敵拠点を目指して進む一台の戦艦だった。
プレイヤーはその指揮官という設定で、ロボットの発進タイミングや動きの指示を出すものらしい。
あくまで指揮なので、格闘ゲームより将棋に近い物がある。
拠点は正面からの攻撃に弱く、側面からの攻撃に強い。常に弾幕を張っているという。
戦艦は敵拠点へ向けて移動し、範囲内の敵に向けて攻撃。自陣を直進後、敵陣には真っ直ぐか左右のコースを選択しなければいけない。
戦艦は正面より側面からの攻撃に弱いらしい。
それと戦艦はゲーム中一度だけ、正面への集中火力砲撃か広範囲への散弾射撃が行え、ダメージ値は戦艦に近いほど威力が高くなるみたいだ。
敵を攻めるロボットは五機。
ロボットにはそれぞれジャンケンのような優劣が設定され、各固有スキルもポイント消費で使える。
シリーズ化されている作品なので、ロボットの種類は100近い数があり、それぞれ特性と強いほどコストが高くなって、出撃させるタイミングが難しくなる。
敵が居なければ拠点を目指す先鋒、敵を相手にする中堅、防衛などあった。
防衛は基本拠点を守る役目だけれど、コストポイント消費で対象を戦艦に変えることも可能なため、敵拠点を目指す戦艦の防衛は実質攻撃に転用出来るらしい。
お金を入れるとゲームがスタートし、未帆の指がタッチパネルに触れる。
店内バトルのアイコンをタッチ、色々と選択して勝負が開始された。
「コストポイントは時間で回復するから、とりあえず最初の持ち手ポイントで強いのと体力が多いので出撃!」
発進演出が流れ、フィールドにロボットが表示された。
出撃場所は自陣なら自由に出せるが、一機だけとか援護射撃のある戦艦から離れても良いのか、調べた考察に目を通しただけの初見プレイでは謎が残る。
戦艦を無視して拠点を攻撃する指示をロボットに出せるが、そうすると戦艦からのダメージを受けた状態での攻略は当然拠点からの攻撃もあり、粘っても返り討ちにあってしまうのは目に見えていた。
ロボットへは大まかな命令しか出せないため、指示出し後は基本画面を見ているしかない。
その戦況を判断して増援を出すか、それとも切り捨てて別働隊を発進させるか、数分間の勝負の間判断しながらのプレイが迫られる。
未帆はロボットが五機中二機が倒され、再出撃までのカウントダウンが表示された。
続けて戦艦が自陣から敵陣に入る手前で進行方向選択に与えられる5秒の猶予が表示された。
そのまま直進か、左右どちらか決断を迫られる。
「みるめどうしよう! 拠点正面からの攻撃が弱いから、やっぱ直進かな?」
未帆が助けを求めて、勢いよく横の風越みるめを振り向く。
状況は風越みるめにもよく分からないが、画面上部に表示されたお互いの戦力ゲージは先輩たちの方が数パーセント少なかった。
戦艦の進行方向がかぶり鉢合わせると、どちらか一方が相手を撃沈させない限り、戦艦が敵陣に入ることが出来ない。
「うん、直進で良いと思う。根拠はないけど」
それで大丈夫なのか未帆は叫ぶが、二人とも初見なので根拠なんてあるはずかない。
「じゃあ、直進! て……あぁっ!?」
同じ直進を選んだらしい大姥先輩の戦艦とぶつかって焦り、敵拠点に近くなったら撃とうと決めていた一度だけの戦艦技、集中砲火を未帆は放ってしまう。
大袈裟なエフェクトが画面を埋め、相手に大きなダメージを与えることは出来たが倒せず、今度は先輩の戦艦から広域掃射の攻撃を受けた。
すると戦艦だけでなく周囲の敵ロボットからの攻撃にダメージを受け、更に拠点の防衛を呼び出され、戦艦同士の攻防に加えて敵ロボット二機による攻撃に押し負けてしまう。
「ああぁっ!?」
自分たちの戦艦が撃沈、未帆が悲鳴を上げる。
戦艦はロボットよりも進む足が遅いが、残りの秒数的に先輩ペアが到達してしまうのは確実。
