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VAGRANT  作者: じょう
第三章 黒水晶
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第三章1 『ガージ大森林』



 そこは鳥の囀りが聞こえ、滝の瀑声も遠くから聞こえてくる。陽光に照らされた葉が風に靡き、緑溢れる広大な景観から穏やかな心象を抱かせる。かと思えば、獣の唸声もどこからか聞こえて来る危うさもあった。数多もの生物がそこで共存していた。太古の昔、人類が現代ほど栄えていなければ、同じ空間を共にしていたと考えると、生とは何なのかを一考させられる場所にニック達は来ていた。


「こんなに空気が澄んでると気持ちいいな。なぁ坊主!!」


「間違いないっすね!レオルさん」


 大自然を前にニックとレオルは感激の言葉を交わす。


「しっかし、嬢ちゃんの魔法は桁違い過ぎて感服の致すところだぜ」


「でしょでしょー!!ホント、海とかに落ちなくて良かったって毎回思ってるよぉー!」


 陽気にとんでもないことを言うゴホード王国の銀髪の美少女リーナ。ニックの赤みの強い瞳とレオルの緑色の瞳が交差し、面を食らった顔をお互いに確認する。同行している冷静沈着なヴェルナドットの眉が微かに動いたのを、ニックは見逃さなかった。


「ピクニックしに来た訳じゃねぇんだぞ!キモロン毛野郎もそう遠くないところにいる」


 つばの広い麦わら帽子を被り、日焼け対策をしっかりとしている口先と容姿が噛み合わない金髪の美少女プリメラが横槍を入れる。


「プリちゃん怒っちゃ嫌!でも、そうね警戒しなきゃ。何日も経ってるから移動してるかもしれない。急ぎましょ」


「プリメラ、呪いの魔力を感じる正確な方角は分かるか?」


 ヴェルナドットは周りを警戒しながらプリメラに訪ねる。


「向こうの方だ」


 プリメラがその方向に人差し指を向ける。


アネさん後ろっ!!」


「わーってるよ!!」


 振り向き様にプリメラは、人差し指を手刀に変え振り上げる。巨大な大口を開けた大蛇の下顎から頭蓋までを一気に切り裂く。


「チッ、さっさと行くぞ」


 返り血で真っ赤に染まった麦わら帽子に不快感を覚えながらプリメラ一行は先を急ぐ。


「――――アネさん、もう近いのか??だいぶ歩いてるが」


 ガージ大森林に転移してきてから、一時間経っていた。

 

「向こうも移動してんな、一気に距離を詰めるか?」


「拉致があかんな、そうしよう。レオル、ニック、リーナ。私とプリメラで先に行く、三人はこの方向を後についてこい」


 ヴェルナドットも痺れを切らし、プリメラと二人での急接近を試みることにした。


「リーナの魔法でそいつをこっちに転移できないんですかね?ゴホード王国でレオルさんとプリメラ先輩にやったときみたいに」


 ニックがゴホード王国での出来事を思い出し、案を投げかける。


「それがね、盗賊さん。その案も、盗賊さんが気絶してる間にお屋敷の中で話しがでたんだけど、私の魔法の印が感知できなくなってたの。だから今回もだいたいの場所にしか転移できなかったの」


「そうだったのか、てか盗賊じゃねぇってば!!たしか直近で長くいた場所に飛ばすんだよな?こんな所で一体何してたんだ」

 

「ガージ大森林はオーブ共和国の領地だ。ここは基本、霊器に関与しない代わりに戦争に巻き込むなってスタンスの国だ。それが隠れて霊器集めってなったら色々ややこしくなるぞ」


