第三章2 『潜入』
「――――悩んでいるか諸君!!悩みは素晴らしい!悩みがあるから人は成長する!悩みのない人生など退屈で仕方ない。悩みを乗り越えるため、人は考え行動する。ただ茫然と生きるな、ただ受動的に生きるな、ただただ生きるな。それもある意味正解かもしれんが、それにしたって人生は長い。ここにいる諸君は志のある者達だと思っている。希望の炎に薪をくべ続けろ!時には休め、だが必ず立ち上がり前に進め!より良い世界のために一緒に戦って行こう!!諸君の明るい未来を心から願っている!!第六英雄騎士アル・ザイラからは以上だ」
祭壇に立ち、関係者含め総勢五百人の前で演説しているこの者に、盛大な拍手が送られる。髪は赤く、黄金色の目をしている齢三十程に見える壮年だ。極め付けの特徴は頭に二つ生えている犬の耳の様な物だ。リヒフェルスト王国は亜人の割合が四割を占めるが、亜人の社会的地位はそれほど高くはない。迫害の歴史もあり、人による差別意識は潜在的な所にまだある。そんな中、アル・ザイラは戦果を上げ続け、約三十年ぶり二人目の亜人の英雄騎士となり、亜人の社会的地位を格段に向上させた功労者だ。
この日は、リヒフェルスト王国の戦士育成学校の入学式。そこにニックはいた。
(アイツがアルって奴か。早速、会えて幸先がいいな。後は接触して、ロン毛野郎から貰った手紙を渡せれば、水晶を貰えるはず)
ニックは白い制服に身を包み、プリメラの力が封印された水晶を奪還するべく、学校に潜入というより入学していた。
「これにより、入学式を終了します。各教室にお戻り下さい」
英雄騎士の代表挨拶をもって、入学式が終了する。
―――― ニックは、高揚していた。初の一人任務ということもあるがそれだけが理由ではない。学校とは、今の世間の普通とは、無縁の世界に生きていたからだ。どこか憧れていた世界に任務とはいえ、今いるのだ。ただ現実はそんなに甘くない。ここは、学問だけを学ぶ場所ではない。血気盛んな若人が集まり、自国を守るために戦闘のノウハウと技術を学び、能力の向上のために来ている。過去を振り返り、良い思い出だったと将来の自分が思えればいいが、ここは青い春を謳歌できる場所ではない。
そして、誰でも入学できるわけではない。学校の定める魔法・魔術・体術の一定の基準をクリアしなければならなく、若くして才能のある者しか入れないのだ。魔法と魔術が全く使えないニックは、驚異的な身体能力を持ってして入学した。
「――――マイケル・フォードです。よろしくお願いします」
(なんかしっくり、こないなぁ)
ニックの自己紹介が終わる。ニックの偽名マイケル・フォード、レオル考案だ。ちなみにニックは、この偽名をあまり良く思っていない。
「これで全員の自己紹介が終わったな。ここのクラスを担当する、竜隊隊長のジェイコブ・ガンチャードだ。訓練期間はかなり短く半年。この短い期間で君たちを立派な兵に育て上げる。そして近隣諸国では、戦闘の火種が燻っている。非常事態宣言が出れば、戦地にも赴いてもらう。今この時より我が国の兵士となったと思え!!それでは、今現在のリヒフェルスト王国と近隣諸国との情勢を説明する」
クラスは四クラスに分かれており、魔法が得意な者、魔術が得意な者、体術が得意な者、そして入学テストで極めて優秀な人材と見なされ英雄騎士直々に特訓を受けられる特待クラスに分かれていた。もちろん、英雄騎士が付きっきりという訳ではない。そして、各クラスで優秀な成績を上げれば特待クラスへの編入の可能性もある。
(あいつ、どっかで見た事あんな。。あっ!!ハジテッド村で指揮とってたやつか!!)
ニックは、ジェイコブを見てどこか既視感を覚えていたが謎が解けた。ニックが右腕を切り飛ばされた日にハジテッド村で魔獣を相手に隊の指揮をとっていた人物、それがジェイコブだ。
竜帝ライオス・アレキサンダーに引けを取らない程の上背があり、筋肉も隆々だ。短い黒髪で大木の様に太い身体は一度見れば印象に残りやすい。
各クラスを担当する教師は、リヒフェルスト王国でも屈指の実力者である。ジェイコブは、竜帝ライオス・アレキサンダーの隊に所属している隊長である。通り名は、怒りのジェイコブ・怒号のジェイコブ・雄叫びのジェイコブ・怪力のジェイコブ・バーサーカージェイコブと、穏やかな印象を一つも持たせない通り名を持っている。実際、ジェイコブが教室に入ったときのクラスのざわつきと緊張感は凄まじかった。だが、体術特化のクラスとなれば彼ほどの適任者はいないだろう。ニックの壮絶な訓練生活が今始まる。