「とりあえず、修理終わったロボット出そう」
二機出撃可能になった防衛をまず一機。
先輩の戦艦が自陣に侵入したので、敵陣ギリギリの自陣かつ攻撃を受けない戦艦の後ろに先鋒タイプの一機を発進させた。
敵陣内には戦艦の攻撃を受けて尚、ロボット自身の耐久ゲージが少ない一機と一緒に拠点に向かわせる。
しかし、先輩は防衛を戻して対応してきた。
しかもダメージが大きかったロボットが倒され、新しく出撃させた一機も防衛と拠点からの攻撃に耐えられず爆散した。
「あぁあ……」
残してきた自分の防衛が先輩の中堅と戦艦にやられ、未帆は呆然と画面を見つめ続ける。
修理が終わりロボットを再出撃させても、先に出ていたのが破壊されたり、戦力が足らずに気づくと戦力ゲージも逆転され、結局押し返せないまま終えてしまった。
画面には負け演出の後、LOSTの文字が浮かぶ。
「ズルいです! 先輩のブレイン先輩優秀過ぎ! そのおかげで勝ったようなものじゃないですか! よってノーカンだと思います!」
何を話しているのか聞き取れなかったが、ずっと絶えずアドバイスの声がしていた。
ゲームを終えて向かい合う大姥先輩は、一人勝ちどきを上げる。
「勝負は勝負。あなたの負け、ワタシの勝ち!」
「人の力で勝った勝利を誇って恥ずかしくないんですか! プレイしてたのはブレイン先輩でしょ! 今の勝負は無しです!」
「頼りきりだったわけじゃないわ! あなたと同じくらいよ。それに誇ってるんじゃなくて、事実を言ったまでじゃない」
負けを認めないよりは、勝負自体に不満を現す未帆を前に、大姥先輩は仕方ないと新たな提案を出してきた。
「なら、ワタシたちの分野で勝負をつければ文句ないでしょ。今度こそ、文句の言い合いっこないよ」
一度勝利している余裕から、大姥先輩は冷静に口にした後、返事を聞く前に歩き出した。
向かう先は筐体とモニターが大型化し、足元のパネルが光ったり太鼓やポップスの曲が流れる一角を突っ切り、端にポツンと設置されたゲーム機の前で振り返る。
「コレで勝負よ。これなら負けても文句は言えないでしょ? 勝った方が正義よ」
示されたそれはずいぶんレトロな風合いの見た目で、映像が流れる厚みのあるモニター前に、馬を摸した座席の付いたゲーム機だった。
「ジョッキー気分で手綱を引いて揺らすことで速さを調節、身体を傾けたり体重移動で左右に操作するゲームよ。押すと3秒だけ早くなるムチのボタンもちゃんとあるわ」
先輩が勝負に選んだゲーム筐体は、馬を摸した座席に跨がり、競馬のレースをするという物。
ようはバイクレースゲームの競馬バージョンだった。
しかも、モニターのサイズとガラスの厚み、映るグラフィックから滲むレトロ感からも思いはかれるように古いゲームだ。
それにずいぶん昔の物なので、知らない人のためにプレイ方法が脇に張り出されているほど。
新しくリニューアルしないあたり、余り人気が無いとみられる。
そのため若い世代が知らないから、遊んでもらえるように店側が用意した物のよう。
「こんなゲームあるなら、先にこっちで勝負して欲しかったな。私たちなら絶対コレじゃん!」
未帆は持ちかけられた勝負にオッケーと返事を返す。
「あなた達まだモンキー乗り始めたばっかでしょ? 一年の差は大きいから気をつかったの」
「あー先輩、気をつかわなくて大丈夫だったのに。私同期の中でも早く乗れたし、先生から上手いって褒められたこともあるんですよ。何の問題もありません。さぁ、サクッとやっちゃいましょ!」
軽く自慢げに喋る未帆は、不適にも先輩に微笑む。
けれど以前、風越みるめが先輩の馬に乗る姿を見学させてもらった時、大姥先輩は正確でキレイなフォームを目にしている。
プロと比べたら未熟なのだろうけど、騎手を目指し始めた目から見ると美しく、一年の技量差を実感させられていた。