 ニックの問いにレオルがタバコに火をつけて答える。


「その黒装束の男が何を企んでいるか知らんが関係ない。プリメラ行くぞ!」


「あいよっ!!」


 ヴェルナドットとプリメラは風の速さで目の前から消えてしまった。


「しっかしアネさん、あの姿でもあんな速えのかよ。ホラ、俺らもついてくぞ」


 少女姿のプリメラの相変わらずの凄さに感嘆の声を漏らし二人の後を追う。


 ――――ニック、レオル、リーナがヴェルナドットとプリメラの後を追って歩いているときだった。


「後ろから何かくるぞ!構えろ!速えぞ!」


「はい!」


「はぁーい!」


 ニックとレオルは銃を構え、リーナはいつでも魔法を出せるよう構えた。一拍の間に正体が現れる。


「マスターにアネさん!!!」


 近づいてきた者の正体は、先に行ったはずのヴェルナドットとプリメラだった。


「どういうことすかこれ!!」


 先に行ったはずの二人が後ろから現れる怪奇現象にニックは驚きを隠せないでいた。


「同じ所を歩かされてるな、舐めたマネしやがってキモロン毛が!!!」


「何かカラクリがあるな、一帯を詮索するぞ」


 驚きもほどほどにヴェルナドットは次の指示を出す。


「あっ!こんな所に変な文字が書かれた紙があるよ!!ここにも!!」


「最初にプリメラ先輩が殺した蛇の死体もありますね。札も色んなところに貼ってあります」


「その札みてぇなやつは迂闊に触んなよ、魔力が込められてる。てか、どんだけあんだよ。全部引っぺがしてたら日が暮れちまうぞ」


 各々が黒装束の男が貼ったであろう札を確認する。


「さて、どうするか。ここら一体を更地にでもすればこの奇妙な結界も消えるだろうが。時間が惜しいな、リーナ!プリメラが示した奴の方向に一気に転移させてくれ。いつでも戦闘が始まっていいように構えとけ」


「はいはーい!了解です!みんな行っくよー!!」


 ヴェルナドットの指示のもとリーナが転移魔法を使い全員の視界が暗転する。


 ――――チャリン、チャリン。


「こうなるとは思ってましたけど、遅かったですね。待っていましたよ」


 大森林を少し抜けた先の広い草原で黒装束の男が一人で佇んでいた。


「キモロン毛野郎!!てめぇ!!元の姿に戻せ!!」


「これはご挨拶ですね。こちらは、自己防衛でそうしたまでですよ。あなたも私の心臓にかけた呪い解いて下さいよ。これのせいで寝不足です」


「先にそっちが戻せ!話はそれからだ」


「それはできませんね」


「んだとコラァ!!じゃあ今死ぬか??」


「落ち着けプリメラっ!!!」


 会って早々にプリメラと黒装束の男の舌戦にヴェルナドットが待ったをかける。


「私はベムド王国のヴェルナドット・ドラコ・ヴェガットだ。貴様の名はなんだ?」


「あなたがかの有名なヴェルナドットさんですか。お噂は幾つか聞き入っています。まさかこんなところでお会いできるとは、これは私も名乗らなければ失礼と言うものですね。私はセイ・メイと申します」


 錫杖を鳴らし男が名を名乗る。


「この国は霊器に関与しないと聞いているが、貴様ゴホード王国で何をしていた」


「それに答える義理はありませんね。それに霊器に関与していない国に、あなたの様な方が無断で入って来ていることもかなりの問題だと思いますが」


「それもそうだな。どうだ、折衷案で貴様はこの少女を元の姿に戻し、貴様は心臓の呪いを解き、私達は国に帰る。これでこの話は終わりだ、こんな面倒な国に私も長居はしたくないのでな」


 ヴェルナドットは葉巻に火をつけ条件を提示する。


「それもできませんね」


「ほう、訳と貴様の条件を教えてくれ」


「私の命が保証されるとは限らないって所が大きいですかね。戻した後に殺される可能性が拭えません。それに彼女の力を封印した水晶は今手元にありません」


「どおいうことだテメェ!!」


 プリメラは話の終着点が見えず怒声を放つ。


「まぁまぁ落ち着いて下さい。私だって命が惜しいんですよ。こういうのはどうです?水晶の在り方を教えて取ってきて貰って、私にまた会いに来てください。水晶だけでは元には戻れません。その時は、そこの少年と少女だけで来て下さい」


「貴様、舐めているのか?それを信じろと言うのか」


「死なない確証が欲しいだけですよ。元に戻ったその少女と少年二人なら相打ちまでとは行かずとも戦闘を諦めてもらうところまでは持ち込めると思うので。信用できないのなら、条件付きの新しい呪いを追加してもいいですよ」


「やはり舐めているな。もし約束を反故にした時は貴様の命だけでなく、この国が無くなると思え」


「私はこの国の物ではありません。私はイズル国という小さな国で待ってます。そして水晶は、リヒフェルスト王国のアル・ザイラという者に届けました。もう着いている頃ですかね」 


「おいおいアル・ザイラって英雄騎士じゃねぇかよ!!!どういう繋がりだテメェ。戦争でもしろってか!!」


 レオルが水晶奪還の難易度の高さに声を荒げる。


「それは秘密です。さっ、新しい呪いをかけるならかけて下さい」


「プリメラかけてやれ」


「クソが!!全部テメェの思い通りになると思うなよ!キモロン毛野郎が!!」


「また会いましょう」


 ガージ大森林での水晶奪還の一幕が終わる。

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