「先生に褒められたくらいで天狗になるなんてまだまだね。その鼻を先輩としてへし折ってあげる」
感謝しなさいと、大姥先輩も負けずに胸を張って余裕の表情を浮かべる。
二人ともやる気の中、風越みるめは止めに入る。
「あの、二人ともスカートだから止めませんか?」
その発言に二人の視線が同時に集まった。
「乗るときに気を付ければ、一度跨がっちゃえば大丈夫でしょ」
「問題ないわ。中に穿いてるから」
スカートを持って左右に振る未帆と、言って腰に手を当てる大姥先輩。
ようやく二人は二台しかない馬に向かう。
大姥先輩は膝上丈のスカートを気にせず、勝負を挑む未帆はスカートを持ち上げつつ束ねて、それぞれ馬の背を跨ぐ。
「まだやるの? そこまでする必要あるか? 後輩に譲ってやれよ。時間がもったいないだろ。遊び行こうって」
呆れ声でそうぼやくブレイン先輩だったが、その提案が信じられないといった瞳に見つめ返される。
「はぁ? 何言ってるの。ワタシは本気で欲しいし、上ってことを今ハッキリさせられば、さすがにもう絡んでこないでしょ? この勝負は言わば一石二鳥。逆にチャンスなのよ」
格の違いを見せて、二度と絡まれないようにする。
キリッとした眉に爛々と闘志を燃やす瞳に見返され、ブレイン先輩はとうとう諦めの息を吐く。
「私、要らないよな?」
「そうね。どうせワタシが勝つんだし、終わったら連絡するわ」
「よろしく」
一片の疑いも無い声色の返事を受けて、ブレイン先輩は手をひらひらさせながら、対決の場から去る。
未帆が風越みるめを見つめたら、大丈夫と大きく頷き返して対決の場に残った。
再びゲームに意識を戻すと、セレクト画面が表示される。
選択する競争馬には毛色以外に脚質があった。
逃げ、先行、差し、追い込みの四種類。
手綱はバーの形で、真ん中にはボタンの付いたコントローラーが埋め込まれている。
未帆は迷わず先行を選び、何とも彼女の性格らしい選択だった。
「芝の1200で良い? それとも中間の距離にしようか?」
隣から距離選択を聞いてくる大姥先輩。
コースの種類は芝とダート、障害なんてのもあって、距離も三種用意されている。
「先輩はどっちなんですか? 得意なの。短距離と長距離」
コースは芝で問題ないため、確認してきた相手に質問で返した。
ちなみに中距離は1600、長距離は2400メートル。
「秘密。だからあなたに選ばせてあげるんでしょ」
「ズルくないですか? 先輩としてハンデで苦手なコースにしましょうよ」
「ダメ。負けたら苦手なコースを嘘ついたって絶対疑うじゃない。時間無いんだから、間をとって中間でいいわね?」
「えっ!? 待って! 短距離で!」
慌てる未帆。
希望通りの1200メートになり、二人手綱を握って馬の脇から飛び出た足置きに足をかけ、腰を持ち上げて前傾姿勢でモニターを睨む。
風越みるめは二人の背後に移動し、ちょっとでも隠せるように立つ。
大姥先輩は下に履いてるとは言え見えないか心配だし、天井の照明から透けないけれど、素材が柔らかそうなのでお尻の形が出ないか不安だった。
ロード中にアドバイスとして、コースの内側を走るとか接触を避けるとか、リアルでも変わらないことを言われた。
「始まる? 始まる!」
筐体のスピーカーから、入学一ヶ月後くらいに見学で訪れた競馬場で、レース開始時耳にしたファンファーレが流れた。
短距離なのでスタート位置は向こう正面。
明らかに作り物なゲートの開門音と共に、各馬がスタートを切る。
距離も距離なのでプレイ時間はあっという間のはずなのに、体感長く思える勝負になった。
「先手必勝!」
スタート直後から二人とも思いっきり馬を前後に動かして加速。
その勢いからガッチャンガッチャン跨がる馬から大きな音が出て、ゲーム機が壊れやしないか見守る風越みるめの頭を掠める。
しかし、そんなのは稀有で激しく扱っても問題無さそうだった。
古い物の方が壊れにくいと言われることもあるくらいなので、そこは古くても子供も扱うゲーム機だからか、耐久性は十分な作りらしい。
腰を浮かせてお尻を突き出し、壊れそうなほど真剣に馬を揺すっても今のところ問題なかった。
けれど激しく馬を動かしても速く走らせれば良いというのでもないらしく、速く走らせた分疲れてしまう仕様らしく、押さえて走らせたり全力を出すタイミングを見極めなければいけない仕様だった。
しかもランダムで雨に天候の変化もあるそうだ。
「なぁ!? 今のは接触してないでしょ! それより進路妨害じゃない?!」
未帆はゲーム音に負けないくらいに喧しくしながらも、画面内の馬の位置は悪くなかった。
ちゃんと内側を走っているし、三番手くらいの位置についている。
そして未帆がムチボタンを押す。
「よしっ! このまま行って一着優だーー」
加速して一気に先頭に立って勝利を確信した直後、同様にムチボタンで加速した大姥先輩が並ぶ。
先頭に出て加速時間を終えた後、脚質を差しにした先輩の馬が、最後に未帆よりも伸びてゴールを果たす。
「これで決着ね! 文句は言わせないし、受け付けないわ!」
「うわぁ~! 悔しい!」
馬から降りて悔しがる未帆と、満足顔で勝ち誇る大姥先輩。
「どうせ姿勢を維持できるか不安だったから短距離にしたんでしょうけど、残念だったわね。買う権利はワタシの物よ」
「こうなったら、先輩がお金が足りませんようにーー!」
今度こそは文句や屁理屈を未帆は口にしなかったが、代わりに手を擦り合わせて呪詛を吐く。
「生憎とその心配には及ばな……最悪借りれば良いし」
ゲーム勝負をして足らなくなりそうなのか、一瞬先輩の眉が反応したが、すぐにブレイン先輩に貸してもらうと余裕を見せた。
そして。
「無いわ……」
再びショップに戻ると、二人が買う権利を賭けて勝負したアクセサリーが、棚から姿を消していた。
他の人が別の場所に戻した可能性を考慮し、さっと近くに目を走らすけれど無い物は無かった。
あのデザインなら目に付かない訳がない。
「……」
無言になる大姥先輩。
来た道を戻り、未帆の呪いかと思っていると、その彼女が愚痴を零す。
「ゲームで決めるなんてするから売れて無くなっちやったんですよ。ジャンケンとか手っ取り早いのにすれば良かったのに。あぁ、先輩をお祝いしようと思ってたのに、無駄だったぁ!」
商品が売れて残念な気持ちは同じだが、未帆のショップを出ながら発した文句混じりの言い方に、大姥先輩が振り向き睨んできた。
「何ですって! ワタシだって時間の無駄だったと思うわよ。けど、あなたが譲っていれば、こんなことにはならなかったのよ! 別に祝う気なんてないクセに!」
「私のせいですか? それだったら後輩に優しい先輩なら、私だって『日頃お世話になってるから』って譲ってました! 買えなかった原因は、100パーセント先輩の日頃の行いに決まってます。自業自得です! 後輩に八つ当たりしないでくださいぃ~」
「何ですって!? そもそもあなただってただのかわいい後輩だったら、ワタシだって譲ってたに決まってるでしょ! 何でわざわざワタシにちょっかいかけてくるわけ!」
どちらが悪いか引かない口論が飛び交う場に、連絡を受けて飲み物を片手にブレイン先輩が戻って来た。
「お疲れ~」
しかし、二人が反応することはなくて。
「ホントですかぁ~? どうせ従順そうだからって圧欠けて、譲らすんじゃないですか? ありそ~」
「こっのぉっ! 生意気!」
相手の舐めた態度に襲いかかろうとする大姥先輩。
「ストップ」
その前にブレイン先輩が割って入り、大姥先輩を包むように押さえる。
「これ以上は絶対お互いケンカになるでしょ。だから、じゃれ合うのはここら辺でお終い」
「じゃっ?! じゃれ合っているように見えるなら、ここの眼下に行くわよ!」
「どうどう、落ち着いて」
とんとん大姥先輩をなだめるブレイン先輩の目配せを受けた風越みるめも、一つ頷いて未帆の腕を取り先輩から距離を空けさせる。
お互いの同行者を引き離す。
風越みるめはブレイン先輩と一つ頷き合って、通路の左右に別れて歩き出して解散。
「買えなかったのは残念だけど、もっと似合うのを見つけてあげるって言ったでしょ。早く機嫌直して。何なら何か食べる?」
ぽつぽつと歩きながら、風越みるめが話しかける。
そして傷心の未帆を射止めたのは、彼女に似合うアクセサリーなどではなかった。
「サボテンが良い! かわいくない?」
意外にも手のひらに乗る小さな鉢のサボテンだった。
「特にこの子! かわいい~。緑の濃さとか、ぷっくり丸い感じがサボテンって感じのサボテンで、トゲがチクチクしてるのもなめんなよって、意地張ってるみたいでかわいくない!?」
「んっ、んん~」
急激にテンションを上げる姿に内心戸惑うも、入学からこっち同室なので切り換えの早さは知っていたし、彼女さえ元気なら良いかという結論になる。
「前に欲しいって言ったら、お母さんに絶対に枯らすからダメって。買ってもらえなかったんだよね。これなら相部屋に置いても邪魔にならないし、窓枠に置けるから大丈夫だよね?」
さっきまでの出来事などなかったかのような元気の良さ。
買ってお店を出るとさっそく。
「プリ撮ろ! 良いよね? 普段スマホで撮れない分、思い出に残るようにに決まってるじゃん!」
風越みるめに逆らう気は無いけれど、ぐいぐい腕を引く未帆に驚かされる。
「ち、力強」
こうしてゲームセンターに戻り、サボテンを持ったまま、盛りに盛ったプリクラが完成した。
しかも衣装が借りられたので、未帆に本場の巫女さんが見たいと、服の上からも着られるオーバーサイズの巫女服を風越みるめは着せられてしまう。
仮装用のペラペラのコスプレ服を。
「ふふん、楽しい! いつかエレベーターのプリも行ってみたいなぁ。やってみたいことがあるんだよね」
「やってみたいこと? プリクラを撮るだけじゃないの?」
エレベーター内を模したプリクラは、動画で回ってきたり、テレビなどで見たことがあった。
エレベーターを模したプリ機のカメラが、監視カメラの位置にあり、斜め上からの撮影が出来るものだった。
「ノンノン。エレベーターと言ったら心霊現象でしょ! みるめの長い髪を使って、顔を隠して、心霊写真風のプリを撮りたいんだ!」
未帆は身体の前で手を垂らし、楽しそうに説明した。
「やっても良いけど、それ面白いの?」
「だってだって、私まだ心霊現象にあったことないし、金縛りにだってなったことないんだよ?」
これだけ明るい未帆からは、幽霊や妖怪は結びつかず、縁がなさそうにしか思えない。
普通は幽霊や心霊現象になんて遭いたくないものじゃないだろうか? そう風越みるめは返す。
「もしかして、みるめはあるの? てか、視えたり祓ったり出来るとか? 巫女さんでしょ!」
なぜか期待した眼差しを向けられ、風越みるめは困り顔で首を横へ振る。
「視えたりは無いかな。お化けを祓ったりするのはお寺のお坊さんの方。神社は神様を祀るところだから、悪いものを寄せ付けなかったり、災い除けとか幸福を呼ぶお守りを授けるところだよ」
「陰陽師は違うの?」
「陰陽師は陰陽師かな? 幽霊や妖怪専門の退治屋さん。余り詳しくないけど」
「ゴーストバスター的な?」
この後も他の話題で雑談が盛り上がり、大姥先輩との一件はあったけれど、楽しい外出にすることが出来た。
茶道の先生は話の他に、サボテンと撮影したプリクラも見せてもらったとのことだった。
「青春してるな」




